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35.

 今までとは打って変わって静まり返るダンスホールをルルドールは一人、ゆっくりと歩みを進める。歩く度に長めのブロンドはサラサラと後ろになびき、白い上着が翼のように彼の背後でふわりと広がる。それは地上に降り立った大天使のように神々しく、道をあける者たちは知らずと頭を下げて彼を見送った。


「ほら、やっぱり現れたじゃないか。じゃあ、邪魔者は消えるよ。幸せになるんだよ、アビゲイル。」


 耳元でクライブがささやき、女王の肩をぽんとたたくとその場から去っていった。アビゲイルとルルドールの距離は次第に縮まり、彼はとうとう女王の目の前までやって来た。



 ……そして歩みを止めたルルドールは女王の足元にひざまづいた。愛を乞う為に……


「私はラドハルト国第三王子、ルルドール・ファサーと申します。イール国女王陛下、どうか私と結婚してください。未来永劫、貴女だけを愛し抜くと誓います。」 


 凛とした声が部屋中に響く。ルルドールはまっすぐ女王を見つめたまま、手にしていた白薔薇を彼女の前に差し出した。その様子を皆が固唾を飲んで見守っている。心なしか差し出された少年の手が少し震えているように見えた。



 それから一体どれほどの時が過ぎたのだろう。辺りはしんと静まり返り、まるで時間が止まってしまったかのように、誰も動く事が出来なかった。


 美しい女神のようにたたずむ女王に、純白の衣を身に纏い、愛を乞う大天使。今、この瞬間が人々には美しい一枚の絵画のように見えたのだった。そして、その沈黙を破ったのはアビゲイル女王本人だった。


「コツン」


 女王は一歩ルルドールに近付き、口を開いた。ルルドールがこの6年間ずっと聴きたいと思っていた、美しい声が少年の耳を優しくくすぐる。


「ラドハルト国第三王子、ルルドール・ファサー殿、あなたの愛を受け入れます。」


 アビゲイルは白薔薇を受け取り、その一本をプラチナブロンドの髪にさした。その瞬間、周囲からは大きな歓声と割れるような拍手が鳴り響いた。立ち上がったルルドールに女王も自身が持っていた白薔薇を渡し、その一本を手ずから彼の胸ポケットに差し込んだ。


「ようこそ、イール国へ。私のルルドール!!」


 女王は少年を抱き寄せた。しかし彼はアビゲイルが知っている彼ではなくなっていた。既に背丈は彼女を超え、逞しい体はスッポリと彼女を包むことが出来た。アビゲイルは抱きしめるつもりが逆に抱きしめられ、ルルドールの胸に顔を埋める形になった。


「ルル、立派になった。」


「……ア、アビー様!僕は貴女に逢ったあの日からずっと、ずっと貴女が好きでした。愛しているんです!ああ、やっとここまで来られた。やっと言えた!!」


 少年の瞳には涙が滲んでいた。グスンと鼻をすするルルドールを女王は笑いながら、そっと指で涙を拭ってやった。

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