31.
ルルドールと別れてから6年、二人は頻繁に文のやり取りをした。お互いの近況を伝えあうのが目的だったのだが、少年からは毎回、文の最後に早く会いたいだとか、側にずっといたいだとか甘い言葉で締めくくられており、その内容はまるで恋文のようだった。それは衰えることなく、むしろ、年を追うごとに熱烈なものとなっていった。
その文を見るたびアビゲイルは安心した。彼の周りには自分より若く美しい姫君たちが大勢いる。しかしルルドールの関心は自分だけに向いているのだ。だが、ずっとこのままの状態でいられるとは限らない。あの国王が大切な息子を政略結婚させるとは考えづらいが、国内の情勢なんて、いつどうなるか分からないことをアビゲイルは身をもって体験している。『早く少年を我が物にしなくては』女王はそう思った。
そして、もう一人。女王と同じ、しかし彼女より数十倍強い想いをルルドールはアビゲイルに抱いていた。
しかし、あと少しでルルドールが成人を迎えようとしていた矢先、既に26歳を過ぎていた女王に、とうとう痺れを切らした大臣たちから、彼女の婚礼に関する決定事項が伝えられた。
それは、隣国の未婚の王子達の中から女王の花婿を迎えようとするものだった。しかもそれを計画したのは宰相ガロン・ロックフォードだったのである。
「女王陛下、陛下はもはや以前の陛下ではありません。在位して10年、陛下はイール国民からも諸国からも認められた、れっきとしたイール国の王です。しかし、いつまでも独り身のままでいるわけにはまいりません。お世継ぎの問題をなんとかしなければ、国が乱れる原因ともなります。ですから、アムダルグ帝国のソルシアン殿下かユノール国のクライブ殿下の双方どちらかの御仁と結婚していただきます。既に両国には知らせを出しておりますゆえ、今さら無しには出来ません。よろしいですね。」
とうとうこの日が来てしまった。イール国の未婚の女性は早くて16歳、遅くても20歳までには嫁いでいく。だから26歳といえば、子どもが2、3人いてもおかしくない年齢になる。したがって、今年26歳で未婚のアビゲイルが『行き遅れ』であることは否めない。
本来ならシーザーと結婚するばずだったが、20の時にその婚約者も失ってしまった。それから6年。のらりくらりとガロンの話をかわしてきたが、さすがに限界が来たようだ。
「判った。では、その話、ラドハルト国にもしてみてくれないか。」
「はい?ラドハルト国といえば、第二王子のジェイル殿下ですが、殿下には既に婚約者がおいでになります。ですから、我が国に婿入りするのは無理かと……」
「……もう一人いるであろう?」
「え?……ま、まさか第三王子のルルドール様ですか!?あの方はまだ子どもではありませんか?確か15……」
「いや、もう16歳だ。」
「しかし……陛下とはいささか歳が離れすぎてはおりませんか?」
「たった10歳だ。問題ないだろう。それにこの大陸の四大大国のうち、ラドハルト国にだけ告知しないとなると、後々問題になろう。もし、第三王子にその意思が無いのであれば、仕方ないが、婚姻できる成人の男子がいるにも拘わらず、除外したとなればイール国の信用にも関わるぞ。」
『うん、我ながら良い言い訳だ』女王は心の中で自画自賛しながら、渋る宰相に力説したのだった。そして必ずルルドールが来る事を確信して、ラドハルト国王にも『花婿募集』の話を流した。アビゲイルは申し出がいつ来ても、すぐに必要書類が届けられるように手配を怠りはしなかった。
案の定、ラドハルト国からの申し出はすぐに来た。女王はその日のうちに早馬を走らせ、必要書類をラドハルトまで届けさせたのだった。




