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29.

 シーザー・ロックフォードと婚約していた4年間でアビゲイルは女王として飛躍的に成長した。疫病で壊滅的な被害を被った自国も内外ともに安定した。国民にも以前のような笑顔が戻り、新生イール国は順調に回復していった。そして若く仕事熱心な女王は国民に支持され、近隣の国々からも高く評価された。


 しかし、女王がこの4年間で成長したのはそれだけではなかった。16歳だった少女はいつの間にか匂い立つような 美しい20歳の女性に姿を変えていた。それは蛹から羽化した蝶のように周囲の人間を魅了した。


 滝のような流れ落ちるプラチナブロンドの髪は、幾度となく領地を巡回している内に日焼けした、小麦色の肌によく似合っていた。そしてゴールドに光輝く瞳はこの国を明るく照らす太陽のようで、色づいた唇からは明るい笑い声が漏れる。女王アビゲイルはイール国民にとって生への喜びの象徴だった。


 また、女王は気軽に民たちに声をかけ、彼らも自然にそれに応えた。今まで国民にとっての 王族は、神聖で近寄りがたい存在だった。それは長い歴史の中、不変の真理だったのだが、新王になった彼女は早々と、彼らとの垣根を難なく取り外してしまったのだった。   


 こうしてアビゲイルは女王としての地位を着々と築いていった。もはや、前王の弟を王座につかせようなどと思う輩もいなくなった。そうなれたのも、シーザー・ロックフォードとの婚姻の約束がこの4年の間、彼女を守ってくれたからであった。


「シーザー、おまえにはロックフォード家の嫡男として、この国を守る責任がある。アビゲイル女王陛下と婚儀を挙げ、陛下を支えていくのだ。」


 宮廷に呼ばれたシーザーは、ガロンから女王との婚約が告げられた時、一瞬だけ顔を歪めたが、すぐに静かにそれを受け入れた。病で倒れて以来、体力は戻らなかった。彼は自分の死期が近いことを悟り、いくら苦しくても少しでも長く生きることを心がけた。それが、イールの為に彼が出来る最大の使命だった。命が尽きる直前までシーザーは生きることを諦めなかったのだった。


 そして、シーザーが亡くなってもうすぐ半年となるある日、隣国であるラドハルト国から招待状が届いた。それは第三王子、ルルドール・ファサーの10歳を祝う為のものだった。


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