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27.

 六年ぶりに間近でルルドールを見たアビゲイルは彼の成長に目を細めた。『あんな小さくて可愛かったルルがこんなに大人になって……』女王は妖精王子と出会った時の事を思い起こした。初めてルルドールを見たのは6年前、彼の誕生日を祝うためにラドハルト国を訪れた時だった。


 シーザー・ロックフォードが亡くなったため、婚約者だったアビゲイルは半年間喪に服した。そろそろ本格的に政務に戻ろうと思った矢先、この招待状が届いた。相手はあの抜け目ないラドハルト国王からだ。何か裏があると勘繰りながら参加したのだが、この男、どうやら純粋に息子の誕生日を祝いたかっただけのようだ。


『なんという、親バカなんだ!』普段の彼からは想像もつかないデレぶりに、女王は拍子抜けしたが、折角来たのだから有名な『妖精王子』でも拝んでから帰国しようと思ったのだった。


 アビゲイルが治めるイール国は『武』の国でもあった。その為か、生まれつき向いていたのか、彼女も剣を扱うのがとても上手だった。幼い頃から優しい兄が剣の相手をしてくれたので、そんじょそこいらの剣士など、あっという間に倒すことが出来た。毎日アビゲイルは早朝に剣を振るう。凛とした朝の空気が好きだったからだ。彼女はラドハルト国に来た翌朝もいつもの日課を行う為、明け方になると城の中庭に向かった。まだ暗い空がゆっくりと明け始める。自国とは違う風景を美しいとアビゲイルは思った。

 

 女王が一息吐き、そろそろ剣の稽古を始めようとしたその時、美しい庭が続く小路の奥から歌声が聞こえてきた。『こんな朝早くから、一体誰が歌っているのだろう?』アビゲイルは好奇心から剣を鞘に戻し、緑の小路に踏み入って行った。


 歩みを進めるうちに小路は生け垣で出来た、迷路のように何本もの分かれ道を造り、そう易々と目的地まで女王を導いてはくれなかった。アビゲイルは歌声だけを頼りにこの迷路を進んでいく。歌声は次第に近くなり、辺りもだいぶ明るくなってきた頃、小さな噴水のある美しい広場が見えてきた。聞こえてきた歌はその噴水に腰かけた一人の少年が口ずさんでいたものだった。


 朝焼けが少年を照らしだした。美しい金髪がキラキラと輝く。ピンク色の頬には笑みが浮かび、彼の愛らしい歌声に小鳥たちが寄って来て肩や手に止まる。青い瞳はどこまでも澄みわたり、この世でただ一つしかない貴重な宝石の様だった。


 「ごくん」


 アビゲイルは唾を飲み込んだ。自分は今までこんな美しいものを見たことがなかった。容姿だけではない。小鳥をいとおしそうに撫でる仕草に彼の慈愛に満ちた心を感じたのだった。


『この少年が欲しい!』


 アビゲイルは今まで感じたことない渇望感に自分でも驚いた。まだただの王女だった頃、アビゲイルにも夢があった。それは自国で好きな人と結婚して父や兄を支えて生きていく事だった。イール国王は子供たちに政略結婚をさせる気は全くなかった。自身も大好きな幼馴染みの少女を相思相愛で娶っていたからだ。


 そんな母もアビゲイルが12の時に帰らぬ人になってしまったが、父王は死ぬまで母一人を想っていた。死してもなお解れる事のない、二人の絆に彼女は憧れを抱いていた。しかしその夢が崩れ去ったのは疫病がイール国を襲った時だった。彼女は父と兄の死で自分の人生が大きく変わった事をすぐに理解した。


 アビゲイルは16歳の時、王位を継ぐ事になったが、実は裏では当時亡くなった父王の弟にあたる、ローダスが王座を狙っていた事も知っていた。彼は父王の腹違いの弟で、なにかとよからぬ噂が付いて回る、いわゆる出来損ないの弟だった。16歳の少女に野望はなく、この叔父がまともな人間なら喜んで王座を譲っただろう。しかし、今、男にこの国を託したら、間違いなくイール国は滅んでいくだろう。アビゲイルはこの国を、国民を愛していた。


 父と兄の後ろ楯もない小さな少女は考えた。自分の地位を盤石にする為に今、必要なもの。答えはただひとつ。それは、俗にいう『政略結婚』だった。

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