26.
舞踏会のホールに向かうルルドールの後ろにクリストファーが影のように従う。彼の衣装もアニスが特注で作らせた物でデザインはほぼルルドールの服と同じだが、黒地に銀糸が使われていた。それは長身の彼によく似合い、黒髪と黒い瞳の男は妖精王子のガーディアンそのものだった。その後を二人の美しい令嬢が付いていく。廊下ですれ違う人々はこの一行をポカーンと口を開いて見送った。
広間の扉が開かれる。中は先程と同じように優雅な音楽と人々の笑い声が聞こえてきた。
「じゃあ、行くよ。」
後ろに従えた仲間たちに一声かけてルルドールがホールに入って行く。談笑していた者もルルドールを見るなり、目を見開き彼に道を開けた。彼らは即座に彼が何者かを察知したようだった。
照明が反射し、キラキラと光る黄金の髪を脇に流し、前髪を上げ、形の良い額を出せば端正な顔立ちが露になる。混じりけのないサファイアの瞳はけぶるような長い睫毛で覆われ、憂いを帯びながら輝いた。通った鼻筋に桜色の唇。彼は美の女神に愛された少年だった。
しかも身に纏う衣服は今まで見たこともない、美しい礼服で彼の魅力を大幅に高めた。イール国のシンボルである鳳凰の刺繍が金糸で縁取られた襟元。袖と裾にも同じ刺繍が施されている。白く光沢のある生地は彼が動く度に金髪と共に光輝いていた。
人々は妖精王子の聞きしに勝る容姿に唖然とし、ただただ彼の行動を見守っていた。いつの間にか楽器の演奏すらと止まって辺りには水を打ったような静寂が広がっていた。気が付けば、人並みは両側に綺麗に分かれ、一本の道が出来ている。その先に見えるものは……『アビー様!!』ルルドールは立ち止まった。側にはクライブもソルシアンもいたかもしれないが、ルルドールにはアビゲイルしか見えなかった。
「ルル。」
アビゲイルの口許が告げる。まだ遠くにいるのにルルドールには、はっきりと聞こえた。
後ろで控えていたクリストファーがそっと彼の背中を押す。ルルドールは意を決してゆっくりと歩き出した。
「コツン コツン」
ルルドールの靴音だけがホールに響く。一歩踏み出すごとに二人の距離は縮まっていく。
「コツン コツン」
アビゲイルと分かれてから沢山勉強をして、色々な知識を身に付けた。
「コツン コツン」
もう誰にも理不尽な事をされないだけの武術も知恵も身に付けた。
「コツン コツン」
この六年間、アビー様に逢いたいのをずっと我慢してきた。僕が成人するまでは。僕が貴女に釣り合う男になるまでは。
「コツン コツン コツン。」
ルルドールは歩みを止めてその場にひざまずいた……




