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しかしさー、アニス。人なんて、そんなに簡単に信じられるわけないよー。それがフツーなんじゃないの?」
「え、そうかしら?」
「僕なんかさ、10歳までに5回誘拐されて、7回強姦されそうになったからね。そりゃ、さすがに人間なんて信用出来なくなるって。」
「ええ!?……ごめんなさい。私、何て言ったらいいか…」
「あ、違う違う。大丈夫。何にもされてないから。でもさ実を言うと、あんな目に遭ったのに、僕がまだきれいな体だって事が自分でも不思議でならないんだ。ふふふ。」
ルルドールは今までに何度も危ない目に遭ってきている。中には命の危険に晒される事もあったが、その都度、目に見えない力が働いているかのように彼は危険を回避することが出来た。
「明るく言わないでよ。もう、トラウマになってると思って心配したのに。」
「ごめん、ごめん!……ねえ、僕らってずいぶん前から友だちだった気がしない?」
「あ、そういえばそんな感じがするわ。でもよくよく考えると私ったら、ラドハルト国の王子様になんて無礼な事をしてるのかしら?」
「はあ!?今さら~?」
「ぷっ!ふふふふ」
二人は顔を見合わせて笑い合った。
「ところでさ、アニスにお願いがあるんだけど……」
「何かしら?ルルドール様の頼みなら何でも叶えてあげたいわ。」
「ありがとう、アニス!!実は……」
ルルドールは 『輝け!第1回妖精王子城内潜入方法検討会』で決定した作戦を少女に打ち明けたのだった。
「何それ!面白そう!!いいわ。協力する。」
アニスは楽しそうに言った。
「あと、もう一つお願いなんだけど、僕ら友達だよね?だから僕の事はルルって呼んでよ。ね?」
その言葉にアニスは少しほほを染め、はにかむようにコクンと頷いた。ルルドールの小首を傾げてのお願いはこの少女にも効果抜群だったようだ……
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「じゃあ、まず最初にルル様が私に変装するために必要なアイテムを用意しないといけないわね。」
アニスが必要な物を紙に書いていく。いつの間にやらカサンドラも参加して女子会よろしく話は進んでいった。その合間にアニスはメイド長にメモを渡し、あれこれ指示を出す。
「カツラと瞳用のガラスレンズは明日までに兄たちが調達してくれるわ。靴とドレスは信用できる仕立屋が今日の午後には来てくれるそうよ。口は固いから安心していいわ。」
「アニスさん、凄い!手際がよすぎるわ!うちの宿屋に欲しいわ!」
カサンドラが感心しながらちゃっかりスカウトまでする。
「ふふっ。だてに引きこもり歴が長いわけじゃないのよ。我が家の図書室にある本は諸国の言語、情勢、経営学から兄たちがこっそり隠したいかがわしい本まで、全て読破したわ。おかげで隣国の言葉は全てマスター出来てるわよ。商人は諸国との取り引きをする際にその国の母国語を用いる事が多いのよ。皆、自国の言葉を話されれば悪い気はしないものでしょ?」
この世界には大きな大陸が3つあり、その中で一番大きいのが、ラドハルト国やイール国があるこのネガール大陸だ。ネガールの南側には海に面している、イール国とアムダルグ帝国、中央から北側にある巨大な山脈の間にラドハルト国と ユノール国がある。言語は500年程前に一般的な公用語として、4国間でネガール語が作られ普及したが、王族や貴族たちはそれぞれの母国語も大切にしていた。
その他、小さな独立国がちらほら点在したが、合併したり分裂したりで国として形成されてはおらず、巨大な山脈は一年中、雪と氷に覆われていて人間の力では頂上までたどり着く事は不可能だった。それに昔からの言い伝えによれば、神に近しい者たちが暮らす神聖な場所だとされていたので、あえて近づく者もいなかった。
「アニス、君って本当に凄いなー!ラドハルト国に来ない?」
「二人ともありがとう!でも、私はお母様みたいな良妻賢母になるのが夢なの。あ、これ、内緒よ。」
アニスは微笑みながら答えた。その日からアニスは憑き物が落ちたように穏やかになり、皆の前に姿を現すようになった。そしてすっかり打ち解けた二人は昔からの親友のような、同士のような、姉妹?のような、そんな関係になった。よく『男と女の間に友情は存在しない』とか言うが、そうでもないとルルドールは思ったのだった。




