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12.

 斬り合いが終わった時、二人は返り血を大量に浴びていた。一先ず、憲兵を呼びに行くクリストファーにシャワーを浴びさせ、彼が憲兵を連れ帰る間にルルドールも体を洗い、着替えを済ませた。


 なんとか殺されずに済んだ男は拘束されて部屋の隅に転がされていた。男はこの悪魔のような少年と二人きりにされるのが心底怖いようで、ルルドールと目が合うとぶるぶると震えだした。


「ふふふ……大丈夫だよー。もう何もしないよ。あ、でもさっき白状したこと、憲兵に言っちゃだめだよ。そうしないと、君、ロックフォードに殺されちゃうよ。これはあくまでも、ただの物盗りってことで。いいね?」


「は、はい。分かりました!」


 何もしないと聞いて、男は少し安心したのか、強ばって緊張した顔からは安堵の色が見えた。『まあ、どちらにしろ計画は失敗したわけだから、君が憲兵に何を話そうが、ロックフォードに始末される可能性が高いけどね。』妖精王子は妖精らしからぬ事を心で思いながら、しっかりと男に口止めをしたのだった。


 クリストファーは憲兵を連れてすぐに帰ってきた。夜中だというのに、憲兵がすぐに駆けつけてきた事にイール国の治安の良さが判断できた。ルルドールが宿泊した宿は年老いた夫婦が一人娘と共に経営していたが、 夜盗の襲撃後、これだけの騒ぎがあったにも拘わらず、宿屋の主と妻子は姿を見せていない。


 憲兵が部屋を捜索したところ、地下の物置から、ぐるぐる巻きにされた三人が発見された。眠っているところを襲われて、なにがなんだか分からないまま、納屋に放り込まれたらしい。賊の顔を見ていなかったので殺されずに済んだのだろうと憲兵たちは話していた。幸いにも客はルルドールたちだけだった。無関係の人間が犠牲にならなかった事にルルドールはほっとした。


 実況見聞の為にルルドールたちの部屋に来た三人は陰惨な有り様に息を飲む。死体はすぐに憲兵たちに片付けられた。しかし、至るところに血が飛び散り、窓を開けていてもむせ返るような生臭い悪臭が鼻につく。


「みなさんがご無事で本当に良かった。夜盗に襲われたとはいえ、こんなに部屋を汚してしまい、申し訳ありません。これは私たちからのお詫びのしるしです。どうか受け取って下さい。」


 ルルドールは美しい笑顔を浮かべて金貨5枚を宿屋の娘に手渡した。あまりの美しさに娘は彼を見つめたまま、ぽかーんと口を開き、されるがままにそれを受け取った。 



 まだ乾いていない髪からは水滴が首筋を伝い、ザックリと着た白いシャツから覗く鎖骨に流れてゆく。その恐ろしいほどの色っぽさに娘だけでなく、その場にいた憲兵たちも、はたまた、クリストファーまでもが惚けたようにこの少年から目を離せずにいたのだった。そして、いち早く正気に戻った宿屋の老人があわてて尋ねた。


 「も、もしかして、あなた様は妖精王子のルルドール様ではございませんか?」


  どこにいてもルルドールの容姿は目立ちすぎる。だからこの道中の間、黒いフードのついたマントを着用し、人目につかないようにしていた。特にイール国に入ってからは、トラブルに巻き込まれないよう、交渉などは全てクリストファーに任せ、人との接触を一切取らなかった。


 ルルドールはもはやラドハルト国だけの妖精王子ではなかった。その人気は隣国にまで拡大しており、彼を一目見た他国の貴族達が情報を持ち寄り、無断で肖像画を描かせるほどだった。そして、その姿絵はどういうわけか周囲の国々に行き渡ってしまった。どんなルートでそんなに出回ってしまったのか、さすがのルルドールでも解明できなかった。それは『お尋ね者かよっ!』と突っ込みたくなるほど、瞬く間に庶民の間にまでも浸透したのだった。


 しかし、こうなってしまったら、隠しようがない。彼はクリストファーが憲兵を呼びに行っている間に、この先のシナリオを変更し、実行に移した。まさか、クリストファーまで他の者達と共に惚けるとは思っていなかったが……。『クリストファーは後でおしおきだ!』心の中で少年は思ったのだった。


「はい、私はラドハルト国、第三王子のルルドール・ファサーです。」


 ルルドールは王子らしい優雅なお辞儀をして挨拶をした。


「きゃああああー!!」


「うおおおおー!!」


「ほおおおおー!!」


「くううううー!!」


 宿屋の娘、憲兵、老夫婦……そしてクリストファー!?が揃って黄色い声を上げた。ルルドールは冷ややかな目でこの護衛の騎士を見つめるのだった。そして、宿屋の家族と憲兵に向かって話始めた。


「ここだけの話、今回はちょっと訳があり、誰にも気付かれないように、入城したいのです。どうか、皆さんのお力をお貸し頂けませんか?」


「あっ!!もしかして、ルルドール様はアビゲイル女王様の花婿候補としてこの国においでになられたのですか!?」


 宿屋の娘が瞳をキラキラと輝かせながら尋ねてきた。憲兵たちもルルドールの返事を待っている。


「はい、そのつもりでここにいます。できることなら私はこの国で、女王の側で生きていきたいのです。」


きゃー!と娘が、うおおーと憲兵が興奮しながらまた叫んだ。あの、妖精王子が我が国の人になる!!……かもしれない。


「だから、僕の味方になってくれますか?」


 小首を可愛く傾げながらルルドールが『お願い』をした。皆、首がもげるんじゃないかというほどコクコクと頷いたのであった。

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