11.
「……おい、本当にいいのか?」
「は?何が~?」
「何が~?じゃないだろっ!本当にランド公爵の所には寄らなくていいのかよ?王様の命令なんだろ?俺、知らないからな!!」
二人は今、最終目的地である、アビゲイルのいる城を目指していた。そう目指していたはずだった。フツーの王子と護衛の騎士として…
『王都に着いたら、必ずランド公爵の別邸に立ち寄るのだぞ。トーマス・ランドは私の古い友でイール国で一番信頼できる男だ。既に必要なものは全て用意してくれているはずだ。
こうなったら、是が非でも女王との婚姻を勝ち取ってこい。ただし、忘れるでないぞ。この婚姻を喜ばない者がいるという事実を。それをいかに上手く諸国にもそして、我が国民にも納得させられるかがおまえに与えられた課題だからな。
ふふふ……どれどれ、可愛いルルがどれだけ成長したかを兄達と共に拝見しようではないか。さあ、おまえの力を見せてみよ。』
旅立つ前、父王が言った。ラドハルト国は軍事力に乏しく、近隣諸国からは狙われやすい。しかし、外交面ではどこの国にも負けることはなかった。力では負けてしまう国の欠点を頭を使って乗り切って来たのだ。それが穏やかで争い事を好まないこの国が永い時を生き延びてこれた大きな武器だった。
だからあらゆる『下調べ』を怠ることはなかった。諸外国の情勢から国王、王妃の趣味嗜好や王子、王女の婚姻、はたまた台所事情までどんな小さな情報でも取りこぼすことなく拾い上げ、取引の材料にしていた。
ある意味、ラドハルト国王であるこの男こそ、最も敵にはしたくない相手なのかもしれなかった。そして、そんな彼の血を長男のアルドも次男のジェイルも色濃く受け継いでいた。しかし、そんな『切れ者達』だが、この末っ子が可愛くて可愛くて仕方がないのか、ルルドールが係わる事柄に関してだけは、全く『切れてない!』状態を周囲に披露していた。
話は戻るが、今回の襲撃は完全にルルドールを狙ってのものだった。賊の一人からロックフォード侯爵の名前は出たが、証拠の無いまま彼を追い詰めることはできない。しかも彼はイール国で最も力を持つ貴族で、アビゲイル女王の死んだ婚約者の父でもあった。しかし、ロックフォードは真面目な男だったはずだが、何故花婿候補のルルドールを襲ってきたのか?ロックフォードの後ろにはもっと大きな敵が潜んでいる気がしてならなかった。
父王からは必ずランド公爵のもとに立ち寄るように言われていたが、彼に危害が及ぶ可能性がある為、事件の全容がはっきりするまでは彼と接触するのは避けたかった。ランド別邸は城のすぐ側に建っていたが、結局会わずじまいで入城する事になった。(何故か王子らしからぬ風体なのだが……)
「だって、しょーがないじゃん。今、公爵のとこに行ったら、絶対巻き込んじゃうし、こんなことぐらい、一人で解決できないようじゃ、父上に笑われちゃうよ。それに、そんな器のちーさい男がイール国で最も気高く美しい女王の夫になんてなれないでしょ?」
そんな話をしている二人は今、馬車に乗っている。しかも、馬車の中にいるのは誰が見ても王子と護衛の騎士ではなく、裕福な商家のご令嬢とその付き添いだった。ご令嬢はブラウンの巻き毛で(ズラだけど)、緑色の(ガラスレンズを入れた)瞳、身長は女性にしたら少し高め(男性にしたら低め!)だか、実に美しい、まさに絶世の美女だった。エスコート役は大柄の若い男で髪は(染めて)金髪で瞳は(ガラスレンズを入れた)グレーの端正な容貌をしていた。
「お、おい!声色まで変えるなー!キモい!!」
「えー?だってぇ~、わたしは今、花も恥じらう16歳の商家の令嬢だしぃ~」
「うぇぇぇ~」
「なに?ちょっとひどーい!!いつもは僕の仕草に『うっ!』とか言って股関押さえてるくせに!!あ、そうか!君、女には反応しないんだ!変態ホ……」
「ちがーう!!」
ルルドールの言葉に被せるようにクリストファーが全身で否定する。
「俺は変態ホモじゃなーい!普通に女が好きなんだーー!!てか、本物の女が好きなだけだ!!大体、なんでこんな格好しなくちゃならなんだよ!?」
「だーかーらー、何度も説明したでしょ?僕らの行動は見張られてるって。きっと出国時からずっとね。すんごく優秀なクリストファーくんがまーーたく尾行されてた事に気付かないくらいの手練れだよ?」
「うっ!」
騎士・クリストファーは返す言葉もなく、慌てて窓の外を眺めるのだった……




