10.
ガタン。下の階がなにやら騒がしい。異変が起きたのは真夜中のことだった。複数の人間が階段をかけ上がる音がして彼らの部屋の前で止まった。
「……おい、ルル」
「ああ、気付いてるよ」
クリストファーは眠る時にはいつも傍らに置いてある剣に手を伸ばす。ルルドールも剣を取りそっとベッドから立ち上がった。そして二人はいつ襲われてもいいように身構えた。ガチャリ!ドアの鍵が開けられ、勢いよく剣を持った男達がなだれ込んできた。ルルドールは瞬時に敵の数を把握すると壁で背中を守り、クリストファーに言った。
「……僕はこっちの二人の相手をするから、後はよろしくね。」
「え?後って……五人もかよ!」
「ふふふ、君ならあっという間でしょ。それに、こんなところで怪我出来ないから……全員殺しちゃっていいよ、…クリス。」
ルルドールはいつもここぞという所でクリストファーを愛称で呼ぶ。それはいつもの可愛いおねだりの時ではなく、絶対命令を聞かせる時にのみ使われていた。
「……御意!」
ルルドールの命令にクリストファーの顔つきがガラッと変わる。それはまさに暗殺者の顔だった。そしてルルドール自身もブルーの瞳に妖しげな光を放ちながら二人の敵を見据えて言った。
「……私も君たち二人が死ぬまで相手をしてあげるよ」
窓から射し込む月明かりが上半身裸の若い男を照らす。金色に輝く髪は肩にかかり、月夜の彼はまるで冥界の死神のように妖しく、美しかった。二人の刺客はそんな彼に気圧され、動けずにいた。その間にもひとり、ふたりとクリストファーが刺客を斬り倒していく。さんにん。男の一太刀ごとに、死体が増えていく。よにん……ごにん。
二人の刺客も意を決してルルドールに斬りかかった。キィィン。剣のぶつかる音が響いた後に、ザクリッと肉が裂かれる音がして、今まで隣にいた仲間の男が声もなく倒れた。
「ひ、ひぃぃぃー!!」
最後に残された男が悲鳴を上げ、床にへたりこんだ。見渡すと床には仲間の死体がゴロゴロと転がっていた。チャキッ。耳元に冷たいものがあたる。恐る恐る目だけを動かして見てみると、それは血塗られた剣だった。男は恐怖でブルブルと震え、命乞いをした。
「お、お願いですから、ど、どうか殺さないて下さい!」
「うーん、どうしようかなぁ。」
ルルドールは男にあてがっている剣を引き抜く。ザク。耳朶に鋭い痛みが走り、血が流れ出た。
「うわぁぁぁー!」
男が悲鳴を上げる。
「ああ、うるさいなー!私が静かにしてあげようか?」
「す、すみません!も、もう叫びません!」
耳から血を流しながら男が必死に懇願する。クリストファーは黙って主のやる事を見つめていた。こういう時のルルドールは非常に冷酷だった。幼い頃、何度も身勝手で傲慢な人間達から理不尽な扱いを受けた。それに立ち向かうようになったのは、彼が10歳の時だった。力でねじ伏せられ、与えられた恐怖や屈辱を彼はけして忘れてはいなかった。力にはそれ以上の力で、恐怖にはそれ以上の恐怖でそういった人間を押さえつけた。もはやルルドールには、恐れる物は何もなかった。
「で、どうする?死にたくない?生きていたい?」
クリストファーでさえ、鳥肌が立つような寒々としたサファイアの瞳が男を射る。男は何度も頷いてみせた。
「ん~、じゃあさ、今から10数えるうちに誰に頼まれたのか、私に教えて。でも早くしないと死んじゃうよ。」
「そ、それは……」
「1…2…3…」
「い、言えません……」
ルルドールの剣に力が入り、耳が裂かれていく。
「ぎゃぁぁぁー!」
「ふふふ、ほら、早く答えないと、耳、無くなっちゃうよ。4…5…6…」
ルルドールがまた剣を構えた。
「うはぁっ、ロ、ロックフォード侯爵様です!!」
ダラダラと血を流し、恐怖に歪んだ顔で男が叫んだ。




