出会い
「気にすんな。ありがとな、お前これからも頑張れよ。」
先輩達はそういって引退していった。
普は何も言えなかった。
(俺が悪いんだ・・・。)
ノーアウト、フォアボールでのランナー。
これがきっかけだった。
相手チームの打線が爆発。
盛り上がる中野原の三塁側スタンド、
泣き出す青波一中の一塁側スタンド。
先輩たちの夏は終わった。
それから普はスランプに陥ったのだ。
ストライクが決まらない、
フォアボールばかり出す、
打たれてしまうストレート…
マウンドの上の普にあの大炎上の記憶がよみがえる。
「普、不調か?」
チームメイトや監督にも気付かれていた。
(もうだめだ・・・。)
(投げられない。)
普の苦痛は日に日に大きくなっていった。
そんな時、普に転機が訪れた。
青波一中に新しい監督が来たのだ。
その監督は、放課後の部活の時に初めて普たちの前に姿を見せた。
四十代後半と思われるその男は、上下ジャージに野球のスパイクをはいていた。
白髪交じりの短髪に青波一中の古い汚れた野球帽をかぶっていた。
その日、普はいつもどうり投げ込みをしていた。
まだあの日から気持ちが切り替えられていなかった。
相棒の背番号二、伊藤一史が声をかける。
「普ー!!まだストライクきてねぇぞ!!落ち着いて投げろよー!!」
解ってる。解ってるけどうまく投げられないんだ…。
「もう一発なげてみぃー!!」
一史はそう言って返球してきた。
「あいよー!!」
普がそう言って投げようとしたその時、
「お前、名前は?」
その男が声をかけてきたのだ。
「荒木普。」
普は少しむっとして言い返した。
練習の最中に余計な事を言ってこられるのは誰であろうと大嫌いだった。
そんな普にお構いなしに男は言った。
「お前、今スランプだろう?」
はっとして前を向いた普に男は笑いかけた。
「もっと力抜いて投げろ。肩がガチガチだぞ。」
普は一史に向って投げ込みを再開した。
(力を抜いて、力を抜いて・・・。)
パシンッという心地よい音と共に、ボールがミットに収まった。
それを見て男は
「いいぞ。お前はいいピッチャーだ。自信もて。」
そう言って去って行った。
茫然と立っている普とは裏腹に、一史はこの時気付いていた。
「あの男、きっとタダ者じゃねぇな。」




