アウトローに学ぶ異界生存戦略.74
私はビックホースと共に安宿の部屋から出ると待ち構えていたかのようにカーマがいた。
「監視の者はどうした?」
「宿の入り口で待たせてあるよ」
宿から出ると呆然と突っ立っていた兵士にカーマが声をかける。
「二人を連れてきましたよ。お疲れ様」
カーマが肩を叩くと兵士はすっとぼけた顔をして、「はぁ、お呼びがかかっているようです」などと話し出した。
「カテドラルでの官位授与が行えなかったので、新たな枢機卿にご挨拶をということで――」
「大王自ら行ったのだ。今さらだろう?」
私の言葉もあまり耳に届いていないようだ。
後頭部をさすりながら困惑しているとカーマが同様の事を兵士に問う。
「はぁ、そう言われましても……」
ついてきてくださいと言って歩いていく兵士に、ビックホースと顔を見合わせる。
「ビックホースさんはお呼ばれしていないようですね」
「私とお前で行くのか……」
カーマはネクロパレスでの一件以来どうにも雰囲気が変わったようだ。
ぼけっとしていたと思えば、怯えたように部屋に籠り続けていた。かと思えば見下すように王都からの使者を扱い、私には魔法の扱いを乞う。
あの礼拝堂であった場所。
作り変えられ、一人の人間を手厚く葬るための墓所となっていた場所。
私のよくない予感を無視して奴は棺を開けて気を失った。
あったのはただの乾燥した死体である。
それ以上でもそれ以下でもない。
だが、確かにアレには生理的な嫌悪感を感じたのだが……。
「ビックホース。お前はあの馬小屋にいる兵士に一応伝えてから行動をしておけ」
監視がいない状態で出歩くのは不味いとは思う。
「置いていきますよ」
兵士の後を着いていきだすカーマの後を追いながら、部下にはあまり動きすぎないように釘を刺しておく。
今の状態で危険を冒す必要はないだろう。
たしかに直ぐにでも帝国軍に帰還して敵地で起こりつつある変化を報告すべきだとは思う。
しかし、戻ったところでヤーラカーンを陥落させる算段は未だついてすらいない。
地下迷宮の件もある。
ヤーラカーン国の心臓を一突きすることが出来る情報が欲しいのだ。
呼吸する暇すら与えず、滴り落ちる血に身体を溺れさせるような何かが……。
国というのは厄介だ。首を切り落としてもまた生える。筋肉とも言える各機関や軍が勝手に動くことすらあり得る。
その眼を潰し、耳をそぎ落とし、五感を封じてから滅ぼすことが最も非現実的だが理想の倒し方だ。
被害を最小限に抑えたいには何処も同じである。敵は一国ではないのだ。
この鈍重な国という肉体。国の命というべき首脳部。そして抵抗する力を全て一度に絶つことが望ましい。
ブリュータス帝国は未だに大陸内に敵が多い。
国を肉体とし一人の人間と考えるならば、我がタイタニアの血肉を分けた兄弟たちは未だに財産たる大陸を奪い合っているのだ。
だからこそ。
だからこそ、欲するのだ。現状を打開するための外部の力が。それがこのヤーラカーン国の領土である。
この大地に眠る財を用いて兄弟より一歩でも先んじる事が肝要である。
自分の命や人生など、所詮は自由にできないのだと私は思う。
いくら好き勝手に生きようとしても、しがらみから逃れられない。
私は笑った。
逃れられぬとしても私は私である。
腰には魔法銃、頭には魔法の知恵。
私一人の手で出来ることなど平時はたかが知れている。
だが、この地においては私は他者(他のタイタニア人)よりも先んじているのだ。
カーマがこちらを振り向かずに言う。
「――ラダ・バ・コスタ」
この大陸の海を取り仕切る自治都市群であると聞いている。
「その巨帯都市は大陸各国の均衡を保つ上で重要な役割を担ってる」
そして、と続ける。
「各国の争いに対しては中立を保っている」
「それが?」
「主要な船舶の数でも大陸一」
「三千の兵で攻め落とすつもりらしいな」
「八方美人で二枚舌で、甘い汁を吸い続けている」
カーマが何を言いたいのか分からないため黙り、その言葉に耳を傾ける。
「本当に中立なのか?本当に金で動くのか?それを見極めようと思ってね」
振り返る。その表情は笑っていた。しかし、目は笑っていない。
「プレゼントを送ったので反応を確かめに行きましょう」
私は嫌な予感がした。




