アウトローに学ぶ異界生存戦略.75 鎖の棘
朽ちた思考。
身の毛のよだつような目にあった中、ヤーラカーンの最高位神官としての座を得た。
あの狸爺を直接引きずりおろすことは出来なかった事が口惜しいが、この椅子の座り心地には変わりはない。
部屋内に入る二人の新たな神官。
一人はマダイラの地の、一人は敵である国の人間。
知らぬはずがなかろう。
敵の捕虜であることを恥じず、頭を垂れ、自尊心の欠片もない卑しい人物。
部屋に入る前から品性の欠片もない足音を響かせ、扉の閉めかたすら覚束ない。
この敵国人、名すら偽らなければならないという辱めを受けている。
もう一人の人物。神聖なる血族の若い男。
私から見ても気品ある青年である。
何かこう……人を惹きつけてやまないような……。
足並みを揃えて立つ姿を見やる。
異人のその不躾な視線にうんざりする。
私という目上の者に対して余りに失礼な眼差しに、その目玉を狸爺ドゥーランのようにくり抜いてやろうかとも思う。
対面の席に座る様に促すも用事を急かすばかりで座ろうともしない。
私が誰だか分かっていないのだろうか?
そもそも私が呼び出したわけだから理解が出来ていないはずもないのであるが。
「私たちは大王様より直々に官位を頂戴致しましたので――」
マダイラの神官は任務に就くのでお早めになどと生意気にも口を利いてくる。
その物言いは一見礼儀正しいが内容は無礼極まりない。
あの幼い大王には礼を尽くし、私はそれに値しないとでもいうのだろうか?
ただの生意気な小僧のその物言いに私は年甲斐もなく、はらわた煮えくり返るかと思わんばかりに頭に血が上ってしまい激昂してしまった。
「いいから座りなさい!」
私らしくもないと思いつつも何故こうも怒りが込み上げてくるのか理由も分からぬまま、椅子にふんぞり返りながらも着席せよと命令を下してしまった。
「そこまでおっしゃるのでしたら」
カーマと言ったか。
若き神官が座るとその横の席に異邦人が座った。
「ウィルダム様は今回の中立都市群への出兵に対し、どのようにお考えでしょうか?」
「ん?ああ、大変遺憾なことだと考えている」
「中立を装いながらヤーラカーンを内部から侵略しようという言うのは、私も大変憤ります」
「何だと?そんな事が……」
「おや失礼。新たな枢機卿様はまだ知らされていないようでしたか……」
狸爺には知らされていたのか。
それなのに新たな教団をまとめる私に話が通っていないだと?
内から込み上げてくる感情に動悸が激しくなる。
「そ、それで君たちは何をしてくるのだ?」
「私等はヤーラカーンを代表して都市連合に降伏を勧めに行くのですが……」
困ったような顔をしている。
まさか、これも私にはまだ伝えられていない情報なのか?
「なぜ大事に君たちのような新米が向かうことになるのかね?他にも適任者はいるだろうに」
「ドゥーラン枢機卿が向かう手筈でしたが、何分不幸がありましたので……」
「ドゥーラン"元"枢機卿が向かうはずだったのだな?」
「ええ」
あの狸爺のことだ。何か手立てがあったのだろう。
都市連合内部では既に降伏することが決まっており、こちらに伝わっていたのかもしれない。
それでいて敵だと一旦思わせておいて直ぐに併合するのか?
大陸一の海洋軍隊が跪くとなれば、我が国民の意識は自ずと無血開城だと大王の威光の戦勝だと騒ぐだろう。
そう。このような新米が行ってくるとしたら手柄は大王の物だろう。
しかし、都市連合の民は知っているのか?
知らぬだろうな。一部の大商人が私兵の海軍の損害を出さずにヤーラカーンに鞍替えするのだ。
大金が動いているだろう。
都市連合出身の民や兵士は敗者としてヤーラカーンの国民に蔑まれるだろう。生まれ故郷に誇りを持っているのであれば許さないだろう。
だからこその秘密裏の商談か……。
それに狸爺も一枚噛んでおり、都市連合を降伏させた手柄は神の物だと、そしてその神の意思を伝えた私だからこそだったのだという考えだったのだろう。
私はほくそ笑んだ。
狸爺が得るはずだった名声。大王派は死んだドゥーランに代わり大王に手柄を立てさせようというのだろうが……。
私がそれを許すはずもない。




