アウトローに学ぶ異界生存戦略.73
「それでお前は何をしてたんだビックホース……」
王都内の安宿にてビックホースと再会。
安宿から見える場所に掘立小屋が建てられており、そこから馬が顔を出していた。
他にも忙しなく動き回り馬の世話をするゴブリンの姿が見える。
肌は隠してあるが、その背格好からは卑しさがにじみ出ているようだ。
その近くに一人兵が立っていた。
監視だ。
「馬の世話と情報収集」
部下は部下なりにこの一週間余りの間に動いていたのだそうだ。
「少尉。この王都内の大まかな地図と主な兵舎の場所……」
彼はローブを脱ぎだすと裏返し、そこに染め上げられた図形を見せた。
「この点を中心に……」
次に木の机を裏返し、そこに掘られたあべこべな線。
「組めばいいのだな?よくやった」
ビックホースは衣服を脱ぐとその浅黒く恰幅の良い腹に真新しく入れられた入れ墨を見せてきた。
インクを手に入れるために刺青を入れに行ったのだそうだ。
余計に金を払って染料を手に入れ、監視の兵にバレた時の言い訳用に彼の衣服にも適当な紋様が描かれていた。
「これで全部です」
私は砂を石の床にばらまきそれで図を描き始める。
それぞれは意味のないような点と線の集合体であったが、目印となる点を中心に図形と線などを組み合わせるとベリュンヒルダ内の簡易な地図へと変わった。
「ふむ。覚えておこう」
本来なら羊皮紙でもなんでもに書き記しておきたいがそうもいくまい。
監視がついているのにビックホースは良くやった方だ。
「毎日、監視はされているが自由に使える金は食料分はもらえていた……」
それよりも、とビックホースは街の各所に指を刺す。
「ここには行商人のキャラバンが多く来るようで特に目についたのは弓や弩です。数は少なかったのですが輸入品の様です。店に出回っているのは高額で、貴族の所有する傭兵たちなども少数が持つのを確認しただけでした」
ゴブリンが帝国領で現在も使われている様なクレーマ蔓の毒矢を使っていた件から想定はしていたが、交易商の商船が入り込んでいるのだろう。帝国の商人と決まったわけではないがあまりいい気分はしなかった。
「他にも連弩や大型弩砲などが運び込まれているのを確認しました。パーツの端が人力車から見える程度でしたが、この国に横流しをしている者がいるようです」
帝国では軍隊以外での銃火器の所持を制限し、類する物でも処罰等を行っている。それにより武器商人は新式兵装以外の量産体制に入っている銃などは競争相手に勝つために安く売らなければならない。古い防衛兵器などは金のない街や低級貴族の守護する領内くらいしか買わない。
商人を圧迫したらこうくるのも分かっていた事だ。
「幸いなことに銃や大砲は見ていません……」
「あってたまるか!軍でもまだ数が足らんのだぞ!」
大型の投石機などはそもそもあるのか?
それは彼らの元々持っていた武器なのか?
などと色々とまだ知るべきことも山積みだ。
布で石ころを包んだだけの投石器でも彼らの投擲力なら威力は十分だろう。それが小型の弩砲でも与えてみろ。
考えるまでもないが、彼らが馬も使わずに台車にでも乗せて弩砲を引きずり回す姿が容易に想像できる。戦車に乗せて運搬するような使い方をそこらの兵士が軒並みできるのだ。
そもそも彼らは弓や弩を知らなかったという事は、今までの歴史では必要なかったという事だろう。
投擲だけで十分という事ではないか?
石。槍。剣。盾。
持つものをすべて射撃武器としてしまう事を脅威ととらえない事がおかしい。
「地下の様子は?」
「地下?」
ビックホースは地下迷宮の事は調べがついていないようだ。
彼には悪いが、彼の調べたことは焼け石に水にしかならないだろう。
我々だけで何とかできる事でもない。
最悪の場合、教団に属しでもする魔道具の職人がいた場合は彼らに銃に匹敵する武器を与えることになる。
今でも魔法武器の価値というのは変わらない。魔法が不得意なタイタニア人や多種族、また手札としては持っていても良い物なのだ。
その技術が肉体的に優位であるが魔法の進歩が遅い彼らにでも渡ってでもしてみろ。我々の文化の優位性がすこぶる損なわれるであろう。




