アウトローに学ぶ異界生存戦略.61
周囲で未だ気を失っている冒険者の介抱のために何人か残し、ショーイの姿に驚く時間も与えぬまま俺たちは城内を進む。
散らばって探すことは俺が止めさせた。
物陰に隠れていたジョアルはその大柄な体格で既に満身創痍のショーイを担ぎ上げ、ショーイは生きていたダレスから渡された気付け薬に口を付けるとすぐさま青みがかった液体を吐き出した。
「それで礼拝堂はどこに……?」
ダーヴィルの問いかけに答えられる者はいない。
「外の生き残った奴等に他に何か無いか探させればいいだろう。私はもう動く気にはならん」
ショーイがジョアルに担がれながら応えた。
「まだこの奥には何があるか確認していないのですよね?」
ダーヴィルの指差した先、大層な装飾がされた扉があった。
考えたところでいまさら探す場所を選んでいる時間はない。
もたもたしていたらまた魔物が湧いてくるかもしれないのだ。
「ジョアル。行くぞ……」
ショーイがジョアルの肩を乱暴に叩く。
ジョアルはその禿げ頭にしきりに汗を掻いた後、観念したように扉へと向かった。
「ショーイ様のあのお姿は……」
ダーヴィルが俺に問いかける。
俺もその場限りの嘘を吐くことに嫌気がさしていた。
しかし、この場で彼の立場を悪くする気は起きない。
「魔法使いさ」
答えになっていない。答えになっていないが、ダーヴィルは「そうですか」と頷くとそれ以上追及してはこなかった。
ジョアルが扉を両手で押し開く。
そして二人が中へと入っていく。
やがて一際大きな声でショーイが声を振り絞るように叫んだ。
「こっちに来てみろ!」
そういわれ駆けよると――。
俺は部屋の周囲を見回した。
石柱に支えられた天井。そこにはありとあらゆる天使の姿が描かれていた。
装飾華美な部屋、並べられた椅子。
祭壇には聖なる火が神々しく輝いていた。
その光を反射するように扉の反対側の壁は鏡面づくりとなっていて、中に入った俺たちの姿がそこかしこに映し出されていた。
祭壇のさらに奥に――。
一つの棺があった。
「嫌な予感がする。アレに近づいてはいけない……」
そんなショーイの言葉を無視し、俺は棺に近づく。
ダーヴィルもジョアルも自重しているが、棺をまるで我が子のように見つめている。
俺もそうだ。
あの棺の中、あそこには何か尊い御方が入っている。
その意識が、俺を前に進ませる。
神性の宿った棺。俺にはそう見えた。
だが、その棺の蓋に俺は手をかけて今にも開けようとしている。
「カーマ!聞いているのか!?」
ショーイの言葉に何の感情も抱けない。
ただ、今はこの棺を開けなければならないような気がするのだ。
早く。
早く開けて差し上げなくては――。
腕に力が入る。そのまま力任せに、それでいて丁重に。棺の蓋を取り外そうと力を込める。
蓋は軋む音すらださずに素直に開いた。
――これは出してはいけない。
中にあったのは。
――こんな尊い人を出すわけにはいかない。
清らかな透明さをもった衣を、その身に纏った遺体。
その顔は綻ぶように笑っていた。
その胸の上に組まれていた手がピクリと動いた。
――これは死んでいてなお生きているのか。
その痙攣する手を見る。
手が痙攣する。
遺体の手が。組まれた手が。
ピクピクと痙攣し。
一粒の石ころが這い出てきた。
それは、俺の胸へと弾丸のように飛んできて、心臓を突き破った。