アウトローに学ぶ異界生存戦略.62
――ぱちり。
瞼が重い。
――ぱちり。
磨りガラス越しに風景を見ている様な曖昧で、色が動く様子しか感じられない。
――ぱちり。
私は今何をみているのか。判別できない。
――ばちん。
瞼を閉じるとすべてが暗闇の中に戻る。
――ぱちっ。
片方の瞼を開ける。
――ぱちっ。
もう片方の。
――ぱちっ。
もう片方の。……ん。
今のが三つ目。私は違和感を感じ一つ瞼を閉じる。
――ばちり。
風景に目を凝らす。次第に薄霧のかかった視界が鮮明になっていく。
俺は天井に張り付いていた。
首を動かそうとするが動かない。手足も動かない。ただただ冷え切った城の温度が感じられる。
なんとか身動きを取ろうとする。
体には命令を出しているはずなのにピクリとも動きやしない。
俺は唯一動かせる眼球を端から端まで懸命に動かす。
俺は混乱しているのだ。きっとこれは失神などをしている間に見ている夢なのだ。
視界の中に蠢くものが映る。
男だ。地面に横たわる他の男を介抱している。
いったいこれは。
さっきまで礼拝堂にいたはずなのだ。あの棺の中の――。
棺の中?
そうだ。完全にこれは夢である。
はっきりとした意識があるので明晰夢であろう。
私は夢から覚めるために瞼を閉じた。
――ぱちり。
夢から覚めない。
――ぱちり。
これは夢だ起き上がれ!
ありったけの力を込める様にして瞼を強く、強く閉じて……。
その力みを解放するように全ての瞳を開けた。
――ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちっ。
眩暈がする。くらくらする視界のなかで、複数のビジョンがひしめき合う。
脳髄に許容範囲を遥かに超える視覚情報が入り込む。
その中で、私の目と目があった。合った。在った。
私の目と。
目があった。
眼球がじろり。瞼がぱちり。黒目の瞳孔が散瞳する。
驚きながらぱちくり。
焦りながらぱちぱち。
完全に混乱した俺は視線をありとあらゆるところに伸ばした。
壁。床。天井。柱。植物。
ありとあらゆる場所に自分の目がある。
眼球が眼球が眼球が。
目まぐるしく目まぐるしく右往左往する。
その視界の中に俺がいた。
ダーヴィルに背中から胸のところに腕を通され、腕を組んでしっかりと固定しながら外に引きづり出していく。
礼拝堂から。
礼拝堂の中を見られるような俺の目は……!
あそこの尊い人はどうなったのか!?
手を組み静かに眠っていたあの御方は!
ああ、なんて御可哀想に!
手から変な遺物が飛び出て、その御手は破損してしまったのだろうか?
俺は集中し、礼拝堂の中を見る『俺の目』を探した。
これは違う。
――ばちん。
瞼を閉じる。
これも違う。
――ばちん。
これもこれも……。
そして遂に礼拝堂内を見ることの出来る目を厳選した。
どれだあの棺の中を見られるのは!
一つ一つの目に意識を集中する。
そして棺の中を見ている目を見つけ、それらだけを残して他の瞳を閉じた。
――ばちり。
棺の中にあったのは――。
薄汚れたミイラであった。
神聖さの欠片もない。ただ忌避感が感情として残るだけの死体。
綺麗な衣装を着ていたが、これは何も尊くない。
――ばちん!
すべての瞳を閉じ、意識を保つことを放棄した。




