アウトローに学ぶ異界生存戦略.58
俺の身体中に刺さる。
背中から――ぞわり――と撫でられるように。
頭から――のっそり――と見下ろすように。
それは誰かからの視線。
俺はこの視線が誰の物なのかの検討が粗方付いている。
朽ち果てたような城内。見た目とは全く違う音がする。
――コツコツコツ。
――コツコツコツ。
――カツンッ!
「うわあああッ!」
吠える俺にダーヴィルたちの心配そうな眼差しが刺さる。
刺さるのだ。
俺はダーヴィルたちを追い越すように急ぎ、ダレス等先行者の下へと急ぐ。
扉に触れる。
じっとりと汗ばんだ手。
無機質な扉を開くその手には嫌な感触が残る。
――バタン!
勢いよく扉を開けその奥へと進む。
――コツコツコツ。
――コツコツコツ。
――コツコツコツ。
――カツンッ!
足を止めてはいけない。足を止めてはいけない。
足音が響くのを気にしないようにしても気になってしまう。
俺が今歩いている場所は……。
喧騒が響いてきた。
この先、この先にダレスたちがいる。
早く早く早く。
知らせねばならない。
この先、左右に階段がある先。
扉が開かれている。
開かれた扉の先から唸るような叫ぶような泣きじゃくる様な声が響いてくる。
「カーマ様!我々が先導しますから!」
ダーヴィルに肩を掴まれるも振り払う。
そんな暇はないんだ!
足音が耳障りな音を立て、視線が。
視線が四方八方から俺に纏わり付く。
無機質な瞳。無機質な感情。
そのすべてがまだ安心できることを俺に伝えている。
しかし、だからといってこの場所に長く留まる事など出来ない。絶対に嫌なのだ。
――カツンッ!ゴッ!
一瞬疼いたのが分かる。この城が!生きている城が!
目をキョロキョロと目まぐるしく、視線を城の中の所々に移す。
大丈夫大丈夫。
まだまだまだ……。
焦りと不安から俺はここが生きているなどと妄言を吐いているのではない!
しかし、このことを話すことは出来ない。
気づかれてしまう。
ダレス等の突入部隊と分断されてから数十分。その間に全てが決着してしまっているかもしれない。
だとしたら俺が今ここにいるのは間違いだ。
早くここから出なければ。
俺はダレスの安否よりも、早くこの城から撤退する判断材料を血眼になって探していた。
風も吹いていないのに、正面の扉の横にかけられたカーテンがふわりと揺れる。
罠を疑っていた俺には最悪の前兆だ。
だがダーヴィルたちが俺の言葉を簡単に信じてくれるだろうか?
恐ろしく研ぎ澄まされた神経により恐慌状態となり、状況判断が出来ないのだと思われるだけで終わってしまいそうだ。
一瞬でも気を緩めれば気づかれてしまう。
もし俺がこのことを知らせたら彼らは俺を外に行くように言ってくれるだろう。
真実を知っているのは俺とこの城しかいないのだから。
あるいは知らせたことで逃げ道を塞がれるかもしれない。
自分でどうにかできる気が全くしない。
願わくば、さっさとこの場を自然に立ち去ることが出来ればいいのだが。
だが、ダンジョンから抜け出すことはどうなる?
幸運に恵まれ何かの理由で抜け出すことが出来ても、このネクロパレスにはコイツがいるのだ。
王都ベリュンヒルダも安全とは言い切れないのではないだろうか……。
俺は感じ取ったのだ。だから、聖地を奪還することでショーイの言うとおりダンジョンの異界化が元に戻ることを確実ではないにしても望むしかないのだ。
扉の前に来た。
ダレス等を探し出したらさっさとここから出て聖地の場所を探そう。
大丈夫きっと見つかる。
ダレスを呼んだ。叫んだ。返事をしろ!
扉の先には突入部隊の者たちが至る所に倒れ込んでいた。
その中央、フラッシュが何度も焚かれたように光る場所。
二つの生き物が光の中で苦しみもがいていた。




