アウトローに学ぶ異界生存戦略.56
呪文を紡ぐ口元。
振り上げる指先に集まる偉大な魂と知能。
その発光は迸る永遠の世界の真理。
「汝に永久の安らぎを」
神の秘術は地獄の底から這い出てきた悪魔さえも優しく包み込む。
魔の力のマナへの融解。
この世に満ちる全ての霊魂を沈める光はあらゆる呪術使いや魔呪師にとっても天敵である。
その光球は周囲に波紋を広げながら力を伝搬する。
衝撃波と共に広がる光の輪。
意識を失っていた冒険者を組み伏せる様に拘束していた低級アンデッドのスケルトン程度なら、余波だけでその不浄の身体から魔力という魔力が消し飛ぶ。
幽鬼はその冒涜的な瞳を一瞬だが潰され、呻き慄いている。
『もはや生かす道理はない』
幻聴の中に奴の言葉が聞こえた。
今までは手を抜いていたというのか。小癪な。
私は魔法殺しの光球を複数中空に出現させる。
瞬間、それぞれが独自の軌道を描きながら対象に向けて発射される。
幽鬼は恐怖の権化のような雄叫びと共に滑空しながらも避ける。
そして、奴の近くより火柱が起こる。中からは騎士姿の魔物を出現させ、解呪の光が着弾。
魔物の内側より光を発しながら目や口、ありとあらゆる隙間から漏れ出でる光が魔物を消滅させる。
その滅んだ魔物騎士の剣を手に持ち、左回りに私に向けて飛行してくる。
獲物を狩る鷹のような。魔物が消滅する衝撃に、身に纏ったローブを棚引かせながら剣を振りかぶる。
私は手札を切る。
私の姿が一瞬消え、次の瞬間後方へと転移する。
そして私が腕を振り下ろすと同時に、私の周囲に現れた炎の槍が飛ぶ。
それに合わせる様に幽鬼も地面すれすれに飛び、向かい飛ぶ炎槍を潜るとその姿を消し去った。
標的の消えた位置に突き刺さる何本もの炎槍。
私が視線を四方八方に泳がせる。
奴は私の真上にいた。
どす黒い血管を思わせる光を放つ剣を振りかぶり、私の脳天目掛けて振り下ろす。
瞬間移動の術を発動する時間はない。
他の術も今からでは詠唱に時間を取られる。詠唱なしでは威力が想定できない。
不死者を削るだけでは足りんのだ。一撃のもとに消し飛ばさなければ……。
私は魔方陣が描かれた布切れが巻かれた腕を幽鬼に向けて差し出す。
手札を切っているのだ。
「生の恐怖を思い出せ」
私が過剰に魔力を注いだことで布に描かれた魔方陣は鋭い光と共に崩壊し、正しく結実しなかった魔力が私の周囲に飛び散る。
私の中で嵐の中のように恐怖と不安が高波、引く波となって襲いくる。
だが、私の視界の中で同じように悶える者がいた。
幽鬼だ。
奴の中途半端な生は、この苦しみに耐えられるのか?
いいだろう度胸比べだ。
私は崩壊していく魔方陣に更なる魔力を注ぎに注いだ。




