アウトローに学ぶ異界生存戦略.55
私は今、狂っている。泣き叫んでいる。許しを請い、のた打ち回っている。
地獄にいるのだ。
地獄がどのような場所かなどくだらないことは聞いても意味がない。
地獄とは永遠の苦しみ。永遠の断罪。永遠の――。
そこで私がフーガ・コートリー少尉としての自我の欠片を取り戻した。
しかし、このままでは自分をまた見失ってしまう。
私は布きれに魔力をぶち込み、それを耳栓とする。
流れ込んでくる集音魔法により集められた原音そのままの爆音に私の耳が機能不全を起こしそうだ。
そうだ。こんな時のために……。
自分の腕に巻かれている布きれの一枚を掴む。
これだ!
魔力を流し込むと私の中に恐怖という恐怖を集めたような感情が流れ込んでくる。
その身は強張り委縮する。
しかし――。
その恐怖にかき消される様に死神の声が遠のいていく。
私は今自分に精神不安を呼び起こす呪文を施したのだ。
精神浸食で精神浸食を軽減する。
それは『死への恐怖』に武者震いをする戦士に『生きる恐怖』を齎す。
死する恐怖に打ち勝つことなど求めてはいけない。原初の感情に逆らってはいけないのだ。
必要なのは――。
恐怖に飲み込まれぬことだ!
死への恐怖は生きたいという望みがあるからこそキラリと心に突き刺さる。
ならば生とは、生きる事とは何かを身を持って感じる必要がある。
死と生。裏返しのどちらの概念に対しても恐れを抱く。
それは激情ではなく、狂熱。
狂おしいほどの『生と死』。逃れられぬ運命。
それは恐怖という感情を越えて愛おしささえ生まれいずる。
触れてしまうと壊れそうな二つの概念は、お互いに寄り添う形で完全な物となる。
陰陽の蕩ける様な存在は不変で不滅。
その存在両方に挟まれ、両方を実体験できることの喜び!
私は世界に祝福されている!
ならば私のこの恐怖という感情は、"恐れず"そして、"怖がらず"に享受すべきなのだ!
私は飛び起き、相対する存在を注視する。
生者と死者。
いや、アレは哀れな半端者だ。
祝福を受け入れられず、ただ"生"も"死"も拒絶する愚か者。
――愚か愚か愚か!
魔力が沸き立つ。私の中の魔力という魔力が沸騰し、今にも溢れてしまいそうだ。
――私が今、貴様に真の安寧を授けてやろう!
私は、その身に巻いた魔方陣の描かれた布きれの一枚一枚にいつでも発現できるように魔力を通わせる。
――その存在に祝福を!幸福の円環へと還してやるのだ!
私はちっぽけな生者として、その尊大に構える存在に世界の理を教えてやらねばならないのだ。
生きる者は何れ死ぬ。そして死した後、世界のマナへと還元される。
そしてマナはまた命に宿る。
そう、全てはたった一つの輪廻。
終わりのない世界の真理、その物なのだ。




