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アウトローに学ぶ異界生存戦略  作者: 沖
1章 異世界で奴隷から神官、そして魔の者への扉を開く
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アウトローに学ぶ異界生存戦略.54

 大抵の生物が圧死するような巨大な壁が貧弱な四肢を消し飛ばさんと衝突する。


 亡者の声が、今の私の耳にこべり付く。

 あの声にも成らぬ呻きではない。激しく私の脳を揺さぶり、その声は私の心の中にまで入り込もうというのだ。


 この幽鬼(ワイト)の恨み、辛み、嫉み。

 めそめそした子供のような可愛げのある物ではない。

 人間のドブの様に薄汚れた感情の波が私の調子を狂わせる。


――何をコイツは恐れているのか……?


 時折、私の脳髄に染み込むように呪詛が流れ込んでくる。

 卒倒しそうな意識を保つのに私はナイフを手に突き立てた。


「死ねェェエ!」

 広いフロアだが壁か柱と挟んでサンドイッチにしてしまえば中途半端に肉体を持った異形の鬼は滅びるだろう。

 ハラワタをぶちまけながら消し飛べ、と言わんばかりに私は声を張り上げた。


 私の耳には呪詛が大音量で流れる。

 もう気が狂いそうなほどにだ。


 私の中の恐怖は次第に大きくなる。漠然とした恐怖が振り向けば死の香りに侵されてしまいそうなほどに。

 私の声は濁声となり、掠り声となりながらも鳴りやむことはない。


 今この瞬間に声を張り上げることで内なる恐怖を誤魔化そうというのであった。


――グチャ


 他の生物を巻き込みながらも尚も走り抜ける質量の化け物。

 私は、そのコントロールを絶対に手放すわけにはいかない。

 ナイフでさらに腕を斬りつける。


 その私の隣にアノ幽鬼(ワイト)がぴったりと張り付いていた。


 これは幻覚だ!


 そう意識しているのだが、私の手はわなわなと震え出しナイフを落としてしまった。

 幻視する恐怖の権化が私に語りかける。


『コッチを見ろ……』

 私の身体は金縛りにあったかのように強張り、その首は次第に幻の方へと向いて行ってしまう。


『私の目を見ろ……』

 私は抵抗することに意識を向けてしまい、激流の如き魔法生物の統率に乱れが生じ始める。

 瞼を瞑りたいのに瞑れない。

 見たくもないのに視線は次第に幻の幽鬼(ワイト)の瞳へと向けられてしまう。


 そして、その瞳には映っていた……。


 私に"死の香り"――最上級の精神浸食――を、心の傷として刻み付けた"アノ"死神が。

 

――悪夢のような場所であった。所々から瘴気が吹き出し、墓地には埋めきれずに積み上げられた死体の山々があった。


――全ての命という命は刈り取られていた。


 そこにいたのだ。あの死神が……。


――そこにいたのは死体の山に真新しい死体を積み上げている死神であった。黒衣を纏った長身で猫背の何者かが死体を担ぎあげては積み上げていたのだ。


――その腕は枯れ木のように痩せ細り、炭のように黒ずんでいた。その顔が(・・・・)こちらを向こうとしている。


 私は!私は!

 違うこれは私の記憶ではない!

 こっちを!こっちを見るな!


――深淵から生まれ出でた絶望を齎す闇の死神。その顔がその顔が……。


 見るなぁああああああああああああああああ!


――『次はお前だ』


 次に私の耳に入ったのは自分の金切り声であった。

 狂いもだえ苦しむ自分を客観的に見てしまっている。


 その場に倒れ込むように、そして痙攣しながら口から泡を吹く。

 興奮冷めやらぬ。

 私の気違いじみた声が張りつめていた魔法の現界を解いてしまった。


 私は気が狂い、今にも発狂死してしまいそうな自分に戻らねばならなかった。

 戻ることでこの客観視から狂いそうな苦痛に身を燃やされるとしても……だ。


 獲物を捕らえていた津波から私が転げ落ちていく。

 魔方陣への魔力供給が途絶え、その津波は壁にぶちあたると辺りに散らばって元の廃城に擬態していた物質へと戻っていってしまった。

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