アウトローに学ぶ異界生存戦略.49
――"死の香り"
それを初めて感じたのは、あの悪夢のような墓場の中であった。
私はまだ若く、魔法の体系化ではなく戦地でのアンデッドの発生原因やダンジョンの構造学など現地での現象の研究に勤しんでいた。
我々の調査部隊の踏み入った地は放置された墓地だった。
敵国の激しい抵抗が止み、急に戦線を大きく引き下がらせた。その理由を判明させるため一時戦地となっていた敵地の工業都市の内部へと向かった。
悪夢のような場所であった。所々から瘴気が吹き出し、墓地には埋めきれずに積み上げられた死体の山々があった。
何か流行病があったのか。
全ての命という命が刈り取られていた。
鼻から脳天に突き抜けるような吐き気を催す臭い。
腐り始めていた死体から出てくるガスが調査隊の我々の顔を嫌悪に歪ませる。
ただ事ではないのは見ればわかる。
その理由が不明であったのだ。
瘴気はダンジョン化するほどではなかった。
異貌化による魔物の発生も確認できない。
そして、家々の中にまで探索に入っていた時に奴が現れていたのだと思う。きっとあの時既に我が隊は奴に目をつけられていたのだ。
姿も音もなく調査チームの隊員たちが一人、また一人といなくなった。
気が付いたときには半数以上が何の形跡もなく消えていなくなった。
それに隊全体が恐慌し、工業都市であった地獄から抜け出そうとしていたときである。
私は、ふと嫌な臭いがして首を墓地の方へと向けた。
そこにいたのは死体の山に真新しい死体を積み上げている死神であった。
黒衣を纏った長身で猫背の何者かが死体を担ぎあげては積み上げていたのだ。
その腕は枯れ木のように痩せ細り、炭のように黒ずんでいた。
顔までは見えなかった。
しかし、それは不幸中の幸いであった。
顔を見なくとも判ってしまった。"死"に見つめられる感覚が当時の私からありとあらゆる希望という物を吸い取ってしまったのだ。
深淵から生まれ出でた絶望を齎す闇の死神。
私が今まであった中でも最上級の精神浸食という物か……。
アレが切っ掛けで私は、引きこもってしまったのだ。
それから"戦場"での不可解な事件への現地調査には絶対に行かないことに決めたのだ。
戦場には死神が群れを成してくるなどと言うが、あんな物が大量に現れた日には私は生きる気力さえ失ってしまいそうだ。
後日、第二調査隊が全滅。
アンデッドの魔物の発生と断定し、送られた討伐隊も全滅。
それが三度。
もはや手を付けられぬと調査と共に討伐すら中止され、その後長い間誰もあの都市には近づいていない。
敵国も手を出しては返り討ちにされていたのだろう。
戦線を下げたのは我々に対する奇怪な魔物の擦り付けだったのだ。
私は逃げ出したのかもしれない。だが、それを恥じるつもりはない。
危うきに近寄るべきではないのだ。
分かっていたのなら、直感でも何でも感じてしまったのであれば尚更。
私は引きこもった中でやはり実地調査が必要であるとは思い至ったが、得る物が少ない地であのような怪物に出会うかもしれない危険を冒すつもりは毛頭ない。
これだけは誰が何と言おうと曲げるつもりはない。




