アウトローに学ぶ異界生存戦略.48 囚われの身
馬鹿め。
馬鹿どもめ
「蛮族がッ!」
心中の激高を洩らしつつも手を止めない。
手をナイフで痛めつけ続ける。
幽閉された書架の中、半裸のショーイが辺り一帯を血に染め上げていた。
もはや顔を隠すよりもやるべきことがある。
左手の甲にナイフを斬りつけ、滴る血が新しいうちに何やら術式を書いている。
その横には魔方陣が途中まで描かれており、その完成を待ち侘びいている。
ショーイの脱ぎ去った衣服は何枚にも切り裂かれ、その一枚一枚に同じく法式が殴り書きされ、魔方陣が横に描かれている。
この者は異邦人だ。
異端の術を使う邪教徒だ。
俺たちは関係ない。
口々に叫ばれた末の内部分裂。止める術はあったのかもしれないが私はどうにもできなかった。
撤退成功を確信した矢先、私の顔隠しの頭巾は剥がされた。
私と蛮勇しかない者共との間には生きていてはならない者が立っていた。
――見知らぬ魔物だな……
声にもならぬ呻きであったが、間近で口元を見た私にはそう聞こえた。
不愉快だ。
下等な蛮族が私を魔物扱いだと……!
私もその顔までは恐怖で確認できなかったが、アレはそう……
なんだあれは?
死人にしては実体に強烈な死の香りが残り、幽霊にしては物質的すぎる。
幽鬼が近いかもしれないが人語を解するのは聞いたことがない。
それに一息に我々を全滅させずに、この生まれたての古城に招待までしてきた。
抵抗さえしなければ殺さないという事か?
言葉がほとんど聞き取れないがかなり危険な魔物だ。
「何か物はあったか!?ジョアル!」
私の問いかけに書架内の棚の一つから大男がその頭を覗かせた。
「いいえ!どれも塗り固められたかのように取れません!」
私は舌打ちをしてこの状況の打開策を練るために術式に文字を手で描く様になぞる。
知識を暗記まではしていないので、突然必要になったら勿論この有り様である。
記憶を辿り、必須文字を想起していく。
廃れている様な見た目の床に血文字はくっきりと残る。
そう、残るのだ。
棚にある本も埃が付いているように見えるだけだ。
ここにある物はどれをとっても誇りやシミ一つないのだ!
最初に中に入った時はさほど気にならなかったがこの書架に通され、どれ異国の知識を拝借と思ったところで気が付いたのだ。
それからは床から天井(ジョアルに肩車して手を着いてみた。)まで調べ上げた。
しかし、どこにも生活の痕跡、そして自然の齎す腐敗のどれも起こっていなかった。
汚らしいが新品の床は木の板のようで全く異なる材質のようでツルツル滑る。
血痕は思うように走らず悪戦苦闘しながら魔方陣だけでも完成させようとしている。
衣服はすべて既に使用目的が決まっているので使えない。ジョアルの衣服は汗を吸い込み過ぎていて使い物にならない。
血を少し寄越せといっただけで、書架内を逃げ回られて私はため息を通り越して頭から蒸気が出た。
護衛をしていたはずの者共は私がマダイラの神官でないと分かると、勝手に逃げ出してしまった。
少なくともここにいれば即餌食にはならんだろうと言ってやったのにだ!
「ジョアル!出口を見張れ!」
ここにいる事はばれている。というより奴に中にまで案内されたのだから見張る事の意味などないと思うが、もしもの時も考えられる。
奴が来るのをジョアルが見た途端に私が呪術式を未完成でも魔方陣に詰め込んでやるというのだ。
私は掌から手首まで痺れるような痛みを感じるもあのダンジョンマスターへの対応策を練ることに集中する。
このままでは、散らばったパーティ毎に血祭りにあげられる。
そう確信するほどの威圧感、というより死の香りをあの魔物に感じたのだ。




