アウトローに学ぶ異界生存戦略.47
気になったことは単純な事だ。
聖火の効果では戦鼠ぐらいの魔物になると既に効力が逆効果で、こちらの存在を気づかれるようになるようであり、虫除け程度にしかならないことは解った。
ダレスら冒険者の中にそのような知識を持った者はいないので、そもそも聖火を使おうという考えは今までなかったのだろうか?
それにしても薄暗いダンジョンで松明を使うなら聖火から火をもらった方が早いのは確かである。
罰当たりな事だろうか?
そこで知りたいのは廃寺院を安全地帯と足らしめる燭台の効果であった。
「燭台自体にはそこまで特異な効果はありません。盗難も考えられますし」
「といっても聖品であることには変わりはないんだろう?でなければ――」
「燭台の置いてある所には神殿より遣わされた聖格を持った聖職者による洗礼が行われています」
俺は一つの燭台をひょいっと持ち上げる。
怒鳴られると思ったが、意にも解さない様子だ。
「その置いてあったところを見てください」
燭台の下には焼印のような形で魔方陣が描かれていた。
「それが聖印です。それだけでなくこの廃寺院全体に祈りが捧げられているはずです」
祈りとは儀式の事なのだろう。
儀式とは即ち魔術に類する物。
しかし、俺というかヤヌ人の魔法使いの素質のある者は魔法に対して過敏な体質であるはず(ベリュンヒルダでの巡礼僧がショーイの魔力の高さを見破ったように)なのに特に何も感じない。
ダンジョンだってそうだ。瘴気自体がダンジョンの要素であり、ダンジョンは魔物を生成するため魔法のような現象が内部でおこっているはずなのだが俺はこの孤島の廃街を見ても何も感じなかった。廃寺院に近づいたところでも霧が深いとしか思わなかったのだ。
「はぁ、私には良く分かりません。しかし、聖格ではない物を判断できるのでしょうか?」
ここで魔力と聖格という言葉の意味が同じだとすると、魔法の残り香(魔力を意識せずに放出している者も含む)は感知できても、その元となるマナ自体までは感知できないのかもしれない。
「それに、この世界の全てには神性が宿っていることは神のお言葉より疑う理由のない事実ですが、その神性まで見えてしまいましたら神官様方はどの方も目を開ける事すらできないかと」
「確かに……」
神性がマナと同じ意味だとすると分かったような判らないような曖昧な印象だが、飲み込むことはできた。
魔力として生成された物ならば判断でき、その素材であるマナは見る事すらできないということか……。
とするとショーイが言っていた魔源流の判別方法が訳の分からないことになるが、何か方法があるのかもしれない。
そもそもショーイは魔法への過敏性が高いから俺は魔力を感じられると言っていたのか……。
するとまだ疑問が湧いてくる。
「そもそも聖地などはどうやって魔物を退けているのだ?」
カルナは俯いて考え込んでしまった。高位聖職者でもない彼女にはそこまで知る権利はないのかもしれない。
「知らないなら話を戻そうか」
「いえ、もしかしたらですが……。聖遺物と呼ばれる代物をマダイラの神官様方は知らないのでしょうか?」
「そのような事は――」
事実知らないのではあるが、一応言葉を濁しておく。
「いえ、失礼いたしました。これはヤヌ神への不信と捉えられても仕方がないのですが、大聖堂で聖遺物と呼ぶ何かの発掘に軍まで出して躍起になっている事がありまして、その時期が新たなダンジョンの発生と重なります」
「いや、こちらも余計な事を聞いて悪かった。そこまでにしよう」
カルナから推測を聞いていても仕方がない。これはヤンマ大王やイガ将軍に聞くべきことだろう。
生きて帰れたら、ではあるが。
それにブリュータス帝国でも同様にダンジョンを抑え込んでいるのだからショーイに聞けば良い事だ。
しかし、俺の一つの考えは不可能な空想に終わった。
魔物除けのエリアを移動させながらの探索であればかなり安全だと思ったのであるが。
しかし、聖域も同じように魔物を寄せ付けない造りになっているのであればショーイが聖域の奪還を提案した理由が判らない。
誰かが意図してこの混乱を起こしたのか……。
そして、その者が魔力を見ることが出来るとしたらショーイが先に見つかるのは避けられない。
「魔物は聖格を判別することはできるのですか?」
「魔物については私も詳しくありませんので……。すみません」
俺は手を振りカルナの委縮を解き、また新たな質問を投げかけたのであった。




