アウトローに学ぶ異界生存戦略.44
「お前は俺から全てを奪った!」
――友の声だ。
「俺はお前より上だ!」
――そんな言葉、聞きたくない。
混濁していた記憶が、その断片のみをはっきりと取り戻す。
私は私兵と共に、友を止めるために地下道へと向かった。
私の領地は阿鼻叫喚の様相であった。
寺院から出でる異形の魔物たち。そのほとんどは地下に潜んでいた鼠や虫だ。
異貌化による魔物化。私たちは普段遭遇しない事態に対応が後手に回った。
城にいた我々でさえ、そのあまりの数に抑え込むことに失敗したのだ。
そして元凶を討つべく地下に入り、友の造っていた礼拝堂で彼を見つけた。
その姿は狂う前の彼とは似ても似つかなかった。
その手足は痩せ細り、広い肩幅は衣服がすかすかなほどに縮こまっていた。
目の瞳孔は開き切り、私の姿を鏡のように映している。
「誰にも渡さんぞぉっぉぉおッ!」
彼が魔物を呼び出した穴倉へと、獣の如き疾駆で入り込む姿に私の騎士たちでさえ恐れ慄いた。
あれは最早人間ではない。あれはバケモノだと口々に言うが私にとっては幼馴染で唯一私と友となった物なのだ。
その散々な言われようが我慢できなかった。
そして――。
私は友を追い詰めたのだ。暗く獣臭い穴倉の深く、彼は騎士たちに切り刻まれ息絶え絶えとなっていた。
「何故だ……。○○よ……」
ああ名前が、友の名前が思い出せない!
「なんでこんな……」
私の顔が引きつる。泣き笑い顔となって瀕死の友に語りかける。
「私たちは、いい友人だったじゃないか……?」
私は心から言葉をかけたつもりだ。だが、それが彼の嘲笑を買った。
「ならなんで俺から○○を奪った?」
肝心なところが!なんだ!?
私が何を奪ったというのだ!
そこでブチリと記憶が途絶える。
私はその後、どうしたのだろう……?
記憶が不完全すぎる。
現実に戻ると目の前には頭を鷲掴みにされ、私をじっと見つめる男。
冒険者は私から目を離そうと足掻くが、私の指がその眼を見開かせる。
「我ガ姿ヲ見セロ……」
男は金縛りにあったかのように私から目が離せなくなっていた。
そして見る見るうちに生気を失っていく……。
頬は引き攣り、痙攣を起こしながらも私を見続ける。
私がその瞳を覗き込む。
――ああ、なんてことはない。
男が泡を吹きながら、その髪が抜け落ちる。
――私の姿は……。
私の眷属として生み出した騎士姿の魔物が残りの冒険者を取り押さえている。
私は、次の生贄を求めるかのように魔物に目配せする。
私の手の中で男は干からびていくようにして死んでいった。
――私の姿は、あの時の友への憎しみに振るえる顔のままであった。
なぜ"あの時"、友を激しく"憎んだ"のか。
それがどうしても思い出せないがそれだけは解った。




