アウトローに学ぶ異界生存戦略.45 帰らぬ人
俺たちは廃寺院まで戻った後、ショーイの作成した地図に書き足す形でこのダンジョンのマッピングを再開した。
時間が経つごとに戻ってくる者たちは増え、スクロール上の点と線が埋まっていく。
「ほとんどの道は他の道に繋がるようですね……」
ダレスも横から覗いてくる。
唇を噛みしめている。死んだ仲間の首をかっ捌き、不浄の物とならぬように手を下した事を思い返しているのだろう。
腹に風穴を空けられた僧兵の男の首の切断を自ら行ったこの男。
兜は戦いの中、地雷蜘蛛の糸に絡め取られてしまったため、今はその後ろに流した黒髪と意思の強そうな眉や鋭い目付きで印象がベテランの戦士のそれである。
一人であの蜘蛛の逃げ場所を封じ、攻撃を引き受けたのだと聞いている。
連携よりも単独行動で強いタイプのようだ。
「穴から第二階層の地下道に下りて、そのまま進むとまた上に戻り……と堂々巡りですね」
今まで再合流したメンバーたちはどれもこれも逃げ帰ってきたわけではない。
別れ道のほとんどが第二階層である元地下道などと繋がり、結局はまた元の道に戻るのだ。
「戻って生きていないのは『コノ』通路を探索していたショーイ神官様方のグループですね……」
こう情報を集めてみると道が埋められていない所は明らかになる。
しかし、俺たちの行動のほとんどは無駄となった感が残る。
あの魔物蜘蛛との戦闘も……だ。避けられた被害であったとも思う。
それで地上の新米冒険者を多少は救えたのは真実であるが。
それにあの空間の天井に敷き詰められている卵までは排除できていない。
この危機を脱したとして、冒険者には子蜘蛛が生まれたところを殲滅してもらわなければならない。
地上の餌の繭は潰し、ほとんどの子蜘蛛は餓死するだろうが……。
寺院の中には、また人が増えてきた。
それに廃寺院の燭台から聖火消える様子はない。
「ショーイの方へ向かうか……」
それが最もらしい選択のように思える。
事実、俺たちは魔物と出会ったのだ。
彼らの道にもまた、化け物がいるのかもしれない。
今、この場にいる大勢の冒険者たちで隊列を組み、内部に突入すれば被害があってもショーイらが足止めを喰らっている関門ぐらいあっさりと抜けられるだろう。
腰には弾丸の尽きたリボルバーが差してある。
頭に直接神が語りかけるような魔法という多幸感を初めて体感した。
確かにこのような神託染みた感覚をヤヌ人すべての魔法使いが体験するのであれば、それは信仰へと繋がるのかもしれない。
このリボルバーに愛着が湧いているのだ。
あの至福の時の感じを、あの時のようにこれを握っているとより鮮明に思い出すことが出来る。
俺は魔法というドラッグをキメて、アレをまた味わいたいと心の底でどうしても考えてしまうのだ。
「神官様……?」
上目使いの少女カルナの言葉にふっと我に戻る。
頭を回転させようとする。アノ時のことは今はいいんだ。今はこの事態を終息させることに集中しなければ。
手が震える。スクロールから手を離し、神官服越しに腰のリボルバーに据えるとやっと震えが収まってくる。
その動きに沿うように修道女カルナの視線も動く。
何を勘違いしたのか横のダレスなどを向き直り言葉をかける。
「神官様はかなり消耗しているようです。やはりここは冒険者様方にお任せし、我々はここで待機していた方が足手まといにもならないかと……」
「確かに……。先ほどは我々がいながら不甲斐無かった」
そういう事ではない!違うんだ!
「では私はそちらと一緒に行動しましょう。武器さえあれば問題ありません」
「ダーヴィル殿は先ほどのクッションの運搬でだいぶ体力を消耗しているのでは……?」
「信仰心にて劣っている私が、力でさえお役に立てないのであれば私の存在自体が不要の長物です。せめて戦力として――」
ダーヴィルも会話に参加して勝手に話が進みだす。
苛立ちを感じながらも口を出すタイミングを逃してしまう自分がいる。
そう、俺は空っぽな自分をあの魔法を使う前に一瞬認めてしまったのだ。
あの時のちっぽけな自尊心に突き動かされるような気持ちは今はなかった。
俺は本当にどうしたいのかが解らなくなった。自分の事であるのに。




