アウトローに学ぶ異界.21
聖堂に集まった背徳者たちは、冒さざるべき聖地よりの聖人を口々に拒絶した。
ヤーラカーンでのヤヌ神を主神とした信仰は、既成の本来のヤヌ神信仰とはかけ離れた新解釈による物で、歴史も誇りも超えた急先鋒的組織でしかない。
このような神意を捻じ曲げるような輩にまでヤヌ神は恩寵を与えるのであるなら、人の生まれ持っての性質というのは救いようがない。
席から立ち上がり、カーマ・ケージ神官を指さす冒涜者は口汚く神官を罵った。どれほど言葉を選ぼうがその呪詛のようにねばりつく悪意というのは透けて見えるものだ。
「謹んでそのお言葉を心に留めておきましょう……」
カーマ神官はというと、先ほどから反論すらせずに耐え忍んでいる。
ここは議論の場ではない。気に入らない者を囲んで多勢で嬲る場なのだ。相手が敵意をほんの一握りでも表に出そうものなら異端として烙印を押し排斥する。そういう場なのである。
「このカーマ及び、ショーイ神官らへの処罰は決まりそうですな」
大王の隣に立つ老人(おそらく枢機卿などといったヤンマを補佐する役職なのだろう。)は、のほほんとした表情であるが、瞳は濁っておりその下劣な精神までは隠せない。
まだ幼子である大王はその言葉に表情は困惑するようでありながらもその強い意志の見える瞳を潤ませ、唇を噛みしめて言葉を胸の内に押し込めているようだ。
カーマ神官は、その姿勢を崩すことも委縮する様子もなく大きく構えている。その様子は心うちに後ろ髪引かれる嘘のあるそれではない。嘘のない佇まいの神官は、どうみても異端者でも教義への確信犯でもない。
古くからヤヌ神の教えはこうであったと言わんばかりの態度である。
私はその様子を傍らで観察することしかできない。
「では処罰は聖地ネクロパレスへの巡礼ということではどうでしょうかな?」
一人の背徳者がにやにやと笑みを零しながら提案する。
「それはいい!マダイラの神官殿であれば……」
「些か軽い処置と言わざるを得ませんが、みなみなさまのお考えもあるのでしょう」
「私も賛同いたします。大聖地であれば彼らの行いを正しく判断してくださるでしょう」
「ではカーマ神官、ショーイ神官の両名には聖地への巡礼を行ってもらう!異論のあるお方はおりますかな?」
老いた信仰者は大王のお考えなど尋ねる事すら不要だという不敬な態度のまま、他のヤーラカーン教信者(ヤヌ神信仰と呼ぶ気は起きない。)というべき背徳者たちにのみ問いかける。
立ち上がり手を胸に当て賛同の意を示す者たち。
彼らの言う"聖地"への巡礼がただの行脚で済むはずがない。
私はカーマに今は従っているがそれも目的を果たすために必要であると考えたからである。
私は私としての考えがある。それに貢献するようなら虜囚でも何でもなってやろうというのだ。
私を失望させないでくれよカーマ・ケージよ。
貴様が何を考えていようが何を行おうが私の行うべきことは変わらない。
探すべき物を見つけ出し帝国の益となす。
ただそれだけである。
狼狽える様子すら見せないカーマ。こいつは駐屯キャンプでは神官という身分すら隠し、私たちに取り入っていたのだ。
それに、自分の部族へも躊躇しながらも銃弾を放ち、その蹂躙される様を見ても尻尾を出さなかった。神官でありながら己が部族の民を弔おうともしなかったのだ。なんて意志の固い。
目的のために動く奴は侮ってはいけない。
このカーマという男は神官という聖職者でありながら、小賢しく立ち回ることもできる油断のならぬ奴だ。
閉鎖された部族でこのように突然の異文化に対してこのように機転を利かせる奴は危険だ。しかし、裏を返せば閉鎖社会で燻っていたのだろう。
だからこそ今はこいつに従う方がいい。ガーダー等部下の事はある。しかし、こいつは殺さずに本国に持ち帰るべきだとも思う。
出来る事ならばこちら側に取り込み、ヤーラカーン陥落のために働いてもらいたい。
こいつの持つ身分とそれによるヤーラカーン大王からの疑うことも知らぬ信頼、これは役に立つ。
そうほくそ笑む私の様子をカーマが知るには、後ろに目が付いていなければ不可能であろう。
聖地巡礼。これがこいつの価値を推し量る試金石となるであろう。




