アウトローに学ぶ異界.22
王都ベリュンヒルダから東に数キロに港町がある。覚える価値のある名前すらない閑散とした田舎風でありながら外観より多くの人間がいる。そのすべての者の目的地は同じだ。町から見える孤島にある聖地ネクロパレス。
"ヒルダニア冒険者協会"
"命知らずの傭兵崩れはお断り!"
"報奨金のために働け屑共"
やたら攻撃的な文言が掲げられた町に入り一番目につく大きさの建造物。ヤーラカーンにも日雇いの傭兵仕事というのがあるのだろう。
「カーマ神官様。我々はここで手続きをする必要はございません」
褐色の肌が健康的な短髪の少女が深くお辞儀をした後に慎みながらも話しかけてくる。
カルナという女。修道女であるらしいが、なぜ俺たちに付いてきているかというと。
「ショーイ神官殿。常に正装を心がけるのは素晴らしいと思いますが咄嗟の動作の妨げとなります。ここはから先、ネクロパレスは巡礼地でも数少ないダンジョンです。どうか御着換えください」
この町への道中もショーイに何度も提案するも異邦人であることがばれるので受け入れることはできない。
頭を丸めた大男、ジョアル。彼もカルナと同じ境遇である。
背教者。その烙印を押された者たちなのだ。
彼らはその教区の派閥のテリトリーやヤーラカーンの神官らに与えられる教典のルールを逸脱し、孤児を引き取ったり浮浪者に施しを与えたなどといった行いをした者がほとんどだ。
その数七名が俺たちの監視役である。もちろん自らの贖罪のためでもある。
聖地への巡礼に成功すれば復職が叶うのだ。
聖格の高いマダイラの神官と共にならば聖地の奥深くの聖人の祠へと巡礼できるだろうと安直な考えで任務を引き受けた者共であろう。
中には教区違いの高位聖職者を神の冒涜者として粛清したというイカれた経歴の男などもいる。
こいつはどうみても大聖堂側からの刺客としか思えない。
鉄砲玉として送り込まれたのだとしか感想が思い浮かばない。
ダンジョン内で後ろからバッサリだ。なんて事にならないように気を付けなければ。
イカれた背教者は俺たちに付き従う者たちの一番後ろでその酷い目の下の隈、げっそりした表情でいる。他の者たちに話しかけられることもない。まあ経歴からコイツだけは異常だから仕方がないだろう。
「ではさっそく行きましょうか」
待て待て待て。どうもおかしい。
こいつらが魔法が使えるような話もない。戦闘経験もないだろう。
数だけいる奴らを連れて武器すら揃えないのだろうか?
身体能力はあるのだから武装さえすればまだ安心できるのだが。
「神官様?」
「装備を整えてはいかないのか?」
「何を言っているのですか。聖地への巡礼で武装するなど聞いたことがございません」
「しかし、内部はどのような危険があるか分からないのだろう?」
「魔物などは冒険者が狩り、数を減らすのが仕事です。私たちはただ聖地で行うべきことを行うのみです。それに支度金などもございませんし……」
たしかに脚力に優れたヤマ人ならもしかしたら障害となる物を避けながら巡礼もできるのかもしれない。
しかし、こちらにはショーイもいるのだ。
もしかしたらショーイがブリュータス将校だという情報が大聖堂の神職の者たちには既に流れているのか?
ショーイがいなければ策は成り立たないのだが、大臣らもいる前で策の話はしたのだ。これは妨害と受け取っていいのだろうか?
「仕方がない。カーマ神官。ここでまた我々のやり方をしては不信を生むだろう。ここは彼らのやり方に合わせようではないか?」
ショーイの視線は俺の腰辺りにある。
一応護身用にショーイのリボルバーを持ってきてはいるのだ。
ヤーラカーンの者たちに異国の武器として押さえられたライフルは流石に持ちだせなかったが、これはショーイがわざと渡さなかった。その時は逃げ出す際に使おうとなどと考えていたのだろう。
それを俺が使わせないために回収したのだ。
たかだか六発の銃弾。あまりに頼りない。
これではショーイという策の要を切り捨てなければならないかもしれないということである。




