アウトローに学ぶ異界.16
俺と同様に神官服を身に纏うのは、ヤーラカーンの大聖堂への巡礼者たち。馬を引いて出立の準備をするのを訝しげに遠目から見てきていた。
その中でも高齢そうな(俺もそうだが顔が見えないので目元の皺とか声などから類推すると四、五十くらいか?)僧は、体の表面にオーラのようなものを纏っていた。
「貴殿はどこから参られたのでしょうか?」
穏やかでありながら威厳を持ち、それでいて好々爺のように朗らかな高齢僧に俺もほっと胸を撫で下ろした。
「拙僧はマダイラ――」
言い終わるより先に高齢僧は慌てて口を挟んできた。
「マダイラの神官様でございましたか!?これはこれは、私どもの無遠慮な視線を大変申し訳ございません!」
ひたすら頭下げる高齢の僧侶に合わせて後方にいた若い僧たちも頭を下げる。この中年はこの中では高僧のようだ。
「して、なぜその、馬をこのように扱っておるのでしょう?私どもの及び至らぬご神託でもございましたのでしょうか?」
俺が言葉に詰まっていると、高僧は勝手に話を進めてくれる。こちらとしては色々常識を教えてくれるのはありがたい。
「古代より動植物には神性が宿るという我々のヤヌ神のお言葉を、マダイラの神官様が自ら破るなど到底考えられませぬ。その神意をもしよろしければ拙僧共にも。何卒!」
町人や兵士くらいだと気にもしないということは、相当古くからの風習だろうか?
動物を食べるのはセーフでも家畜とするのはアウト。なかなか、それだけではその意味を理解できない。
俺としてはこの後の策に使うのでついでに荷車を引かせているだけなのであるが。ここでヤーラカーンの神官たちに変な噂が広がり、俺が神官として何一つ知らぬことがばれるのも困る。
ここは一発デカい嘘を吐くことにした。
「マダイラに来るは、巨大な異教の神々の乗る船々。拙僧カーマ・ケージの見た中でも悪神たちが揃いも揃っていた!」
おおっと驚嘆の声が若い僧たちから響く。高僧は生唾を飲み込んでいた。
「哀れな異境の人々にヤヌ神のお教えを広めるために我が部族は友好を望んだが、彼らは悪魔や魑魅魍魎に憑りつかれていて我らが信仰も伝わらなかった!」
どよめく僧たち。巡礼の僧がマダイラの地が侵略されていることはまだ知らないということは、ヤーラカーン以外の支配地域への情報伝達は遅いのであろうか?混乱を避けるための処置か何かだろうということは分かるが、それが吉と出るか凶と出るかまでは知らない。
「その時、馬たちが彼らに跨られ彼らの足となっているのを見た我らが大神官様はそれを見て"ケンタウロス"のようだと涙を流した。それはまさに悪神の神たる所以。生物の垣根を越えた――」
「時にカーマ神官殿、"ケンタウロス"とは?」
――はぁ?
ゴブリンがそのままの名称でいたのでついケンタウロスの名を言ってしまったが、この大陸にはいないのだろうか?
やってしまった。俺は嘘を嘘で塗り固めるべく雄弁に語るしかない。
「ケンタウロスとは馬の首から上に人の上半身のついた半人半獣の種族であり、神代には森の平和を司り――」
僧たちが驚くも興味津々に聞くのだが、あまりココでこれ以上適当な嘘を吹き込んでも仕方がないので本題に戻る。
「――と、ケンタウロスについてはここまでとして。その生物の垣根を越えた人馬一体というべき馬上の人を見た大神官はあの異境の神々にもまた"神性"はありとおっしゃられた。それから我々もその異なる生物の調和を実現するためにこうして馬とも"共同生活"をしているのだ」
"共同生活"の部分をより強調して伝えた。馬を家畜として隷属していますなんてのはおそらくアウトなので言わない。
これで宗教を通じてヤヌ人の中に馬を調教する習慣が根付けば、それに対する手段(馬を狙って乗り手を落とすなどといった対策)や新たな戦法(やはり人の足だけよりは馬の瞬発力を使った方が戦術面で多くの事が出来るとおもうため)を勝手に開発してくれるだろうという気の長いことを考えていた。
ただの行き当たりばったりな言い訳であることは自分が良く分かっている。どうみても短期決戦でヤヌ人は滅ぼされるだろうからほぼ意味はない。
それまでに俺はなんとか自分の安全地帯だけは確保するのだ。




