アウトローに学ぶ異界.15
荷車を引く馬は珍しいようで、ベリュンヒルダの子供たちのみならず大人までも物珍しげに見物にやってくる。
目聡い商人などはコレがどういった物なのかということを聞いてきたりした。ヤヌ人には動物を使役するという概念がないのだろうか?行きかう行商人なども全てが人力で荷台を押している者ばかりだ。
どれくらいの食費がかかるのだとか、一日でどれほど進めるのかといったコスト面がいろいろ聞かれる。しかし、いざショーイに説明させると商人たちは難色を示して方々へと散ってしまう。
俺の身体能力やイガ将軍の金胸歩兵が特別異常なのではなく、ヤヌという種族自体がタイタニア人と比べても高いパフォーマンスを持っていることは窺い知れる。
持久力を考えれば馬並み、もしくはそれ以上の脚力とはこれ如何に。
持久力で1馬力、瞬発力ではもちろんそれ以上だろう。
この見渡す限りの人々は一人一人が超人ということになる。そんな人々がなぜ奴隷商に繋がれるのだろうか?
これはやはり民族性といった物が大きく影響しているのだろう。ショーイに疑問を投げかけると決まって知能が低い野蛮人といった単語が出てくるが、その詳細を聞くと俺としては野蛮人はやはりタイタニア人の方であった。
まず少尉たちは手当たり次第に見つけたマダイラの地のヤヌ人(ヤーラカーンとの差別化のために今後はマダイラ族とする。)は捕まえる。魔法など見慣れぬ物で驚かせたり、罠にかけたりとその方法はまさに獣に対するソレだ。
そして集落の場所を聞き出すと、降伏勧告もなしに襲撃する。もちろん抵抗もあるので散漫的に何度も何度も襲うのだそうだ。奴隷商はというと襲撃に参加するキャラバンや兵士の捕まえてきた品物を買い付ける者など様々だそうだ。
するとマダイラ族は、友好関係を申し出るために使者を使わせてくる。それを快く受け入れる振りをして和平案を表向きに受け取り、そして友好の場で一網打尽にするという到底文明人のすることではなかった。
この地で情報を集めて分かったことはマダイラの民はとても非好戦的な少数部族のようで、ヤーラカーン人たちからも『冒さざるべき血』として敬われていたようだ。
そのマダイラから来た神官の血筋らしい俺だからこそ大王に招待されるという好待遇であったのかもしれない。
ヤンマ大王が自ら"殺戮者"などと言っていたこのヤーラカーンもおそらく俺からしたら平和的な統一国家なのだろうとも思う。それほどまでにこの王都ベリュンヒルダは平和そのものであるのだ。
周辺国とも冷戦状態のようではあるが、ブリュータス帝国が現れるまでで一番最近戦争が起こったのは十三年ほど前のようだ。
それも小競り合いのようで数百人の戦死者で済む程度、これはただの武力衝突ではないのか?とも思う。
つまり、このヤヌ人自体が非好戦的な人種ではないのかと思うわけだ。
だからこそ大王は『一度も話していないので対抗するだけだ』といった感じの事を言っていたのだと思う。
これはかなり敗色濃厚である。俺の知る限り、ただの喧嘩の話で悪いが大抵勝つのは卑怯者なのだ。
相手の意表を突くと言えば聞こえはいいが、急所を狙うとか人数をそろえるとか待ち伏せとか武器とかどれもこれも胸を張って俺喧嘩強いんですなんて言えない。
というかプロレスよろしく正面から殴りあいに技の受け止めあいで争うとしても、相手より筋力という武器で勝ってるから勝つなんてのは当たり前で、ただただ体を鍛えて自分より弱者とのみ戦うのと武器を持って殴る事の違いが俺には分からない。
それでも勝利への確信、もしくはより楽に勝てるというだけの考えから結局、俺が事務所前でやられたように後頭部を何か鈍器で強打されるなんてことが起こるのだ。
肉体的に劣る事をブリュータスの兵士たちが意識しているとしたら、魔法や文明の利器でパパッと有利に事を運ぼうなんてのもさもありなん。
俺のお付きに就いた兵士というのもそういう意味では役に立たないかもしれない。いくら猛獣を護衛につけても猛獣であるということが知れ渡っていれば対策などいくらでも講じることができるだろう。




