アウトローに学ぶ異界.17
俺が巡礼者に説法をする様子をショーイは馬の世話をしながらじっと見つめてくる。ショーイはヤヌ人との人種的違いから俺と同様の神官着を着せてある。お付きのヤーラカーン兵はショーイがブリュータスの将校であることを知らされているため何か不審な動きをすれば一突きで討ち取ってくれる。
ショーイに話したことと大きく異なる態度なので、俺に対する評価を大きくさらに落としたのかもしれないが今更彼の評価などどうでもいいことだ。
「カーマ神官様、そちらの気高き方にも巡礼の信徒として挨拶をしたいのですがよろしいでしょうか?」
中年僧からの申し出に俺は面食らった。
若い僧たちからの視線も急にショーイに集まりだした。
「馬との意思の疎通を行うためにそのように甲斐甲斐しく働いているとは私は恐れ入りました。そのように気品のある聖格をお持ちであるのならばやはりカーマ様のお師匠様か何かでしょうか?」
そこで中年僧からのオーラの意味がやっと解ってきた。
やはりヤーラカーンにも魔法はあるのだ。
「この御方は、高い聖格を持ち――」
慌ててショーイの説明をしだすも、俺からショーイへと興味が移った中年僧はショーイに向けて歩き出した。
「できましたら貴方様からも何かご利益のあるお話を、お願いできますでしょうか?」
ショーイは困ったように視線を送ってくる。余計な事を言わないように口止めしてあるのでどう対応すべきか悩んでいるのだろう。
仕方なく頷く形で話す許可を出す。
兵士が目を光らせているのだ。下手を打とうなどとは考えないだろう。
「あー、あ。我はマダイラで神官をしていたショーイと言う」
「おお、そのような余りある聖格でありながらなんとお若い」
タイタニア人の魔力と呼ぶものは、ヤヌ人の神職では聖格というらしい。
しかも、ショーイの聖格はヤヌ人からしたらかなりの物ということだ。
ということはショーイ等タイタニア人並の魔法を扱う者もいるはずなのだ。でなければ中年僧はショーイの聖格を見て引っ繰り返らなければおかしい。
ううむ。マダイラ族が魔法を知らないから対処できずに捕まって奴隷となったという仮説は俺の間違いかもしれない。少なくともマダイラの高位神職の者は対策が講じられたはずだ。だが、ショーイからマダイラ族の抵抗の話は聞いていない。
しかしこの中年僧、馬を使っているショーイは聖格が高いため俺に馬を扱うな馬鹿めと初めは遠回しに文句を言いに来たのだろうか。解せぬ。
「すみません。ショーイ様は馬との神的調和のために修行として人語はなるべく使わないようにしているのです。どうかご容赦を」
「おお、そうでしたか!?いやいや失礼しました。ということはその所作から学び取れということですね?我々にも馬との人馬一体の調和というものを見せていただきたいのですが?」
断る理由はない。ショーイに目配せをして馬に乗ることを命じた。ビックホースには神官服は袖が通らなかったので着せていないのだ。ここはショーイにやってもらうしかない。
俺の不安な心境など知らず、ショーイは馬にひょいっと騎乗した。
「ショーイ様。その馬術をこの方々にご覧になってもらったらどうでしょう?」
ショーイは頷くと(案外素直に俺の指示に従っていることに驚いた。)荷台と馬を切り離し、広場に向かって全速力で走らせだした。
――しまった!
心の中で叫ぶも時既に遅し。ショーイは民衆の中へと馬で駆け入る。
しかし、直ぐには逃げ出さずにこちらを見ている。
追いかけようと地面を強く踏みしめる監視の兵を手で制止し、俺もショーイを見つめる。
ショーイの瞳には何が映っているのだろうか?
ただその表情は煌めいているようでもあった。
遅れて僧たちから歓声があがる。
馬を見事に操っている。あれが人馬一体か。などと口々に好き勝手言っているのに一瞬気を取られ、ショーイから目を離してしまった。
しかし、ショーイは逃げなかった。
行商と話をした際にヤヌ人に対して馬では逃げきれないと思い至ったのだろうか?
それとも何か……
ショーイは少しおどけるように馬を一定間隔で速く、そして遅く歩調を変えた。さらに馬に後ろ足で立たせたり、障害物を越えるような仕草もさせた。
それに反応したのは大衆である。ショーイの馬上技術に対して、大喝采が起こる。
「いやいや、これは驚きましたな。馬をまるで自分の手足のように操るとは。これが馬術という物なのですね」
朗らかに笑う中年僧。
暫く大道芸のように馬で愛嬌を振り撒くと、ショーイは何事もなかったかのように戻ってきた。
俺はこの男の性格をまたもや勘違いしていたのかもしれない。




