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アウトローに学ぶ異界生存戦略  作者:
1章 異世界で奴隷から神官、そして魔の者への扉を開く
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アウトローに学ぶ異界.12

 ヤンマ大王に招かれ、俺は王宮の玉座の間へと足を踏み入れた。

 純白の幕で飾られた玉座の前、天上は石造りではあるがその隅々まで繊細な石彫りが施されている。

 シルク生地の薄幕なようなものが大王と謁見者の間には広がっており、影が映るだけなのでこちらからは玉座側の表情を窺い知ることはできない。もちろんあちらから謁見者の顔を見ることも出来ないだろうが。玉座に座る大王の影はだいぶ小柄に見える。


 王宮の外観からしてフーガ少尉等タイタニア人との技術力の差が窺い知れる。こちらはまったくもってゲームでの王宮などのような中世風?とでも言うのだろうか。そんな作りだと感じた。

 王宮の眼下に広がる城下町もだ。荒く削った石造りの家々。他の建造物より大きく立派な物も散見されたがそれは貴族や何やら重鎮たちの持ち物なのだろうということはすぐに察しがついた。

 町を行きかう人々はローブを纏い、商人は人力で荷車を押して商品を運ぶ。

 兵士たちの装備は鎧、腰に差した剣、そして円形の盾の中心の銅板にはエングレービングが施され、おそらく王国への所属を表す彫り物がされていた。

 何もかも劣っているように感じた。フーガ少尉の話では魔法も使えないはずだ。


 ヤンマ大王の眼前には近衛兵たちがこちらを気にかけることもなく規律を持って並んでいた。

 誰一人として微動だにしない。不可思議な彫像が隊列を組んでいるようだ。

 不可思議と感じたのは彼らの装具のあまりの美術性の高さからである。

 彼らの纏う鎧には幾何学模様が寸分の狂いもないように掘られ、その手の槍に至っては穂先にまで何やら精密な彫り物がされている。

 そして兜だ。兜の側面には鷹のような生物が描かれ、いや掘られているのか。その線にはインクなどが流しこまれたのか黄金に光っているように見える。

 これは街中の兵士の装備のエングレービングなどとは比べ物にならない物だ。これほどの緻密な技術を持った職人を王のみが囲うというのは、まあ当然なのだろう。

 権威を示すには十分すぎる。現代人の俺でもそのあまりの出来栄えに見入ってしまったほどだ。美術館(行ったことはないが)で展示されている古代の王族の墳墓のお宝を目にしているようだ。


 俺を保護したイガ将軍が忠誠を示すように片膝をつき、腕を胸に当てる。俺にも同じ所作を催促するように視線を送ってきた。

 イガ将軍はその二メートル以上の図体でありながらも、その二の腕や太ももは身長似つかわしくないほどに肥大化しており、それでいて手のひらや足は繊細な印象を与える。

 それは肉食獣のようなソレなのだと連想された。その短く切られた茶色の髪は焼けた肌とあわせて体毛を連想させ、睨みを利かせるような強烈な眼差しは獲物を怯えさせる。腕や脚は狩りに長けた作りとなっているのだろう。


 俺が将軍と同様の姿勢を作ると、イガ将軍はその厚い胸板を膨らませ(もちろん胸当て程度の装備だからそれが分かるのだ。全身鎧からそれが分かっては鎧が異常に柔らかいのか、将軍の肺活量と胸部の筋肉が金属を曲げるほどで彼が人間ではないかのどちらかだ。)大王への報告を始める。


「我がヤヌ神に誓いご報告を行い、その大王の神の地への侵略者を捕縛せしめん事を――」

 ご口上はカット。

 ヤヌ族の族とは、この大陸の神と目されるヤヌ神への信仰から名づけられたようだ。つまりブリュータス人からの呼び名だ。これは自分からヤヌ"族"などとは言わない方が無難であったかもしれない。下手を打った。

「――この神官と思しき御仁を神の思し召しによりお救いすることが出来ました」


 俺の事だろう。身なりは少尉から受け取った物から着替えさせられたが、少々形式ばっており法衣や頭上の神官用の頭巾にターバンを足したような物はかなり重い。


「――カーマ・ケージ様。大王様へと挨拶を……」

 俺は困った。マナーなんてのは知ったことかというような小僧だが、この場で相応しい所作が出来ないとどうなるかぐらいは分かっているつもりだ。

 身分の詐称。おそらく大王は一般庶民にはお目にかかれないのだろう。だからこそ神官と目された俺やイガ将軍でもご尊顔を見る事すら許されない。つまり、詐称した身分での大王への接近は大罪だろう。

 それにフーガ少尉と行動を共にしていたのだ。スパイ容疑など疑われだしたら際限がない。


 俺が忠誠の姿勢を崩せぬまま黙りこくっていると、将軍があからさまに苛立ち始め、俺を今にも斬り殺さんがばかりの迫力で再度「挨拶を……」と脅してきた。

「よい……!」

 場にそぐわぬ幼げな声が高らかに響いてきた。

「良い。救われたことへの恩義は感じておるようだ……。それでよいではないか将軍?」

 なんと声の発生源は玉座、平伏する護衛の兵士たち。つまりは――。

「はっ!大王様の意向であれば!」

 将軍はより一層畏まって居住いを正した。

「ヤヌ神を信仰する者として、そなたを助けることが出来たと聞いたときは大変心が安らいだ。我が国は大国として覇を唱えてはいるがそなたらと信仰は同じくする信徒であるからな……」

 そして、玉座側から小さな影が飛び出し、薄幕を広げる。


「大王様!そのような事まで!神の御化身である大王様が――」

「黙っておれ将軍。余を神の子や化身などと認めておるのは余の国とその属国だけではないか?余を幼子と侮るな。その意味、解っておる!」


 幕から現れたのは、まだ六歳ぐらいの麗しきエメラルドの瞳を持つ幼年であった。

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