アウトローに学ぶ異界.11 神官編
駐屯基地への帰投中、フーガ少尉はその場の誰よりも俺を口汚く罵り、隙さえあれば鞘をした銃剣で背中を小突いてきた。
不運なことに俺の積み重ねた少尉からのほんの少しの信用が脆くも砕け散ってしまったようだ。
後方で殿を続けながらもビックホースは捕虜のゴブリンに色々と話しかけていた。
それがどのような内容なのかは聞き耳を立てても知ることは出来ない。元より言語は分からず、ビックホースはずっと無表情で、ゴブリンはずっと虚勢を張ったままであるからだ。
ガーダーは次第に神経毒が回ってきたようで口数も呼吸する胸の動きもほとんどなくなって、ただただ鞍から手足がぶら下がってきている。このままでは死ぬのかもしれない。先ほどの少尉の言葉は彼への気休めであったのかもしれない。
俺がガーダーへ視線を向けるごとに少尉は握った鎖を引っ張り、俺の首を締め上げる。
「この野蛮人が!与えてやったチャンスも恩もすべて仇にして返してきおって!」
それからは処刑台を上り、その時を待つ死刑囚のような気分であった。(もちろん死刑囚が実際どのように処刑されるかなんてのも知らないが)
気分の悪さから俺の足取りが遅くなると、その度にフーガ少尉から「時間稼ぎをするな!とっとと歩け!」と小突かれた。
帰りの道は食料も水も与えられず、もちろん休憩も取らずにただただ道を引き返す。
流石に肉体が強くとも休憩を与えられずに、しかも精神を攻撃されてまででは俺にも疲労が溜まる一方であった。
そんな時、俺の聴覚が何かを感じた。
これは……
足音だ。しかも複数。すごい速さであるが、ほとんど足音をかき消している。
忍者……。頭をよぎった言葉に不謹慎な笑いを堪えながらそれを悟られないように表情を硬くする。
馬を使って移動しているような少尉たちタイタニア人とは全く違うのだろうというのは察しがついた。
であるならば、答えは……
俺はその軍団がこちらへと向かうのを意識しながら、その速度を調節する。
フーガ少尉には気付かれてはいけない。それこそ、この場で処刑されるだろう。
俺はわざとらしく足取りを重くし、少尉に声をかける。
「フーガ少尉、せめて水を……。水を……」
少尉は馬上から冷めた目で俺を見下す。少尉の顔には影がかかり、俺を見下す瞳だけが悪魔の目のようにギラリと光る。だが、俺の名演技には気づいていないようだ。
「くれてやる……」
少尉は水筒(皮でできた袋に飲み口が付いたものだ。)を掲げ、俺に見えるように頭上から水をかけてきた。
俺は頭から水を被り、服を濡らす。ほとんどの水分は髪や服に付着するか地面に落ちていった。
「少尉殿、それでは水は飲めませぬ」
嘆願するような顔の俺に少尉は汚物を見るようにし、そして水筒を顔面に投げつけてきた。
「さっさと進め!お前の足なら、馬と一緒に日が沈む前に帰れるだろう」
――足跡が近づいてくる。あと一押し。いや、ここだ!
そう感じた俺は博打に出ることにした。
「この侵略者め!俺が死んだとしてもヤヌ族の誇りは死なん!首を跳ねられたとしても首だけで貴様の喉元を食い破ってやるわ!」
言ってしまった。叫んでしまった。
少尉たちは鳩が豆鉄砲を食ったように驚き、特に少尉は俺の気が触れたのかという顔をしていた。
「貴様は――」
少尉は言葉を最後まで口に出すことはできなかった。
――ウォオオオオオオ!
けたたましい雄叫びとともに馬並みの速さでソレは迫り来た。数えきれないほどの兵士が、体には金の胸当て、手には五十センチ程の剣、そして兜に装飾された立派な赤い鬣や鶏冠を靡かせながら少尉たちブリュータス兵を取り囲んでいく。
俺はもちろん枷と鎖を解かれ、彼らヤヌ族最大の大国に身を保護されたのであった。




