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第十九話 奇襲


ある夜明け前、アンリオンの部隊は敵の奇襲に遭った。闇の中から矢が降り注いだ。


「伏せろ!」


アンリオンが叫ぶより早く、前列の兵士二人が倒れた。血の匂いが夜気に広がる。敵は三方向から迫っていた。数は少なく見積もっても、こちらの四倍。


「小隊長、退却を!」


副官のマルクが叫んだ。恐怖で声が震えている。


「いや、ここで踏ん張る」


「しかし、このままでは全滅します!」


「いや、そうはさせない」


アンリオンは、周囲を見渡した。左に断崖、右に川。前方に迫る敵の松明の火が、闇の中に幾つもの星のように揺れている。


「それに、退けば、背後の村が襲われる。あそこには民が寝ている」


アンリオンは鞘から剣を抜いた。冷たい刃が松明の光を受け、鈍く光った。

「散開するな。みんな固まれ。盾を前に、後ろの者は弓を構えろ。弓のない者は石を拾え」


その声にこもった真摯さが、兵士たちの心に火を点けた。


敵の第一波が押し寄せてきた。


アンリオンが先頭に立った。最初の敵が大剣を振り下ろしてきた時、彼は身体を半歩右にずらし、剣を受け流しながら相手の脇腹に肘を打ち込んだ。鈍い音がして、男が膝をついた。


二人目が槍を突いてくる。体を捻って刃をかわし、そのまま相手の手首を掴ん

で引き倒した。

倒れた男の上を踏み越えて、三人目の剣を正面から受けた。刃と刃がぶつかる音が、川の流れに混じって響いた。


「押せ!中央に圧力をかけろ!」


アンリオンの声に、兵士たちが呼応した。恐怖を食い破るように、彼らは前に出た。だが、数の差は如何ともしがたかった。右翼が崩れ始めた。


「右を支えろ!」


アンリオンは盾を投げ捨て、全力で走った。息が上がった。しかし、走り続けた。右翼に回り込んだ敵の一人が、倒れかけた若い兵士に向かって剣を振り上げていた。


間に合わない。


そう思った次の瞬間、アンリオンの身体は既に動いていた。


地面を蹴り、滑り込むように間に入ると、剣が降りてきた。咄嗟に左腕を上げた。刃が鎧の隙間を抉り、熱いものが腕を走り、痛みよりも先に、血の生温かさを感じた。


それでも、アンリオンは剣を手放さなかった。右手で相手の剣腕を掴み、引き倒した。倒れた敵を押さえながら振り向くと、助けた若い兵士が蒼白な顔で立っていた。


「立て。まだ終わっていない」


「し、しかし小隊長の腕が……」


「これくらい大丈夫だ。立て」


腕は痛く、視界の端がじわりと滲んだ。しかし、ここで倒れるわけにはいかなかった。


この国には、守るべき人がいる。ローズの笑顔が、不意に脳裏をよぎった。


今はここにいない。もう会うこともないかもしれない。それでも、彼女が生きているこの国を守ることは、できる。


アンリオンは再び剣を構えた。左腕がじわじわと痺れていく。足元に血が滴った。それでも彼は前に出た。

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