表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
18/26

第十八話 兵士になる


アンリオンが屋敷を後にしたのは、夜が明ける前のことだった。


荷物は少なかった。着替えが一枚と、わずかな金。それ以外には、何も持たなかった。


持っていきたいものは、いくつもあった。


ローズが子供の頃に庭で拾って、「きれいな石だからアンリオンにあげる」と言って渡してきた、小さな青い石。それから、リリィ夫人がアンリオンに初めてかけてくれた、あの葡萄色のショール。でも、それらはすべて置いていくことにした。


持っていけば、いつまでも引きずるだろう。引きずっていては、前に進めない。


とにかく仕事を見つけようと町に向かって歩いて行った。その晩は野宿をしたが、翌日、歩いている途中で、兵士募集の看板が目に入った。


兵隊になると、衣食住付きで、給料までもらえる。それで、彼は兵士に応募してみることにした。


「志願か。年齢は?」


「十八です」


「剣の腕は?」


「多少あります」


「馬は」


「乗れます」


厳しい目でアンリオンを見た兵士長は、彼の可能性と、その目に宿る強い意志を見て取った。


「よし。明日から訓練に参加しろ」


アンリオンは当面の宿と食事を確保してほっとした。


しかし、兵士としての生活は過酷だった。


早朝から夕暮れまで、剣の訓練、馬術、戦術の勉強。だが、アンリオンは一度も弱音を吐かなかった。


ローズを守れなかった自分への罰。そして、強くなるための修行として。体を動かしていれば、ローズのことを、あれこれ考えなくてすむ。


夜、床に倒れ込んで眠れば、夢を見る間もなかった。それが、一番、よかった。



半年後、彼は優秀な成績で、ある小隊に配属された。


「見慣れない顔だが、新入りか。名前は?」


「アンリオンです」


「変わった名だな。どこの出身だ」


「孤児なので、故郷のことは知りません」


「まあ、いい。ここでは実力がすべてだ」


北部の国境紛争に派遣された時、アンリオンは初めて実戦を経験した。


剣を交え、敵と対峙したのだが、不思議と恐怖はなかった。


それは、もう守るべきものがないからなのだろうか。


いや、違う。


遠くにいるローズを、この国を守るために戦っているのだと思った。


アンリオンの活躍は、すぐに上官の目に留まった。


「お前、戦い方が違うな。誰に習った?」


「軍隊に来て、習いました」


「嘘をつけ。その動き、貴族の剣術だ」


アンリオンは何も答えなかった。ローズと一緒に習った剣術。あの日々は、もう戻らない。


一年後、アンリオンは小隊長に昇進した。



日ごとに、部下たちからの信頼が増し、それが、アンリオンの新しい生きがいとなった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ