表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
23/27

23

 リュビサスのいる書斎に向かおうとして、アリスンはパティに強く腕を掴まれた。

「アリスン様、おかしなことを考えないでください」

「おかしなことって?」

 日の落ちかけた邸宅の廊下で、パティはアリスンの頬に手を伸ばす。季節はもう冬ではないのに、少し肌寒く感じた。

「せっかく助かった命です。捨てることなど、なさらないで」

「捨てようなんて思っていない」

 むしろ、これから強く生きるために、前を向いて生きるために。

「わたしはマガリテに戻る」

 そんなに大きな声を出したつもりはなかったが、言葉は大きく響いて消えていった。

「だから、パティはここで待っていて」

「ここに、戻って来るつもりなのですか」

「もちろんだよ」

 アリスンがパティに向けた笑みを、パティは見ることができなかった。けれど、それが悲観的なものでないことをパティは感じた。

「わかりました。絶対に帰ってきてください」

「うん」 

 奇妙なことに、アリスンはかつてないほど落ち着いていた。

 そのまま書斎のドアをノックして室内に入ると、ここに彼女が来ることを予期していたのだろうか。リュビサスとヨンジャの二人が、三人分のティーカップを用意して待っていた。

「お願いがあって来ました」

 話を切り出したアリスンに、ヨンジャが鷹揚に頷き手招きをする。

「まずはお茶だよ。それくらいの時間はあるさ。さあ、隣に掛けなさい」

 今日のヨンジャは深い紺のローブを身に纏っている。対して、ヨンジャの右隣のソファに座るリュビサスは、上下とも麻の白地のスーツ姿だった。言われた通り、アリスンはヨンジャの左隣のソファに腰を下ろす。

「このお茶には、身体の中の魔力を整える作用がある。だから、()()()という時に飲むことにしているんだよ」

 ヨンジャが入れたお茶は、澄んだ翠色をしていた。ミントのような清涼感のある香りがするが、味はほんのりと苦い。

「この苦みが癖になるんだ」

 そう言われると、飲まないわけにはいかない。アリスンはお茶を最後の一滴まで飲み干した。そんなアリスンを見て、リュビサスが口を開いた。

「マガリテの第二王女様は、国に還ることにしたのかい? 半端な覚悟じゃ、何も変えらられないと思うが」

「ご心配をおかけします。でも、ここで無関心のままでいることはできません。戦を止めないと、被害は拡大します。すでに、マガリテはファライザ自治領で暴挙を働き、今回はサンカルと三百の兵士たちが犠牲になりました。お母さまが何を考えているのかわからないけれど、このままだと確実にガレスと衝突するのも時間の問題です」

 アリスンは、自分が見た夢の内容をヨンジャとリュビサスにすべて話した。

「リリアは女王として即位するために、王城のある都にまで進軍するでしょう。両軍が都で激突することになったら、被害は非常に大きなものになる。わたしだけ、ここで何もせずに、やりすごすことはできません」

 アリスンは首飾りをきつく強く握る。

 リュビサスはカップをワゴンに置いた。

「サンカルたちが壊滅したと知った王太后たちは、全軍を国境近くに差し向けるようだ。森の中に住む民と、国境沿いに住む民や商売人たちは、急いでマガリテからガレス側へと脱出しようとしている」

「お願いします。わたしを、あちらの世界に送り返してもらえませんか? なんとか戦が起こらないようにしたいんです!」

 ヨンジャとリュビサスが互いの顔を見合わせる。

「わかった。なんとか両軍が激突しないように、私たちも協力しようじゃないの」

「本当ですか⁉ ありがとうございます!」

「ただし」

 喜ぶアリスンにリュビサスが言った。

()()()()()()()()で、やらせてもらうことにする。苦情は一切聞かない」

 挑戦的な笑みを浮かべたリュビサスに、アリスンは頷いた。ヨンジャが笑った。

「明日の朝一番で、転移のドアを開こう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ