09 地底戦争(1)
とりまがさらわれそうになった一件を経て、神聖日本王国の大使を呼び出したリーダー。
場所はアゲハの艦内ではなく、中立都市にある政府機関の施設の一室だ。
<リーダー>
「内葉さん。先日の件についてなんだけど」
<内葉>
「お聞きしましょう」
<リーダー>
「この中立都市において、神聖日本王国の人間たちがこちらの少女を誘拐しようとした。それがどういうことなのか、まずはそのことを説明してほしいな」
<内葉>
「ええ……」
内場は少しだけ迷った後、口を開く。
<内葉>
「申し訳ありませんが、その質問に答えることはやめておきましょう。神聖日本王国の大使である私の口からは、現状、たった一つの問いしか伝えられません」
<リーダー>
「それは?」
<内葉>
「実験体の少女を引き渡すか、我々に敵対するか。そのどちらかを選んでいただきたい、という質問です」
<リーダー>
「だったら今すぐ君を派遣した国に帰り、その恥知らずな口でこう伝えてほしいな。俺たちはそのどちらも選ぶつもりはない、って」
<内葉>
「大使として、しっかり伝えましょう。ただ、その答えは一方の選択肢を選び取ったものとして受け取れるのですが、それでも構いませんか?」
<リーダー>
「残念だけどね」
<内葉>
「こちらこそ残念です。こちらの都市のお偉いさん方も怒らせてしまったようなので、神聖日本王国の関係者は数日以内に完全に退去しなくてはならなくなりましてね……では」
軽く頭を下げて立ち去る内葉。一人になり、ため息をつくリーダー。
<リーダー>
「小さなレジスタンスに過ぎない俺たちと敵対することも、この都市から追い出されることも、どちらもちっとも残念そうな顔じゃなかったけどねぇ……」
<カイル>
「リーダー!」
数分後、慌てた様子でリーダーのもとへ駆け寄ってくるカイル。
<リーダー>
「どうしたの?」
<カイル>
「いえ、先ほどの神聖日本王国の大使が去り際に、この手紙をリーダーに渡してくれと」
<リーダー>
「手紙? うん、すぐに読んでみるよ。大事なことかもしれない」
<カイル>
「……なんと書いてありますか?」
<リーダー>
「真のジャパニーズレジスタンスへの昇格、おめでとうございます……だって。……ごめん。この書きぶりからすると、神聖日本王国とは完全に敵対することになっちゃったみたいだね」
<カイル>
「くそ! なんてことだ! こんな手紙、もらったって腹立たしいだけですよ!」
<リーダー>
「まあまあ、そんなに顔を赤くしないでよ。それにしても神聖日本王国がね……。今日からは俺たちの新たな敵か」
<カイル>
「しかし、いよいよ大帝の存在が大きくなりましたね。資金や情報だけでなく、息吹二式といった兵器などの提供も受けていましたから、その神聖日本王国の協力がなくなってしまっては」
<リーダー>
「うん。これからちゃんと、ジャレスとしての策を講じないとね」
坂下が一人で歩いていると、窓ガラスの前でポーズをとっている姉原を目にする。
<坂下>
「あれ、姉原さん? 何をなさっているんです?」
<姉原>
「おや? 坂下じゃない。恥ずかしいけど、一人でファッションの確認をしていたの。もうジパングリラを出立するからね。何か買ったほうがいいか、考えてたの」
<坂下>
「ファッションですか」
<姉原>
「そうそう。今ここではリボンが流行っているのよね。それはもう、この夏の一大ムーブメントってくらいに」
答えながら、自分が身に着けているリボンを見せつけてアピールする。
<姉原>
「地底だとね、どうしても気分が暗くなっちゃうときがあるの。だからみんなファッションではっちゃけるってわけ。ほら、病は気からって言うじゃない? サポート役としては、そういうのも気を付けなくちゃならないから」
<坂下>
「なるほど。そういうのって大事ですもんね」
<姉原>
「それでね、さっきここを通ったカイルにもリボンを巻いたげようとしたのにさ、全力で断られちゃって。あーあ、あいつ損してるなぁ……」
<坂下>
「え、そんなにリボンってポイント高いんですか?」
<姉原>
「そりゃそうだよ。今、ここではリボンがすべての鍵を握るといってもいい。あ、そうだ。中上ちゃんととりまちゃんにリボンでもプレゼントしてあげたら?」
<坂下>
「な、中上と、とりまちゃんに? ど、どうして……」
<姉原>
「どうしてって、大切な人にプレゼントを贈るのって普通じゃない? あなたにとってそれが恋心かどうかは別としても、二人のことは好きでしょ?」
<坂下>
「う……まあ、そりゃ否定はしませんよ。二人とも大事です。あと、先輩とか、皆さんも」
<姉原>
「ありがとう。で、プレゼントは? 二人にあげないの?」
<坂下>
「でも喜んでくれますかね? 僕から、リボンとか……」
<姉原>
「うーん。リボンはあくまでここでの流行だから、中上ちゃんとかとりまちゃんが喜んでくれるかどうかはわからないのよね。でもさ、二人は坂下からのプレゼントならなんだって喜んでくれると思うよ」
<坂下>
「そうですか?」
<姉原>
「私が見た感じ、という注釈付きでならね。プレゼントに真心をこめれば完璧。あっ、ちゃんと好きって気持ちも忘れずにね!」
<坂下>
「ああもう、わかりましたよ! 恥ずかしいからそれ以上からかわないでください!」
恥ずかしくなった坂下は顔を赤らめて逃げる。
その先、今度は整備士の観測点を見かける坂下。
<坂下>
「あ、観測点ちゃんだ。えっと、今は一人みたいだね?」
<観測点>
「はい。観測点が観測する限り、周囲に有意な対象はありません。現在は一人で休憩中です」
<坂下>
「そうなんだ。あ、じゃあ邪魔しないほうがいい?」
<観測点>
「そんなことないですよ? むしろ一人で退屈してましたので」
<坂下>
「そっか。……そういえば観測点ちゃん、ここではリボンが流行っているとか聞いたんだけど、そういうのには興味ないの?」
<観測点>
「ありますよ。服は土間さんに選んでもらってますけど、リボンのようなファッションアイテムは自分を整備するような感覚で楽しめます」
<坂下>
「それならさ、どこかにリボンを結んでみたら? 髪でもいいし、服につけるのもいい。赤いのとか、青いのとか、どれを選んでも似合うと思うよ」
<観測点>
「ありがとうございます。ですが、これでも観測点は、すでにリボンを装着済みなのです」
<坂下>
「え? あ、ごめん、気づかなかった」
<観測点>
「気にしなくても大丈夫ですよ。少し気づきにくいところですので、わからないのは当然です。観測点的には、整備作業の邪魔になってしまうため、リボンは服の内側に巻くしかないと結論付けましたので」
<坂下>
「え? 服の内側って、つまり下着みたいなこと? 確かに作業の邪魔にはならないだろうけど、それじゃあ、あんまりおしゃれの意味がなくない?」
<観測点>
「いえ、ふとした瞬間に隠されたリボンが顔を出すくらいのほうがいいのではないかと思うのです。いわゆるチラリズムの一種ではなかろうかと」
<坂下>
「あ、ちらりとは見せちゃうんだ?」
<観測点>
「見せますよ。たとえば、こんな風に」
観測点はお腹が見えるようにシャツをめくり、お腹に巻いていたリボンを見せる。
<観測点>
「どうでしょう? どきりとしました?」
<坂下>
「う、ごめん、それはちょっと僕には刺激が強いかも……」
坂下、気恥ずかしさに顔をそらしながら頬を赤らめる。
<観測点>
「おしゃれ作戦にまつまるデータ収集の協力に感謝を申し上げます。観測点的には、やはり効果があったと判断しました」




