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天上の地上へ(地下世界・ロボット・戦争)  作者: 一天草莽


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10/17

10 地底戦争(2)

 物資の補給が終わり、中立都市ジパングリラを出立したアゲハ。

 孤立したジャレスに対して、ムー共和国が平和的な接触を図る。


<カイル>

「リーダー、こちらに近づいてくる機影が一つあります。識別信号によるとムーの機体であるようです」


<リーダー>

「ムー共和国? うーん。一応、こちらの敵ではないみたいだけど」


<カイル>

「あ、待ってください。あちらから土伝導システムを利用した音声通信です」


<リーダー>

「よし、繋いでみてくれるかな」


 接近してきた機体と通信がつながる。


<ドレイク>

「あ~、テステス。おっと、いや本番だったな。テストじゃなかった。ともかく、こちらはムー軍所属のドレイクだ。この声、そちらに聞こえるか~!」


<カイル>

「通信、相手とつながりました」


<リーダー>

「うん、ありがとう」


<ドレイク>

「いきなりで悪いなぁ、ジャレスの皆さん方。こちらにゃ交戦の意志は全くないんだが、ちょっとお話いいですかなあっと」


<カイル>

「どうやら、ムーの機体で間違いなさそうですね」


<リーダー>

「ふうむ。ジパングリラでの件があったばかりだから、正直なところ警戒心しかないんだけど。でも神聖日本王国とは完全に縁が切れてしまったからなぁ……。大帝と戦うための新しいスポンサーとして、ムーという存在はかなり魅力的だね」


 リーダーは周りにも意見を求めようと思って見渡す。


<ドレイク>

「こちらに~、交戦の~、意志は~ああ、ないが~」


<カイル>

「あちらさん、気分よく歌ってますよ?」


<リーダー>

「うん、聞こえてる」


 リーダー、たまらず苦笑い。


<リーダー>

「よし、とりあえず話を聞いてみよう。ムーほどの大国なら俺たちにスパイや工作員を送り込むまでもなく、ちょっとした戦力を向けるだけで簡単につぶせるわけだからね。何か話があるというのなら、それを聞いてから判断しよう」


<土間>

「そうだな。よし、それじゃあ、こっちでハッチを開ける! 手が空いてる者は彼をぜひ迎え入れてくれ!」


<カイル>

「……嬉しそうですね? 土間さん」


<土間>

「だって、男だろ? こき使えるかもしれないじゃないか」


<リーダー>

「駄目だよ。客人だからね」


 リーダー、再び苦笑い。


<ドレイク>

「よくわからないが、俺の身の安全は保障してくれよ~っと」





 アゲハに乗船して、ジャレスのリーダーと面会するドレイク。


<ドレイク>

「いよお! 俺はムーから交渉役として抜擢されたドレイクって軍人なんだが、はじめに断言しておこう。俺には交渉術なんてまるでない。我ながら困ったものだ。はっはっは、俺は実戦バカだからな!」


<リーダー>

「……はあ、まあ、それでも一応は話を伺いますよ」


<ドレイク>

「そりゃどうも。だったら簡潔に言おうか。ムーはジャレスを支援しよう。協力しないか?」


<リーダー>

「それはその、とてもありがたいお言葉ですが、あまりに突然ですね……」


<ドレイク>

「うぉい、うぉい、何と言っても今こそ日本を叩き潰すチャンスだろうが。お前らだってレジスタンスなんだろ? 一緒に日本ぶっ叩こうぜ!」


<リーダー>

「念を押しますが、日本じゃなくて神聖日本王国と大日本地底帝国ですよ」


<ドレイク>

「おうおう、わりい。平和な日本を取り戻したいジャレスとしては気にするんだったか」


<リーダー>

「まあ、別にいいですが……」


 返答に困っているリーダーを見て、カイルが近づいて声を潜める。


<カイル>

「リーダー、ムー共和国のような大国が俺たちみたいなレジスタンスに直接交渉してくることに対して、慎重な姿勢で疑ってかかるべきです。あちらは地下太平洋を広く支配する大国。慈善事業というわけではないでしょうから」


<ドレイク>

「当たり前の話だよな、そりゃま」


<カイル>

「……聞こえましたか」


<ドレイク>

「耳がいいのが自慢でな。心が広いのも自慢だ。お互いに探り合うのはやめて、腹を割って話そうじゃないか」


<リーダー>

「……わかりました。それでは取引ということですか? ムーがジャレスを支援してくれる代わりに、我々に求める条件はなんでしょう?」


<ドレイク>

「おっと、そう警戒しなくても大丈夫だ。こっちからの条件はただ一つ。お前らジャレスには今後、形式上、ムー軍の一部隊として活動してもらうってこった」


<カイル>

「つまりムー軍の指揮系統に入れと?」


<ドレイク>

「そこまではっきりしたものじゃないさ。ただ、大帝や神聖日本王国と戦うときには、命令みたいなものをジャレスにも出させてもらうかもしれんってだけだ。見返りは十分すぎるほどにあると思うのだがなぁ?」


<リーダー>

「確かにそうだけど……もしもの時の拒否権はあるのかな?」


<ドレイク>

「それについては、どれくらい俺たちに支援してほしいかにもよるな。小さなスプーンにはちょっとの砂糖しか乗らない。……ま、ゆっくり考えてくれや。本国との連絡役として、俺はしばらくここに滞在させてもらうからよ」





 実験体の少女を奪うため、大掛かりな戦闘部隊をジャレスに向けた神聖日本王国。

 その進路上にある日本海溝に布陣したムー共和国と戦闘になる。


<内葉>

「残念ながら、ジャレスは我々神聖日本王国に対して抵抗を試みるようです」


<鬼瓦>

「ジャレスの選択が反逆ならば、我々はそれをつぶさねばならない。もとよりあれはレジスタンスなのだ。ちっぽけな抵抗組織に政局を俯瞰して眺めることなどできぬ。それこそ駄々をこねる幼児の集まりだ。こちらの交渉が届かぬのならば、実力をもって従わせるまでのこと」


<内葉>

「次なる大使としての仕事があるとすれば、彼らへの降伏勧告を伝えるものでしょうか?」


<鬼瓦>

「かもしれないな。大帝とジャレスの二つを天秤にかけてみれば、どちらに大きく傾くかなど自明の理。小隊程度の戦力しかないジャレスを相手に遠慮する必要はない。つぶしてでも奪い取れ。我々に必要なのは、あの実験体だけだ」


<神聖日本王国の兵士>

「参謀総長殿、大変です! どういうわけか日本海溝付近にムーの軍勢が展開しております。まるでジャレスへの接触を妨げる防壁のごとく! このままでは進行中の我が軍と衝突してしまいますが、どうなされますか?」


<鬼瓦>

「ほほう。経緯はどうであれ、今や風前の灯であるジャレスをうまく取り込んだらしいな、ムーよ。それほどまでに日本を敵視するか、二つの日本を」


 しばらく間をおくが、やがて重々しく口を開く。


<鬼瓦>

「ムーの防衛線には構わず、このままジャレスに攻撃部隊を向かわせよ。我が神聖日本王国軍は、何が何でも実験体を手に入れなければならないのだ」


<神聖日本王国の兵士>

「しかし参謀総長殿、いかがいたしましょう? ムーは一歩も引かず、さながら日本海溝危機です。このままでは宣戦布告もないままに戦争が始まってしまいます」


<鬼瓦>

「いいかね? すでにこれは危機ではなく、事変だよ」


<神聖日本王国の兵士>

「と、申しますと?」


<鬼瓦>

「先ほども言ったが、構わずに突き進め、ということだ。反撃は許可する。広い意味での反撃をな。……なに、戦いに勝ちさえすれば理由は後付でどうとでもなる。あちらが先に一発撃ってきたとでもな」


<神聖日本王国の兵士>

「了解いたしました」


 敬礼して立ち去る部下。鬼瓦はほくそ笑む。


<鬼瓦>

「そう、なんとしてでも実験体を手に入れなければならないのだ。我々の新しい同士となる大帝への贈り物としてな」





 日本海溝。神聖日本王国とムーの攻撃部隊が向き合う。


<ムーの兵士>

「ムーより、神聖日本王国軍に警告する。もしこのまま停止しないのならば、こちらとしては交戦もためらわない所存である。直ちに引き返していただきたい」


<神聖日本王国の兵士>

「こちらのお言葉ですよ、それは」


<ムーの兵士>

「それ以上近づくのなら、我々は本当に容赦できない。本当にだ」


<神聖日本王国の兵士>

「ここは日本海溝だ。したがって我々の行軍に不可思議な点は一つもない」


<ムーの兵士>

「忘れてもらっては困るが、日本海溝は我々にとっても展開可能な中立地帯だ。脅しに屈して道を開けるつもりは微塵もない」


 向き合う両軍。

 しかし、その緊張感は長続きしなかった。すぐに衝突が現実のものとなるからだ。

 ムー軍のマックスが、戦闘に備えて出撃を待つ人型ロボット兵器、シーシーザーのコックピットで肩を鳴らす。


<マックス>

「ふふーん、どうやら神聖日本王国軍は止まらないようだな。俺様たちムーの軍勢を見ても引き返さないところを見ると、どうやら本気らしい。腕が鳴るねぇ」


<アル>

「マックス隊長、ご命令は?」


<マックス>

「上からは臨機応変に対応しろと言われている。ムーに反抗的なアジア諸連合の各地で転戦してきた俺様が派遣されたってことは、最悪の事態も許可されているってわけさ」


<エル>

「隊長! 大変です! 敵、こちらに突っ込んできます!」


<マックス>

「ああ、素晴らしい! 歓喜の雄叫びを上げようじゃねえか! 俺様たちの目の前に、正義の鉄槌を遺憾なく振り下ろすことのできる敵が群がってくるんだぜ!」


 敵軍を前に舌なめずりするマックス。


<マックス>

「うおっしゃ! 隊長命令だ! 全機、攻撃開始! 存分にいたぶれ!」


<アル・エル>

「了解しました!」


<マックス>

「はっはっは、ムー軍のエースとして知られる俺様からのプレゼントだ! 貴様ら悪人どもは感涙に咽んで盛大に喜びやがれ! そろってあの世でな!」


 戦闘開始。


<マックス>

「ギャン! ギャン、ギャーン! つまんねぇな! もっと燃えるような戦いがしたいっていうのに、俺様のターゲットは落としやすくてつまらん!」


<神聖日本王国の兵士>

「くそ、あまりにも練度が違いすぎる! 一旦退却だ!」


 マックス隊の活躍もあり、日本海溝での戦闘はムーの勝利で終結。


<アル>

「マックス隊長、ご無事ですか?」


<マックス>

「おーい、お前は一体何を心配している? この俺様が生き残っていなければ、お前たちが勝利できるわけがないだろう? 俺様の死、イコールでムーの負けだからな」


<エル>

「その自信こそ英雄の証。隊長がご無事そうで何よりです」


<マックス>

「ふっふっふ。こうして俺様の英雄譚が一ページずつ紡がれていくのであった。と、心にメモメモっと」





 武力衝突が終わって数日に及んだ膠着状態の後、ムーによる宣戦布告がなされる。


<ムーの兵士>

「ムラシャフカ大統領、ご報告がございます」


<ムラシャフカ>

「聞こう」


<ムーの兵士>

「先日の日本海溝における武力衝突は我々が勝利し、神聖日本王国軍の通過を阻止することができました。しかしそれ以来、長い海溝に沿うように両軍のにらみ合いが続いております」


<ムラシャフカ>

「ドミノが倒れるように事態が進展するかと思ったが、さすがに訓練の行き届いた軍隊ということか。ならばその膠着状態を破るためにも、ムー共和国の大統領である私が言葉を用意しよう」


<ムーの兵士>

「ありがたきことです。命令にさえなれば、あなたの言葉はすべて意味を持ちます」


<ムラシャフカ>

「むふふ、大国を自由に動かせる絶大な権力とは気持ちいいものだな。では頼もうか。私の言葉を命令として広く伝えるために」


<ムーの兵士>

「では、その場をご用意いたします。どうかこちらへ」


 そして始まるムラシャフカの演説。


<ムラシャフカ>

「ハロー、エブリワン。あまりに有名で自ら名乗るのもおこがましいが、私こそがムー共和国の大統領ムラシャフカだ」


 政府によって用意された聴衆たちが歓声を上げる。

 それを満足そうに眺めながら、ムラシャフカは語り始める。


<ムラシャフカ>

「さて、なぜ大事な議会を休んでまで緊急の演説なんてするのかと問われれば、私は逆に問い返そう。君は我々の血が流れたことを知らぬのか? と」


 ムラシャフカは演技ががったしぐさで自分の胸を抑える。


<ムラシャフカ>

「……親愛なるムーの諸君は心を痛めているであろう。先日、国際的に中立地帯となっている日本海溝にて、その中立を破って進軍した神聖日本王国軍に警告した我が軍が、こともあろうに攻撃を受けた。日本海溝事変である。不当に攻撃を受けた我々は、果たして、このまま平和を愛して黙って引き下がるべきであろうか?」


 ダン! と音を立ててテーブルを叩くムラシャフカ。


<ムラシャフカ>

「いや、否! なぜなら我々は、常に我々の手で正義を守り続けてきた誇り高き民族だからである。正義の旗が同胞の血で染められた今、それを高らかに掲げることは弔いであり、我々の強さと信念の証明になる。その証明は戦闘によってのみ行われるのだ」


 ムラシャフカは両手を広げる。


<ムラシャフカ>

「どうか理解していたただきたい。我がムー共和国は、現時点をもって神聖日本王国と戦争状態にあることを宣言する!」





 結果、ムーと協力関係になったジャレスも戦争に参加することになる。


<リーダー>

「日本海溝事変に引き続き、ムーの大統領による開戦の宣言か。どうやら神聖日本王国とムー共和国は本格的に戦争に突入するみたいだね。だとすると、ムーが俺たちに協力するというのも嘘ではないということかな」


<坂下>

「僕にはちょっとわかりませんけど……けど、やっぱり警戒はしたほうがいいでしょうね。本当に交渉に来ただけかどうか、わかりませんから。……念のためですけど、この前から僕と先輩と中上ととりまちゃん、四人は同じ部屋で寝起きするようにしたんです」


<リーダー>

「そっか、それはそうして。もちろん彼には見張りも付けているんだけど……」


 二人で雑談していたところへ、交渉役として艦に滞在していたドレイクがやってくる。


<ドレイク>

「誰に見張りを付けて、誰を警戒するって?」


<坂下>

「あ、すみません。あなたです」


<リーダー>

「ちょっとちょっと。オブラートに包もうよ。ムーと協力できるかどうかはジャレスにとって死活問題なんだ」


<ドレイク>

「いーや、少年みたいのが一番わかりやすくて信頼しやすい」


 かっかっか、と笑ったドレイクはリーダーに目を向ける。


<ドレイク>

「ともかくジャレスの皆さんよう、すでにこっちは日本海溝でジャレスに恩を貸し付けたわけだから、今後は俺らムーのためバリバリに仕事してもらうってことだかんな~」


 戦争が始まったとは思えぬほどの陽気さで伝えるドレイク。


<リーダー>

「感謝しておくべきなのかな、それは?」


<ドレイク>

「たとえ形の上だけでも、一言くらい礼はほしいもんだぜ。なにしろ神聖日本王国の部隊がジャレスに接近するのを防ぐため、銃弾をぶつけ合って本格的な開戦までしちまったわけだからな。どうだい、ジャレスにとっては頼もしい助っ人だろ?」


<リーダー>

「助っ人か。それが本心で言っている言葉なら、こちらも本心から感謝の言葉を伝えるよ。実際、後ろ盾がない今のタイミングで神聖日本王国に攻められていたら大ピンチだった」


<ドレイク>

「オッケー、オッケー。やっぱり面倒だから感謝なんていらない。大国としての責務を果たしているだけだからな。とはいえ、お前たちの協力を期待してるぞーっと」


 ひらひらと手を振って去るドレイク。


<坂下>

「なんだかすごく陽気な人でしたね。乗って来た機体は武装がすべて取り外されていて、彼も丸腰だったんですよね?」


<リーダー>

「うん。少なくとも彼個人に裏はなさそうだ。あの表だけの人間っていうのも頼りないけど」


<坂下>

「でも、本当にこのままムーと手を組むんですか?」


<リーダー>

「事実だけを見れば、神聖日本王国と戦ってくれているわけだからね、このまま特に何事もなければ彼らの提案を受け入れるつもりだよ。あくまでも協力関係であって、あちらの指揮下に入るというのは抵抗があるけど」


<坂下>

「ですよね」


<リーダー>

「うん。たとえ世界が土砂降りになったとしても、ムー軍が広げた傘の下に無抵抗に入ってしまうのは危険だと思うんだ。一時しのぎの風除けに使わせてもらうだけにしたい」


<坂下>

「目的のために利用する、ってことか……」


<リーダー>

「実際問題、俺たちジャレスは勢力として小さすぎるんだ。どこに立ち向かうにしても、どこかの協力が欠かせない」


<坂下>

「あっ、すみません。責めるつもりはありませんよ。ただ、その事情をムーがわかってくれるといいですね」


<リーダー>

「うん。俺もそう願うよ」


<坂下>

「……だけど、これから戦争になるのか。今までのことはレジスタンス活動で、これからのことは戦争……。この前のこともあったし、いよいよ覚悟を決めておかないといけないな」





 四人で使っているアゲハの客室。中上と宮川が雑談していた。


<中上>

「そういえば、ムー共和国は英語じゃなくて日本語使ってましたよね? ドレイクさんはもちろん、大統領の演説も」


<宮川>

「言われてみれば確かにそうだな。ムーって聞くと、なんか独自のムー語とか使ってそうなもんだけどな。英語が広まってたらそれはそれでおかしいし」


<中上>

「でも、どうして日本語なんでしょう? ムーの標準語……なわけないか」


<宮川>

「たぶん、地底ならではの深い事情があるんだろ。あるいは超古代文明で知られるムーの神秘ってやつだ。見えないスピーカーが備わっていて日本語に同時通訳してるとか……あるいは、こんにゃくとか食べてるんじゃね?」


 そこへ、部屋に戻って来た坂下が二人に声を掛ける。


<坂下>

「あ、先輩、とりまちゃんがどこにいるか知りませんか?」


<宮川>

「ん? とりまか? そこに寝てる」


<坂下>

「あ、ほんとだ。いた。ごめんね、起きてる?」


<とりま>

「ん?」


<坂下>

「よかった。横になってただけなんだ。今、ちょっといい?」


<とりま>

「ん」


<坂下>

「じゃあ、ついてきてくれるかな。ちょっと話があって」


 少し緊張した様子の坂下はとりまを連れて外に出る。


<宮川>

「……ほう?」


 気になった宮川はこっそりと坂下の後を追う。

 一瞬だけ迷った中上も遅れて追いかけた。


<坂下>

「でね、とりまちゃん。話っていうのはね……」


<とりま>

「……ん?」


 通路の隅で向き合った二人。とりまは坂上の顔を見ながら首を傾ける。


<坂下>

「い、嫌なら別にいいんだけどね。実はとりまちゃんに、これを受け取ってもらえたら嬉しいなあ……って」


 坂下は後ろ手に隠していたプレゼントを目の前に出す。

 とりまは傾けていた首を元に戻し、不思議そうに坂下の手元を見る。

 それは口で吹いてピーという音を鳴らす、小さなホイッスルだ。


<坂下>

「この前、ジパングリラにいた時に買っておいたんだ。地上に戻ってもなくならないように、地上から仕入れてあったものを。一応さ、これ、ひもで首からさげられるんだけど。その、僕がかけてあげてもいい?」


<とりま>

「……うん」


 とりま、恥ずかしそうにうつむく。


<坂下>

「こんなものしか君にあげられないけど、その笛で呼んでくれたら、いつでもすぐに駆けつけるから。だから、この前みたいに危険なことがあったら、必ずその笛で僕を呼んでね」


<とりま>

「……うん」


<坂下>

「よかった。いつも君にはみんなを守ってもらってばかりだから、ちょっとしたことでもさ、僕が君を守ってあげられるならって思って」


<とりま>

「うん……」


 とりま、人から初めてもらったプレゼントに頬を赤く紅潮させて喜ぶ。

 そんな二人を隠れて覗き見ていた宮川と中上。


<宮川>

「おお、あのとりまが赤くなってやがる。わかりやすく照れてるぞ」


<中上>

「……もう、あんないたいけな姿を見ちゃったら、応援したくなっちゃうじゃない!」


 我慢できなくなった中上は飛び出す。そしてとりまを可愛がるように抱きつく。


<中上>

「とりまったら、かわいいなぁ! 私がパートナーに欲しいよ!」


 抱きつかれて、ますます赤くなるとりま。


<坂下>

「ええっ! どこから出てきたのさ! ちょっと、まさか見ていたの!」


 慌てふためく坂下も顔が赤くなる。


<宮川>

「しかしあいつ、応援したくなっちゃう、か……。もしや三角関係だったりするのか? まったく青春だねぇ」

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