08 中立都市ジパングリラ(2)
午後、神聖日本王国の大使がジパングリラに滞在中のジャレスを訪問。
略式ではあるものの、リーダーに挨拶をする。
<内葉>
「お初にお目にかかります、ジャレス代表。私は神聖日本王国の大使として遣わされた内葉サグルと申す者ででございます。本日はジャレスの皆様方にご挨拶をと思い、こうして伺わせていただきました」
<リーダー>
「これはどうも、ご丁寧に。このタイミングでの挨拶というと、もしかして我々が大帝に一矢報いたことに対する賛辞でもいただけるんでしょうか?」
<内葉>
「もちろんでございます。私たち神聖日本王国は大帝の軍事行動を傍観する立場でこそありましたが、心の底では思い切り打ちのめしてやりたかったのですよ。時代が大帝との冷戦状況でさえなければ、あなた方の担った役割は私たちのすべきことでしたので」
<リーダー>
「それは心強い言葉です」
<内葉>
「ははは。後は口先だけでなく実際に行動してもらいたい、ということですか」
<リーダー>
「あ、いえ、そういうつもりではなかったんですが」
<内葉>
「お気になさらず。皆様方には、すぐにでも行動で我々の決意を示させていただこう、というのが本国の意向ですから。……ぜひ期待してください」
感情の読めない内葉は怪しく笑う。
<リーダー>
「はい、期待しましょう」
朝から姉原の買い出しに付き合っていた中上ととりま。
<姉原>
「よし、これで必要なものは全部買えたかな。あ、そうだ。この地底都市には広い銭湯があるから入ってくるといいよ。場所がわからなかったら誰かを誘って」
<中上>
「本当ですか? お風呂か、いいなあ。とりまちゃん、だったら後で一緒に行こうか」
<とりま>
「……ん」
アゲハに戻ってきた後、とりまの手を引き銭湯に向かう中上。
二人は広々とした温泉に一緒に入る。
湯船の中で二人には少し距離があったため、中上が手招きする。
<中上>
「ほら、とりま。もっとこっちに来てよ。隣」
<とりま>
「……ん?」
<中上>
「別に警戒しなくてもいいのよ? ほらほら」
<とりま>
「……ん」
とりまは恥ずかしそうに目をそらしながらも、嫌がらずにゆっくりと近づく。
<中上>
「よかった。私、もしかしたら苦手に思われているのかな~とか心配していたけど」
笑顔でとりまの髪をすく。とりまは気持ちよさそうに目を閉じる。
<とりま>
「……んん」
<中上>
「私、とりまと仲良くなりたい。……みんなのために頑張ってくれてるもんね?」
中上は笑顔を向ける。
しかし、二人で湯船を出て脱衣所に向かったところで問題が発生する。
バスタオルで体をふいて服を着ていると、同じ脱衣所にいた複数の女性たちによって、二人は囲まれてしまったのだ。
<中上>
「えっと、何か……?」
しかし彼女たちは何も答えず、お互いの顔を見合わせて目線で合図を出し合うと、一斉に中上ととりまを拘束しにかかる。
<とりま>
「んっ!」
<中上>
「ちょっと、やめてください!」
手際よく縄で手足を縛られ、身動きが取れない状態で放置される坂下。
とりまは彼女たちに連れ去られ、銭湯を出る。
<女性A>
「朝から尾行していた実験体の少女を確保。これからジパングリラを脱出します」
そのまま中立都市の出入り口に到着。
移動中に睡眠薬を飲ませて眠らせたとりまを、車いすに乗せて運び出そうとする彼女たち。
<女性A>
「なっ!」
しかし、都市の外につながるゲートでアラートが鳴り響く。
不透過物質によって作られた柵に囲まれて、彼女たちは身動きができなくなる。
<女性A>
「どういうことだ! 戸籍がない彼女は簡単に連れ出せるはず……!」
<女性B>
「ここまで厳重なロックがかかっているとは……話が違う!」
駆け付けた警備員などによって彼女たちは捕らえられ、とりまは安全に確保される。
その後、関係者から連絡を受けたリーダーとカイルが迎えに来る。
<リーダー>
「ここに入る際、いろんな人脈を駆使してとりまちゃんを最重要人物として登録しておいてよかったよ」
<カイル>
「しかし、まさか戦闘行為が禁止されている中立都市で拉致をしようなんて。拘束された彼女たちは、出入りが許可されている神聖日本王国の人間らしいですが……」
<リーダー>
「彼女たちの独断専行なのか、あるいは大帝が裏を引いているのか、それとも」
<カイル>
「……神聖日本王国が?」
<リーダー>
「だとすると、その援助を受けて活動している俺たちにとっては大問題だね」
その後、アゲハの医務室。
<姉原>
「ごめんね、私のせいで。あの時、二人に銭湯に行くようにって言っちゃったから」
<中上>
「謝らないでください。姉原さんは悪くないです。私たちの危機感がなさ過ぎたんですよ。誰か一緒についてきてもらえばよかったのに」
<姉原>
「ううん、それこそ私が一緒についていけばよかったの」
<中上>
「でも姉原さんはお忙しいから。今だって、私たちのために怪我がないか検査してくれて」
<姉原>
「こんなの苦じゃないわ。……けど、本当によかった。念入りに確認してるけど二人とも怪我はしていないみたい。とりまちゃんは眠ってるだけ」
そこへ、坂下が駆け込んでくる。
<坂下>
「だ、大丈夫! とんでもない目にあったって聞いたけど!」
<中上>
「あ、坂下……。うん、大丈夫。とりまちゃんは無事よ。眠っちゃってるだけみたい」
<坂下>
「馬鹿。とりまちゃんも大事だけど中上の心配してきたんだ」
<中上>
「心配って……」
<坂下>
「当たり前だろ? 話を聞いた時は心臓が止まるかと思った。今も、本当、どきどきしてる」
そう言いながらそばまで近づいて顔を見合わせる二人の様子を見て、姉原が声をかける。
<姉原>
「……私、席を外したほうがいい?」
<中上>
「え、あ、いや……そんな。そこにいてもいいですよ。私たち、そんな関係じゃないんで」
<坂下>
「すみません、外してください」
<中上>
「え?」
<姉原>
「怪我がなくても疲れてはいるだろうから、無茶はさせないようにね」
そう言い残した姉原は医務室を出る。
坂下は心配して、さりげなく中上の手を取る。
<坂下>
「縄で縛られたって聞いたよ。もし相手が大人の男ばかりで、乱暴なことをされてたら……」
<中上>
「大丈夫。私は手と足を縛られてただけ。銭湯だったんだけど、そんなに時間もかからず施設の人に助けてもらったから」
<坂下>
「ごめん、油断してたよ。これは戦争なんだもんね。戦いは息吹二式に乗って戦場に出た時だけだと思ってた」
<中上>
「それは……私も同じ。だけど、いや、だからかな。なおさら戦争を止めなくちゃって思った。大帝が考えている地上侵攻が現実になったら、私たちが住んでいた町や日本が、とんでもなくひどい目にあっちゃう。それを今日、身をもって知った」
<坂下>
「うん……でもさ」
<中上>
「……何?」
<坂下>
「戦ってる時とか以外はさ、できるだけそばにいようよ」
<中上>
「……そうね」
<坂下>
「そして一緒に帰ろう。地上に」
<中上>
「うん……」




