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天上の地上へ(地下世界・ロボット・戦争)  作者: 一天草莽


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07 中立都市ジパングリラ(1)

 ジャレス、中立都市のジパングリラに到着。

 大帝の地上侵攻作戦について、地底で動揺が広がっているとの情報。


<リーダー>

「これより本艦は地底都市ジパングリラに寄港するよ。滞在するのは数日くらいだけど、その間に物資の補給をしようと思うんだ」


<宮川>

「念のために聞いておくけど、そこに敵はいないんだよな? 寄港中に出撃する可能性が少しでもあるなら、心の準備はしておきたい」


<カイル>

「大丈夫、ジパングリラはどこの勢力にも属していない自治都市で中立だから」


<宮川>

「中立都市にレジスタンスが立ち寄るのか? だとすれば他の国の軍人だって立ち寄ってもおかしくないわけで、いきなり説得力ないぞ」


<カイル>

「誰と鉢合わせてもおかしくはないが、どこの誰であれ戦争をしに行くんじゃないからな。それに中立は無抵抗を意味するわけでもない」


<坂下>

「きわどいですね」


<カイル>

「世の中なんてそんなもんだろ?」


<リーダー>

「まあ、それでも心配なのはわかるよ。でも安心して。ジパングリラに入るためにはゲートで生体認証を受ける必要があるから。中立都市と敵対している大帝の軍人とか、国際的に指名手配されているテロリストとか犯罪者は立ち入りが禁止されてもいるんだ。神聖日本王国とかムー共和国はジャレスと敵対してないから、街中でばったり顔を合わせても大丈夫」


<宮川>

「へえ……ゲートで立ち入りが禁止か。生体認証がどんなものか知らないが、それも何か地底のテクノロジーを利用してるんだろうな」


<リーダー>

「どうだろ。専門外だからあんまり詳しくはないね」


<坂下>

「地上の世界で考えれば、出入国の管理が厳しいってことですね」


<リーダー>

「ま、そういうこと。ゲート以外は不透過物資の壁で都市が覆われているから、何かあったとき、簡単には出ることも……って、こうしてレジスタンスの俺たちが難なく入れている時点で、いくらでも交渉の余地はあるんだけどさ」






 ジパングリラに寄港後、中立都市での買い出しに出かける坂下たち。


<リーダー>

「食料品に、日用品、医薬品に、あとは裏のルートで武器弾薬も……」


<カイル>

「あと、お前たちは何着か服を買っておけ。ここでは地上の人間のために地上から仕入れた服が売ってあるぞ。いくつかの雑貨もな」


<宮川>

「服って、どういうことだ? 俺たちの分の着替えは姉原さんに十分な量を用意してもらってるし、わざわざ地上から仕入れているものを買う必要もないんじゃないか?」


<カイル>

「それが、あんまりよくないんだな。地下世界で作られた服を着て地上に戻ると、きっと大変なことになるぜ」


<リーダー>

「そうそう。最悪、捕まっちゃうかもね。服が消えて裸になっちゃうから」


<坂下>

「どういうことですか? 服が消えて……?」


 彼らの言っていることが理解できず、首をかしげる坂下。

 その隣で宮川が真剣な顔をする。


<宮川>

「その件について、ずっと聞きたかったことがある。今までにも何度か話題には出てきていたんだが、何か地底人が地上に出られない理由があるのか?」


<リーダー>

「それは……。具体的には、どう説明したらいいんだろう。詳しくは誰にも原因がわからないんだけどね、地底の人間や地底で作られたモノは地上に出ると消滅してしまうんだ」


<坂下>

「消滅?」


<カイル>

「不思議だろ? 地上に出た瞬間、俺たち地底人は風に吹き飛ばされる砂のように跡形もなく消えてしまうのさ」


<宮川>

「跡形もなくって、服とかだけじゃなくて骨までか?」


<リーダー>

「うん。つまり死んじゃうってこと。だから地下の人間は日光の届かない地下や深海でしか生きられないんだ。ここはさ、地上とは違って閉ざされた世界だから」


 説明しながら目を伏せるリーダー。しかし宮川が待ったをかける。


<宮川>

「閉ざされたって、それはおかしくないか? 実際に地上で戦闘が行われたじゃないか」


<リーダー>

「……うん、それについては特別な事情があってね。今回に限っては、あの上空を覆っていた膜のおかげだったと思う。おそらくあれが擬似的な海面となって、あの膜に包まれた空間は地上じゃなくて海の底ということになったらしいんだ」


<宮川>

「地上じゃなくて海の底……つまり天草全体がドーム状の海になっていたってことか? 内側に空気があったことを考えると、大きな泡に包まれていた、と表現したほうがいいが……」


<カイル>

「正直、俺たちも半信半疑だったんだ。地上に軍事攻撃を仕掛けるという大帝の作戦が漏れたときも、すぐには信じられなかった。それは俺たちだけじゃなく、他の国だって同じだろう」


<リーダー>

「たぶん、大帝の地上侵攻を阻止するよりも、そんなことが本当にできるのかって、みんな確認したかったんだと思う。だから地底の勢力は大帝の邪魔を一切しなかった」


<カイル>

「おかげで大帝は地上にばかり意識を取られていたらしいけどな」


<坂下>

「そうだったんですか」


<リーダー>

「ま、難しい話はここまでにしよう。今日は買い出しだ。みんなでそろって同じところに行くのも効率が悪いから、何人かずつに別れて買い出しをしようか」


 とのことで、彼らは数人ずつのグループに分かれて店を回ることにした。





 言われるがまま、まずは服を買いに来た坂下と宮川。

 同じく店を訪れていた土間と観測点に遭遇する。


<坂下>

「あ、観測点ちゃん。……と、土間さん?」


<宮川>

「二人か。珍しい組み合わせだな」


<土間>

「ああ。今日は誰かの荷物持ちをしようと思っていてな。最初に見かけた人に声をかけて、ついてきた」


<観測点>

「観測点としては、それで土間さんにお世話になってます」


<坂下>

「優しいんですね。失礼ながら、もっと怖い人かと思っていました」


<宮川>

「お前ほんとに失礼だな」


<土間>

「はっはっは。いやいや、優しさとか、そんなんじゃないさ。こうして定期的にこき使われておかないと、誰かをこき使うこともできなくなるからな」


<坂下>

「あ……もし僕をこき使うときは手加減してください」


<土間>

「考えておこう」


<宮川>

「観測点たちが買っているのは……ああ、作業着とか、そういうのか?」


<観測点>

「ですね。いいものが見つかれば私服も購入します。ここの次は整備に使う道具も見に行きます。どこかでご飯も食べます」


<宮川>

「忙しそうだ」


<坂下>

「でも、せっかくだから一緒に見ていかない? リーダーさんにお金をもらって僕たちも服を買いに来たんだけど、中上ととりまちゃんの服も買っていくことにしたんだ。観測点ちゃんにどんな服がいいか選ぶのを手伝ってほしいな」


<観測点>

「お手伝いならいくらでもしますよ。ですが、観測点としてはサイズと機能性以外の部分にはアドバイスできません」


<坂下>

「え? でも観測点ちゃんが今着ている服、すごく似合ってて可愛いよ?」


<観測点>

「ああ、これは私が自分で選んだのではなく……」


 と言って、観測点は後ろにいた土間を振り返って見る。

 その視線を察して白を切ろうとした土間だったが、結局は観念して白状する。


<土間>

「……私があげたものなんだ。離れて暮らしている娘と同じ年頃でね」


<観測点>

「いろんなものをいただけるので嬉しいです。この後のご飯もごちそうしていただけます」


<坂下>

「……土間さん、やっぱり優しいんでは?」


 宮川は苦笑する。


<宮川>

「ともかく、わかったことが二つある。一つは、このまま土間さんに付き合ってもらえばいい服を選んでもらえそうだ、ということ」


<土間>

「もう一つは?」


<宮川>

「最初に見かけた人に声をかけてついてきた、ってのは嘘で――」


<観測点>

「え、そうなんですか?」


<土間>

「……実はそうなんだ。迷惑だったかな」


<観測点>

「いえ、次からは観測点から声を掛けます。観測点的には父と母がいないので、これからも積極的に保護をよろしくお願いしたいところです」


<宮川>

「たぶん喜んで保護者になってくれるだろう。こき使ってあげとくんだな」





 正午ごろ、たまたま合流したメンバーで飲食店に寄って食事をする。

 坂下、宮川、チャフカ、なだら、ジュニアの五人。


<宮川>

「地底というから狭いのかと思ったが、都市はちゃんと広くて、こうして生活している人はたくさんいるんだな」


<ジュニア>

「あ、そうだよ! びっくりした? 基本的に地上の人間って地下世界のことなんか知らないんだよね?」


<宮川>

「たぶん、知らないと思うぞ。少なくとも俺は一度も耳にしたことがなかった」


<坂下>

「みんなそうだと思います。説明を聞いた今でも現実感がなくて信じられませんから。そうだ。いつから地底に人が住んでいるんですか?」


<ジュニア>

「えっと、いつからって言うと……」


 食べようとしていた刺身をぽろっと落としたジュニア。

 動きが止まってしまった彼の代わりに、なだらが答える。


<なだら>

「地底の歴史は少なくとも二千年は続いていると推測されているんだ。一般的には地上とほぼ同時期に文明が誕生したと考えられているみたいだね」


<チャフカ>

「よく勉強してるじゃねえか、なだら」


<なだら>

「せめて勝てるところ、って探したのが勉強ですから。チャフカ先輩に負けてばかりもいられません」


<ジュニア>

「もぐもぐ。……この二人、いっつも喧嘩してて仲いいんですよ」


<坂下>

「そうなんですね。あ、僕と先輩の関係に似てるのかな?」


<宮川>

「いや俺たちは喧嘩はしてないだろ。……してないよな?」


 こほん、と咳ばらいをして、なだら。


<なだら>

「……さっきの話の続きだけど、どうしてこんな地底に人類が住み着くようになったのか、その理由は未だに明らかになっていないんだ。その手段ときっかけも、全然わかってない」


<坂下>

「不思議ですね。にわかには信じがたい話です。地下にも世界があったなんて」


<なだら>

「そうだと思うよ、普通は」


<チャフカ>

「無理もない。地底の人間は地上にコンプレックスを抱いているか、優越感を抱いているかのどちらかの理由で、接触は避ける傾向にあるからな」


<ジュニア>

「そもそも連絡手段がないですもんね。人間も機械も、地上に出た途端に消えてしまうから」


<坂下>

「出た瞬間、っていうのは怖いですね。地上の人間にとっての宇宙みたいなものなのかな」


<宮川>

「いや、乗っている宇宙船ごと消えるって話だから、地上の人間にとっての宇宙よりも怖い場所だ。灼熱の太陽に突っ込むみたいなもんか」


<坂下>

「そっかぁ……」


<なだら>

「……というわけで、地下から地上に行く人間はいないんだけど、地上から地底に迷い込んでくる人間は存在するんだよね。そういう人間は地上や地下という概念にとらわれず、自由に行き来できる存在として重宝されているよ」


<宮川>

「俺たちみたいな人間のことだよな?」


<なだら>

「そういうことになるね」


 ふむふむと納得して何度も頷く宮川。


<宮川>

「なるほどね、自覚はなかったけど意外と貴重な人材ってわけか。……うーん。だったらさ、俺、ここの副リーダーを狙っちゃ駄目か?」


<チャフカ>

「おいおい、控えめにでかく出たな。俺の後ろに乗ってて影響されたか?」


<なだら>

「影響って、チャフカ先輩は狙ってたんですか……」


<チャフカ>

「当然だろ」


<宮川>

「すまん、こっちは冗談だ」


<ジュニア>

「あはは、ジョークかぁ! びっくりした!」


<坂下>

「僕も驚きましたよ、先輩。新人バイトが初日からバイトリーダーを目指すってわけじゃないんですから」


<宮川>

「びっくりさせて、すまんすまん。まー、あれだな。実際に目指すとなると小指だな」


 宮川は右手の小指を立てる。


<チャフカ>

「は、小指? お前、小指にどんな思い入れがあるんだよ……」


<宮川>

「だってほら、小指にはクモの糸がつながっているって言うじゃないか。だから俺は地獄にいる人間を救い出す手助けをしたい」


<チャフカ>

「小指につながっているのは赤い糸だろ。それも迷信みたいなもんだが」


<ジュニア>

「あ、だったら目指すとこって恋のキューピッドですか?」


<坂下>

「先輩が? 意外。むしろ邪魔しそう」


<宮川>

「おい」


<坂下>

「あっ、喧嘩になっちゃう」


<なだら>

「そこで僕からのアドバイス。手を出したら負けるから冗談でも暴力に訴えるのはやめよう」


<坂下>

「ですね。せめて勉強で勝とう。でも先輩、大学生か……」


<宮川>

「……話を戻すぞ。小指は小指でも、俺が目指すのはタンスの角にぶつける足の小指だ」


<なだら>

「想像するだけでも痛いね、それは……。どこが目標なのかな?」


<宮川>

「率先して盾になる!」


<チャフカ>

「単なる不注意だろ!」


<ジュニア>

「あはは!」


<宮川>

「……まあ、なんにせよ、目標は高く持ちたいってことだ。ともかく、これからよろしく頼むぜ!」

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