16 過去に否定された道 ― Great Empire ―
大帝と戦うため、前線に向かう予定だったムーの移動要塞パシフィック。
しかし大統領が大帝との同盟を決め、行き先が変更される。
これを不服とする一部の軍人が反旗を翻して、パシフィックの奪還作戦を決行。
<ムーの兵士A>
「大帝に対する最後の砦として期待された移動要塞パシフィックだが、身勝手な政府の意向で大帝と同盟を結ぶことが決まり、投降する形でフルヒクダニの要塞へと送り込まれることになった。軍人ならば私と同じく理解されるだろうとは思うが、これは屈辱である」
<ムーの兵士B>
「しかし命令だ。政治家には逆らえない上層部の決定でもある」
<ムーの兵士C>
「今まで戦っていた敵に与えられた甘美な作戦を前にして、エサで飼い慣らされた犬のようにブンブンと尾を振り、白旗を上げて平和を投げ捨てていたとしてもか?」
<ムーの兵士B>
「言いたいことはわかる。神聖日本王国との開戦時に『我々の正義が……!』などと言っていたわりには、いささか変わり身が早すぎる」
<ムーの兵士C>
「だろう。軍や国民をないがしろにしているとしか思えん」
<ムーの兵士A>
「それでは皆さん、ここで一つお尋ねしましょう」
全員が顔を見合わせる。
<ムーの兵士A>
「我々ムー軍の威光が、誇りが、ふしだらな政情に翻弄されたままでよろしいか?」
ムーの将校が首謀するクーデター。反乱軍による平和奪還作戦。
演説をして呼びかける。
<ムーの将校>
「私はこの度のムラシャフカ大統領の政治的決定と、それに明確な異を唱えられない軍上層部に対して憤りと危機感を抱いた人間である。突然のことで驚かれるかもしれないが、私は声を大にして尋ねたい。この同盟による平和は、誰のための平和であるか? いったい何のための平和であるのか!」
<ムーの将校>
「今回のことではっきりわかったではないか。ムーに明確な正義はなく、誇れるような大義すらないのだと。今一度、よく考えてみて欲しい。地上侵攻が成功した未来を。そこに待ち受けるのは、平和でも繁栄でもない。地上世界の反感を買った結果として我々にもたらされるものは、今以上の総力戦だ」
<ムーの将校>
「考えることを止めた人間にはこう感じられていたことだろう。ムーが大日本同盟と休戦して同盟を組めば、地底の戦争は終わる。新たな可能性が地上にも開かれると。だがそれは結末ではない。新しい戦いへとつながる第一歩なのだ」
<ムーの将校>
「移動要塞パシフィックは止まる。平和のために止まる。平和の象徴として、進攻を止めてしまう。だがそこで止まらずに考えて欲しい。その平和は誰が口にした、誰にとっての平和なのかを」
<ムーの将校>
「だから私は反抗する。軍人としての命を懸けて、軍人としての誇りを胸に、地上と地底の真の平和のため、偽りの正義によって打ち立てられた平和への道を否定する!」
<ムーの将校>
「賛同せし者はどうかともに! 移動要塞パシフィックを奪還する戦いに手を貸していただきたい。これは、平和奪還作戦である!」
ムー軍によるクーデターの勃発直後、大日本同盟にも疑念や不満などが広まる。
<大帝の兵士A>
「いいか? 地上侵攻作戦が始まれば、まずは地上の日本を我々の支配下に置くことになる。大帝は損害なしで日本を屈服させられるだろう」
<大帝の兵士B>
「しかし灰の大地にするとなれば、地上を不毛の大地に変えてしまうと同じ事でしょう? それは、おびただしい数の人間を犠牲にすることにほかなりません」
<大帝の兵士A>
「それも覚悟の上だ。そうでもしなければ我々は地上に手が届かぬのだ」
<大帝の兵士B>
「ですが、それは虐殺でしょう」
<大帝の兵士A>
「……何が虐殺か! ムーの馬鹿どものクーデターにでも影響されたか! 敵の言葉で簡単に揺れ動いた人間の信念が、真に望ましい未来を勝ち取れるものか! 恥を知れ、若造!」
<大帝の兵士B>
「恥を知った上で申し上げております! 反逆罪でも構いません! 侵略戦争など、過去に地上の日本が捨てた道です!」
<大帝の兵士A>
「その過去の日本の成れの果てが、今の地上に君臨する日本だ! 正しい戦力を放棄して、無策に金をばら撒き、敵と見れば土下座一つで屈するばかりではないか! 我々の作戦は正しい強さによって地上の日本を救うためでもある! そういう広い視野を持たぬ雑兵ごときに、大帝の高尚な理念など理解できまい!」
ムー軍による奪還作戦を前にして、移動要塞パシフィックを包囲して守る大帝軍。
<大帝の隊長>
「命令に従順な部下を持つ者の宿命として、自らも命令に逆らってはならぬ立場なのは間違いないが……。もしここで世界の命運を左右する決断を下すチャンスがあるのならば、私は責任ある人間として大いに迷わねばなるまい」
<大帝の兵士>
「隊長、パシフィックをめぐる戦況は我々に有利です」
<大帝の隊長>
「……そうか」
<大帝の兵士>
「何か考え事ですか?」
<大帝の隊長>
「いや、この場で戦闘停止を呼びかけた場合の想像をしていたところだ」
<大帝の兵士>
「ご戯れを」
<大帝の隊長>
「もちろん気の迷いだよ。平和を成し遂げるためには、まず勝利しなければならない。この場の戦闘を終わらせたところで、それは問題の先送りにしかならないのだからな。軍人にできることは、祖国を守ることと、戦勝によって祖国の地位を押し上げることだけだ」
パシフィック奪還のため、攻撃を仕掛けるムーの反乱軍。
しかし大帝の反撃に苦戦。
<ムーの兵士>
「隊長! パシフィックは大帝によって完全に包囲されており、その防衛網を突破することがままなりません。戦力の差が圧倒的です!」
<ムーの将校>
「状況的には絶望かね?」
<ムーの兵士>
「いえ、むしろ残るのは希望だけです。勝利のための現実的な作戦は残っておらず、もはや奇跡を願うしかない。それだけが我々の支えです」
<ムーの将校>
「しかし考えることを放棄して、手を組み合わせて勝利を願うだけでは、そう遠くないうちに敗北が訪れるというものだ。……いいだろう。最後の突撃を敢行する前に、首謀者となった私からもう一度だけ呼びかけよう」
<ムーの兵士>
「は! どうかお願いいたします!」
<ムーの将校>
「うむ。どうか頼むよ、天よ……」
国内外へと呼びかけ、クーデターへの協力を再び訴える。
<ムーの将校>
「大帝が地上へと第一歩を踏み出した時、こう考えた人も多いだろう。……ああ、これで地底にも夜明けが来るのだ。地上世界との交流が始まるのだ、と」
<ムーの将校>
「ただそれも、大帝による地上侵攻がドーム状に区切られた地域だけであったからこそだ。そこには地上の政府との会話の余地が残されていた。こちらが誠意を見せれば、地上ともわかり合える可能性が残されていた」
<ムーの将校>
「だがどうだ? 大帝によって明らかにされた灰の大地作戦は、間違いなく地上の全土を破壊する。人間だけに限ったものではない。我々があれほど憧れた、夢見た、あの美しい地上の自然までをも破壊する作戦である」
<ムーの将校>
「……ああ、間違いなく我々は地上に出られるだろう。だがその時に見る地上の風景は、空を灰に覆われた、この地底世界と変わりない地獄になると考えていただきたい!」
<ムーの将校>
「大帝を否定すれば、我々は二度と地上の世界を見られないだろう。しかし私は断言しておきたい。この地底にも幸せはあるのだと! 地上は確かに幸せな世界に見える。可能性に満ちていて、開放的で生きやすかろう。それでも我々は、この地底で、ただ鬱屈と生きながらえてきたわけではあるまい!」
<ムーの将校>
「君は、生まれて一度も笑顔を知らないか! 君は、人生で一度たりとも優しさを知らないか! そして君は、愛するものを知らないか! 場所や状況など関係ない。地上の人間をねたみ、ひがんだところで、我々が幸せになれると決まったわけではないのだ」
<ムーの将校>
「我々が実現すべきは大いなる野望ではなく、ありふれている小さな願いだ! その願いは血を流して達成されるものではなく、ちょっとした努力や気遣いで果たされるものだ! 見知らぬ地上の人間を恨むよりも、隣の人間に優しくすることこそが、我々が勝ち得た人生なのだ。それを実践するだけで、地底には幸せが満ち溢れる」
<ムーの将校>
「私は改めて、最後にもう一度問う。侵略国家に過ぎない大帝と同盟を結ぶために利用されているパシフィックを、私とともに奪還しようではないか!」
ムー共和国の後ろ盾を失い、平和奪還作戦に参加するかどうか悩むジャレス。
<リーダー>
「何度も呼びかけているってことは、さすがに劣勢らしいね。ムー軍も全体が反乱しているわけじゃなくて、ごく一部の部隊だけらしいから……」
<カイル>
「ですけど、実際、この平和奪還作戦は成功してくれたほうがジャレスとしても助かりますよ。このままムーが大日本同盟と同盟を結んだら、もう俺たちに勝ち目はなくなります」
<チャフカ>
「じゃあ、あの呼びかけに反応して駆けつけるって言うのか? 敗色濃厚、ほとんど死地となっている戦場に」
<カイル>
「それは……」
<チャフカ>
「お前が即答で『当然!』と答えるようなやつじゃなくてよかったよ」
<なだら>
「でもチャフカ先輩、実際、この平和奪還作戦が失敗したら大変ですよね?」
<チャフカ>
「そりゃ大変に決まってる。でもしょうがねえだろ。俺たちには、できることとできないことがあるんだ。モグラ教団のサダマサを救出に行ったのだって、結局は失敗しちまった」
<なだら>
「そう、ですよね……」
黙って聞いていた坂下が遠慮がちに声を挟む。
<坂下>
「それに、これは、ムーの正規軍とムーの反乱軍の戦いでもあるんです。敵が大帝だった時とは違って、今まで何度も一緒に戦ってきたムーの軍人とも戦わなくちゃならないかもしれないんですよね?」
<リーダー>
「それは、そうだね」
<坂下>
「たとえば、僕は、ドレイクさんが敵として出てきたら、殺せません。どんなに憎らしいことを言われたって、攻撃するだなんて……」
<チャフカ>
「それが当然の感覚だ。ダブルスタンダードだとか、無責任だとか、いろいろなことを言ってくるやつはいるだろうが、そう簡単に割り切れるもんじゃねえ」
<坂下>
「でも……」
口をつぐむ坂下。
全員の様子を見まわして、覚悟を決めたリーダーが口を開く。
<リーダー>
「決めた。今回は静観しよう」
<カイル>
「リーダー、いいんですか?」
<リーダー>
「うん。無責任にみんなを危険な目に合わせるわけにはいかない。どうしても無茶をしなくちゃいけない場面があるなら、その時にやらなくちゃ」
結果、ムーの反乱軍による平和奪還作戦は失敗。しかし軍や世論の反発で立場が危うくなった大統領が保身のため、大帝との同盟を白紙にする。
影響力が低下した大統領ではなく、軍の意向によってアゲハを訪れたムー軍のドレイク。
<ドレイク>
「残念ながら平和奪還作戦は失敗した。移動要塞パシフィックの奪還は大帝とムーによって阻止された。いくら理想を語っても、それだけでうまくいくほど現実は甘くはないってことだろう。ムー共和国も長年続いてきた大国だ。一部の軍人が反乱した程度で崩れるほど弱くはない」
<リーダー>
「うん……」
<ドレイク>
「だがな、安心しろ。国内の反感が強まったムー政府は大帝との休戦及び同盟を事実上諦めて、ムーの軍人は大部分が休戦を決めた大統領令に意を反したよ。一度は決定したからには大統領の体面やプライドがあるのだろうが、軍人には守るべきものと誇りがあるんだ。平和奪還作戦から始まったこの勢い、大帝をつぶすまで止まらないだろうさ」
<リーダー>
「……うん」
<ドレイク>
「一度は離れちまって悪かったなぁ、ジャレスの皆さんがた! 今から再びムー軍は大日本同盟の敵になるぜ! 一緒に戦おうじゃないか!」
<リーダー>
「全く、本当に調子いいなぁ。案外、ただ追い返されただけなんじゃない?」
<ドレイク>
「そう言うなって! つれねぇな!」
<リーダー>
「あはは、大丈夫です。本当は俺、泣きたいくらい嬉しいですから!」
<ドレイク>
「さすがにパシフィックのような移動要塞をここに用意してやるのは無理だが、ムーの軍人も少なからず協力してやるんだ。大帝の作戦、ぶち壊してやろうぜ!」
阿蘇山の地下にある大帝の要塞。灰の大地作戦が実行間近。
ジャレス、最後の出撃。
<リーダー>
「みんな、この戦いがおそらく最後になると思う。だから、その……」
<宮川>
「言わなくたってわかるさ。正念場だろ?」
<チャフカ>
「訓練の成果を見せ付ければいいだけのことだ」
<なだら>
「ここまできたら、不安も心配もどんとこいですよ」
<土間>
「自分もアゲハで、できることはしよう」
<ジュニア>
「僕だって役目を果たしますよ!」
<カイル>
「ああ、みんな、頑張ってくれ!」
<坂下>
「とりまちゃん、僕らも頑張ろうね?」
<とりま>
「うん!」
作戦開始から戦闘を重ねて、最終的には大帝の拠点に突撃するジャレス。
旗艦となる大型戦艦の周囲に小型艦を配置する「日の丸戦法」で布陣する大帝の軍人。
地雷のように張り巡らされた大帝軍の自動砲台、不知火砲の砲撃。
ムー軍のマックス小隊と、大帝の五六三十との決着。
なだらが負傷した瞬間、前後を入れ替わって切り抜けるカイル。
乗り換えたシーシーザーで次々と戦果を挙げるチャフカ。
とりまとリンクして覚醒した人柱たちも、大帝軍への攻撃に参加。
<坂下>
「とりまちゃん、この機体……なんだか輝いてるよ! 不思議な力を感じる!」
<とりま>
「ん、うん!」
とりま、力を感じて笑顔で頷く。
<坂下>
「どういうことだろう、光に導かれている……?」
<カイル>
「おい、坂下。もしかすると、お前たちの機体は大帝の人柱システムに共鳴しているんじゃないか?」
<坂下>
「……共鳴?」
<カイル>
「きっと、とりまがシステムの中枢に近づいたから反応したんだろう。とりまは実験体の中でも……人柱システムの基幹となる存在として大帝に生み出された人間なんだ」
<坂下>
「人柱システムの基幹……そうなんだ」
坂下は前に座っているとりまを見る。
<坂下>
「とりまちゃん……」
<とりま>
「……うん」
<カイル>
「今のお前たちなら、地上や地底の人間だけでなく、大帝に利用されている残りの実験体も救い出せるはずだ。期待しているぞ」
とりまは座ったまま振り返り、坂下に目を合わせて力強く頷く。
<とりま>
「ん」
<坂下>
「……そっか。そうだよね。とりまちゃん、みんなを助けたいんだね、君は!」
<とりま>
「うん!」
<坂下>
「もちろん僕もだよ!」
笑顔で頷く坂下。
<坂下>
「終わらせよう! 上空に灰の大地を生み出すっていう大帝の人柱システムを、僕たちの手で破壊するんだ!」
<とりま>
「うん!」
劣勢に次ぐ劣勢で大日本同盟の敗北が目前に迫る。
追い込まれた参謀総長の八島は人柱システムの開発者である福島のもとを訪れる。
<八島>
「半世紀以上続いた大日本地底帝国も、ついにその名を失ってしまうのか。過去に否定された、地上世界の大日本帝国のように」
<福島>
「どうやら、あなた方の抱いていた地上への夢もここで潰えてしまうようですね」
<八島>
「勘違いはするな。夢が消えるのではない。ただ現実が、それを一時的に否定するだけだ。ただ己自身が、いつまでも見続けることを否定するだけだ。私はなぁ、福島。たとえ自分が死んだとしても、夢だけは残す」
<福島>
「そうですか。このまま徹底抗戦するのも立派な生き方ではあるのでしょうが、あいにく私はあなた方と心中するつもりはないのでね。一足先に地上へ逃げ延びさせてもらいますよ」
<八島>
「今さらお前一人を道連れにしたところで我々の無念が晴らされるわけではないのだから、みっともなく引き止めはせんよ。だが、地上に戻ったところでお前に待っているものがあるのか?」
<福島>
「待っているもの? そんなもの、一つもありませんよ」
<八島>
「そう、お前は失うだけだ。この地底でこそ、お前には価値があった。ならばともに、死ぬ瞬間まであがいてはみないか? 命を懸けて夢を受け継がせてみないか?」
<福島>
「ふふふ。そもそも私は自身に価値など求めていないのです。必要とされる必要もないのです。それに私には地上でも失わないものがありますから」
<八島>
「失わぬもの?」
<福島>
「この身に詰まった知識ですよ。思い出と言ってもいい」
福島は自分の頭を指差して微笑む。
<八島>
「なるほど。それは宝だな」
<福島>
「再起のためにも。それから、復讐のためにもね……」
<八島>
「わかった。お前は地上で夢の続きを見るがいい」
しかし地上へと脱出する途上で、失敗作として廃棄したはずの実験体に襲われる。
何かを言う暇さえなく、福島は死亡。
最終的に阿蘇山地下にある要塞が破壊され、大帝の作戦は失敗。
大帝の軍上層部の多くが死亡、拘束され、皇帝が降伏を認める。
地底の戦争は終結。




