15 どんなことをしてでも
アゲハの格納庫。
<ドレイク>
「サダマサの救出作戦には失敗したが、あれが無茶な作戦であったことはムーの上層部もわかっていたらしい。そのお詫びと言っちゃなんだが、ムーからジャレスに一機だけ複座式のシーシーザーを譲り渡すことになった」
<リーダー>
「ありがとう。息吹二式が一機なくなって困っていたからね。本当に助かるよ」
<坂下>
「すみません、僕たちのせいで……」
<カイル>
「お前たちが謝らなくていい。あの作戦で俺たちの誰も死ななかったことは奇跡だ。お前たちはよくやった」
<チャフカ>
「……で、その機体は誰が乗るんだ? とりまか?」
<坂下>
「どうかな? とりまちゃん」
<とりま>
「んん……」
とりまは息吹二式のほうへと視線を向ける。
<リーダー>
「今までと同じく、息吹二式がいいみたいだね」
<カイル>
「本人の気持ちはもちろんですが、慣れている機体に乗ってもらったほうがいいでしょう」
<チャフカ>
「だったらこいつは俺にくれ」
<リーダー>
「構わないけど、大丈夫?」
<チャフカ>
「ああ。今よりもっと活躍したいからな。何かを変えてみたかったんだ」
<リーダー>
「そっか。じゃあお願いするよ」
<チャフカ>
「ありがたい。では早速……おい、宮川!」
<宮川>
「……わかってる! こいつに乗って訓練するんだな!」
<ドレイク>
「待て待て、ムーの軍人である俺の説明を受けてからにしろ!」
やる気に満ちているチャフカと宮川を追いかけるドレイク。
各地の戦闘でムー軍を圧倒していた大日本同盟だったが、統率力のないアジア諸連合の無計画な横槍に悩まされて、戦況は膠着。
想定よりも戦域が拡大した大帝は戦力の維持と分配が難しくなり、特攻機である衝天の実戦投入を決める。
<大帝の兵士A>
「このままでは大国であるムーとの消耗戦になる。持久力では勝てるか怪しい。戦局打破のため、次の戦闘から貴官の部隊に衝天を投入する」
<大帝の兵士B>
「衝天……まさか、例の特攻機ですか?」
<大帝の兵士A>
「目的のためには手段を選ばず。この選択が正しいかどうかは、すべてが終わった後に考えるんだな」
<大帝の兵士B>
「ですが、一体誰がそれを駆るのです? 人員に余裕はございません」
<大帝の兵士A>
「その点は安心しろ。例の実験体ども、生育と調整に失敗して廃棄する予定だった人柱を利用する」
<大帝の兵士B>
「大丈夫なのですか? 意思を持たないという話ですが……」
<大帝の兵士A>
「これは命令だ。質問はいらない。ただ答えろ。よろしいか?」
有無を言わさず問われた下級兵士は敬礼して答える。
<大帝の兵士B>
「はっ!」
大帝との戦闘で、前線に投入された特攻機を目撃するムー軍。
<マックス>
「おいおい、なんだ、ありゃあ? 上に向かって一気に加速していったぞ」
<アル>
「マックス隊長、アレが最近噂になっている、戦場の打ち上げ花火です!」
<エル>
「相手の機体に取り付いた後、地上まで一気に浮上して、飛び出した地上でパイロットごと機体を消滅させてしまうという敵の特攻機です」
<アル>
「お気をつけください。アレは武器を持たぬ代わりに推進力が桁外れで、一度取り付かれてしまうとなす術もなく地上に打ち上げられてしまうようであります!」
<マックス>
「なるほどなぁ……。そして、敵味方もろとも消滅する。自爆覚悟の攻撃かい。いよいよ敵も追い詰められたわけだ」
敵味方の双方に無視できないインパクトを与えるものの、戦果は限定的で戦況に大きな変化はなし。
大帝の前線司令部は重苦しい雰囲気に包まれる。
<大帝の指揮官>
「人柱という自我のない人形のような人工兵士が、無慈悲な特攻機に乗せられて道具のように使い捨てられている。それを実際に命令するしかない私は言いようのない恐怖を感じる。君はどう感じたかね?」
<大帝の兵士>
「戦争という状況が、我々をおかしくしているのか。我々がおかしいから、このような戦争を引き起こしてしまったのか。どちらにせよ罪の深さを感じずにはいられません」
<大帝の指揮官>
「うむ。兵士たちは命令に従わされるが、決して受動的な殺人兵器ではない。地上であれ地下であれ、いつの時代も愚かな上層部が組織を駄目にするものだな」
<大帝の兵士>
「今の我々は、果たしてどうなのでしょうか?」
<大帝の指揮官>
「それは後世の歴史家が判断してくれるだろうが、私がその一人であるとすれば、こう書く。たとえこの戦いに我々が勝ったとて、これを決定した上層部とこれを遂行させる現場の指揮官は恐ろしく愚昧な大罪人であったとね」
その後、大帝の演説により、広く明かされる“灰の大地作戦”。
なかなか好転しない戦況を打破するため、大帝は地底世界に訴える。
<大帝の兵士>
「地底は暗く、狭く、あらゆる可能性が閉ざされた地獄の世界だ。我々は、いかなる手段を用いてでも、この殻を破らねばならない。地底の繁栄のためにも、我々の行いは誇るべき偉業となるに違いない」
本格的な地上侵攻のため、地底に一致団結を呼びかける大帝。
<大帝の兵士>
「大地底共栄圏を、我々は地上世界に作るのだ! それを実現させるものこそ、大帝が考える灰の大地作戦である!」
大日本同盟による灰の大地作戦を防ぐため、奮闘するジャレス。
<リーダー>
「灰の大地作戦……。九州地下の拠点で阿蘇山を強制的に大規模噴火させ、発生した大量の火山灰によって上空に灰の大地を作り、その灰に覆われた地上世界を”地底”にする、か」
<カイル>
「それを実現させるのが、大帝の生み出した人柱システム。意志を持たない実験体たちを仮想の柱にして、そのエネルギーによって上空の灰を支える。天草の時は疑似的な海面で、今度は疑似的な地面ってわけか。いよいよ地上侵攻が現実味を帯びてきましたね」
<宮川>
「どうするんだ? もちろん止めるんだろうが」
<リーダー>
「それはもちろん、俺たちは止めるつもりだけど……」
<カイル>
「地底世界がどう出るかはわからない。最悪、全部が敵になる」
地上への進出を夢見るムーは大帝と休戦協定を結ぶことを決定。
灰の大地作戦の実現性を高く評価した大統領の一存で、ジャレスを見捨てる。
<ムーの兵士>
「大統領、緊急の大統領令を出したいとは、一体全体、何事でございましょう? 議会を通していないようですが……」
<ムラシャフカ>
「うむ。前線へ向かわせていた移動要塞パシフィックは進路変更。大帝との二国間協議の舞台としてフルヒクダニの要塞へ向かわせろ」
<ムーの兵士>
「と、申しますと?」
<ムラシャフカ>
「これより、戦いの構図は大きく変わる。我々ムーと大帝との地底戦争から、地上への脱出を望む地上対地底の戦乱に変わるのだ」
<ムーの兵士>
「まさか、地上進攻を成し遂げるという大帝の作戦を信じるのですか? 今まで戦ってきた戦争を停止してでも、彼らに協力するというのですか?」
<ムラシャフカ>
「いいや、利用するのだよ」
<ムーの兵士>
「利用……」
<ムラシャフカ>
「大帝に対して休戦を呼びかけろ。そして我々が例の作戦に参加することを条件に、同盟を持ちかけろ」
<ムーの兵士>
「了解いたしました」
<ムラシャフカ>
「むふふ……。地上は私のものだ。かねてより地底は狭いと感じていたのだよ」
灰の大地作戦にまつわる演説後、大帝の参謀本部。
<大帝の兵士>
「閣下、地上侵攻の妥当性については何も申し上げるつもりはございません。ですが、現状の戦力のまま地上へと戦域を広げてしまうのは、いささか早急であると進言させていただきたい」
<八島>
「君の進言を一定の評価はしよう。ただし採用はしない。我々が一番乗りで地上支配を行うことにこそ、重大な意味がある。地上におけるイニシアティブを得るためには、な」
<大帝の兵士>
「だからといって、それが今である必要はございません。他の勢力には我々ほどの技術力がなく、地上へ侵攻することは不可能なのですから」
<八島>
「いいだろう。……もしここで本当の理由は『私に残された寿命が少ないからだ』、などと言ったら笑うかね?」
<大帝の兵士>
「私を笑わせようとして発した冗談のつもりならば、引きつった苦笑程度は提供できます」
<八島>
「笑い飛ばすこともできないか。つまらん奴だ。まあよい。真の理由は、活路だ」
<大帝の兵士>
「活路?」
<八島>
「もしこの作戦がなければ、我々はムーと敵対したまま周辺諸国からの反発を買い、それに乗じたその他の勢力からも宣戦布告された可能性が高い。さすがに地底世界のすべてを敵に回してしまうと未来はなかろう。地上の日本の二の舞は演じたくないのでね」
<大帝の兵士>
「確かに、短期的な目で見ればこの戦争は我々が優勢でしたが、長期化すれば危うかったのは事実であります」
<八島>
「だが、どうだ? 駆け足的な展開とはなったが、結果的にこの灰の大地作戦が明るみに出たおかげで、一時的とはいえ地底の勢力は一色に染まることに成功したのだぞ。それも、技術を占有する大帝の色に、だ。……敵の敵とは、すなわち地底にとって共通の敵とは、考えるまでもなく地上だったのだよ」
<大帝の兵士>
「……しかし、別の考え方もできます。敵の敵である地上を、我々の味方に引き込めれば」
<八島>
「そんなことができると思うか? 地上の人間が、いきなり現れた見も知らぬ地底人に、なんの見返りも求めずに手を貸すと思えるのか?」
<大帝の兵士>
「馬鹿な子供くらいなものですね、そんなことができるのは」
<八島>
「そうだ。馬鹿な子供などに、我々は頼るまでもない」
大日本同盟との休戦を決めた政府の意向により、アゲハを離れるムー軍のドレイク。
<ドレイク>
「悪いな。今やこの地底世界におけるテロリストは、お前たちジャレスだけなんだ。大帝の地上侵攻作戦は、暗く閉ざされた地底世界にとっては希望や可能性なんだよ」
<リーダー>
「だけど今まで戦ってきた相手なのに、そしてそれは地上への侵略行為に等しいのに、それでもあなた方は大日本同盟に共感するんですか?」
<ドレイク>
「大帝の敵は、そもそも地底にはなかったんだ。何十年も前に地底の世界にやって来た彼らは初めから、ずっと自分たちの故郷である地上だけを眺めていた。俺たち地底の人間にとっては遥か天上にあり、決してたどり着けないはずの地上。それを彼らはその手に掴むと高らかに宣言し、その実力もある」
ドレイクはため息を漏らす。
<ドレイク>
「確かにやり方は最善じゃないかもしれない。敵の尻馬に乗ろうとする俺たちムーのスタンスも、好ましいものじゃないかもしれない」
<リーダー>
「だったら……」
<ドレイク>
「だがな、どんなことをしてでも、いつかやり遂げなければならないことがあるんだよ。俺たち地底の人間は、この機会を逃せば二度と地上への道が開かれないかもしれない。閉ざされた地底の内部で覇権を争っている場合じゃないんだ」
<リーダー>
「プライドを捨ててでも、それは必要なことなのかな?」
<ドレイク>
「俺は言ったはずだ。どんなことをしてでも、と。それがたとえ、俺個人の流儀に著しく反していたとしてもだ」




