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天上の地上へ(地下世界・ロボット・戦争)  作者: 一天草莽


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14 ただそれだけのこと

 神聖日本王国と手を組んだ大帝に対して、苦戦が続くムー共和国。

 敵の注意を引くため、捨て駒としてジャレスを敵の要塞に送り込む。


<ドレイク>

「ジャレスはモグラ教団とかいう宗教団体と一緒に日本解放戦線を結成したんだって?」


<リーダー>

「うん。まあ、名ばかりで実体は伴っていないけれど」


<ドレイク>

「それなら安心しろ。ちょうどいい命令を預かってきた。ジャレスは単身、大日本同盟の基地に突撃し、モグラ教団の総司祭であるサダマサを救出しろってな」


 それを聞いたリーダーは顔をしかめる。


<リーダー>

「ジャレスが単身で? 彼が捕らえられている敵の基地が、どれほど難攻不落か知っていての言葉かな、それは?」


<ドレイク>

「嘘や誤魔化しが本当に苦手だからあっさり本音を言ってしまうが、本国の命令はお前たちを捨て駒のように使うものだな」


<リーダー>

「わかってはいたけれど、改めて聞かされるとひどいね」


<ドレイク>

「だが、それ以外の戦場ではお前たちのためにも戦ってやってるんだ。あちらでもこちらでも大帝が本気を出しているから、今回の作戦には援軍も出せないけどな」


<リーダー>

「俺たちのためにも戦っている、か」


<ドレイク>

「ま、そういうことだから戦果を期待しているぜ」


 ドレイクは立ち去る。


<リーダー>

「所詮、俺たちはムーにとって切り捨てやすい部隊の一つに過ぎないのか。戦略的互恵関係とは言いながらも、協力的なのは上っ面のことで、お互いに利用し合っているだけなんだろうな。それ以上でも、それ以下でもない冷めた関係なんだ」


<坂下>

「……利用するために近づいた、ただそれだけの関係ですか」


<リーダー>

「うん。だからこれは、あくまでも俺たちが、俺たちのために決行する作戦だ。サダマサを救出するのはムーが必要とするからじゃない。いつか来る平和のために俺たちがそうしたいからだ」


<カイル>

「はい、リーダー。それなら俺たちは胸を張って戦えます」


<リーダー>

「ありがとう。今までになく厳しい戦いになると思うけど、俺たちは自分の意思で立ち上がったレジスタンスなんだ。同じように平和を望むモグラ教団の総司祭を見捨てることはできない」





 モグラ教団の総司祭であるサダマサの救出作戦。厳しい警備の収容所。

 出撃前、坂下を呼び止める中上。


<中上>

「ちょっと待って、坂下。今回の出撃、今までになく激戦になるんでしょ? とりまちゃんもだけど、私、あなたのことが心配で……」


<坂下>

「あ、うん。正直に言えば、作戦の成功はおろか、無事さえも保証できないって」


<中上>

「そっか、そうだよね……」


<坂下>

「うん……。あ、そうだ。これ」


 ずっとしまっていたポケットから取り出したプレゼントを渡す坂下。

 それはジパングリラで買ったネックレスだ。


<中上>

「え、何?」


<坂下>

「とりまちゃんには笛をあげたけど、中上にはこれが似合うかなって。渡すタイミングがわからなくて、ずいぶん遅くなっちゃったけどさ」


 受け取って、まじまじと眺める中上。


<中上>

「ありがとう。嬉しい。でもこれ……」


<坂下>

「何?」


<中上>

「彼女に渡すプレゼントじゃない?」


<坂下>

「……ああ、もう! だから買ったはいいけど渡せなくなってたんだ! 勘違いされるのも、されないのも嫌でさ!」


<中上>

「ごめんごめん、本当、すごく嬉しいから。でもこれ、ね、かけてよ」


<坂下>

「……わかった。貸して」


<中上>

「うん」


<坂下>

「……ほら」


<中上>

「ん、ありがとう。似合ってる?」


<坂下>

「……似合ってる。その笑顔、忘れないように覚えておくよ」


<中上>

「馬鹿。帰ってきたらいくらでも見せたげるんだから」





 大帝の防衛部隊との戦闘。

 なかなか突破口を開けず、苦戦するジャレス。

 とりま機は陽動のため、単身で突撃。

 敵の包囲を受けて注意をひきつけるも、複数の敵に取りつかれて地上へ打ち上げられる。


<坂下>

「くそ、前後からつかまれてる! 逃げられない!」


<とりま>

「……んんっ!」


 完全に動きを封じられて焦るとりま。

 抜け出そうとして必死でもがくも、とりま機に組み付いている敵は離れない。

 直後、敵の機体は最大出力で上昇を始める。地下の戦場を離れて急速に浮上していく。


<坂下>

「これ、地上まで向かってる! 僕ら、地下に戻れなくなっちゃう!」


<とりま>

「んっ! んんっ!」


<大帝軍の兵士>

「大帝、万歳!」


 とりま機は勢いよく上昇し、ついに地上へと飛び出す。

 地上に出たことで、大帝の機体と軍人たちは跡形もなく消滅していく。

 一方、乗っていた息吹二式だけが消滅した坂下ととりまは生身のまま勢いよく外に投げ出される。

 急加速と衝撃によって意識を失いかけていた坂下。首にかけていた笛を必死で吹いたとりまの呼びかけで目を覚まし、彼女をかばうように抱いて着水。


<坂下>

「あっぷ、ぷはぁ! ……はは、よかった、無事みたいだね」


<とりま>

「……うん」


 その後、たまたま流れ着いた小島の岸辺で、先に立ち上がっていたとりまは心配そうに坂下へと手を伸ばす。


<坂下>

「ありがとう、とりまちゃん。君のおかげで助かったよ……」


 坂下は彼女の手をつかんで立ち上がる。

 その後、手を離した坂下はとりまに背を向ける。


<坂下>

「とはいえ、これから僕たちはどうしたらいいんだろう。地上に二人で投げ出されて、息吹二式も消えちゃって……。地底に行く方法なんてないし、地底の人たちも地上には出てこられないし、もしかしてこれ、どうしようもなくなったんじゃないか……?」


 坂下は俯いて、ため息をつく。


<坂下>

「みんな、今も戦ってるんだ。これからも戦わなくちゃならないんだ。なのに……」


 とりまは黙ったまま右手を伸ばして坂下の手を取る。振り返る坂下。


<坂下>

「え?」


<とりま>

「……うん」


 優しげに微笑むとりま。


<坂下>

「どうしたの? 何か、方法が……?」


<とりま>

「うん」


 目を閉じた彼女。何かを祈るように、握る手に力を込める。

 すると、彼女を中心にして小島を包むドーム状の疑似海面が発生した。


<坂下>

「これは天草の時と同じ……だったら、地底の人たちもここには来れるってことか!」





 某所にある大帝の研究施設。


<福島>

「なんだ、この反応は? 実験体どもが今までにないシグナルを示している……」


 急いでデータを見比べる福島は一つの仮説に思い当たる。


<福島>

「そうか、どこかで基幹の少女が力を使ったな? その影響が伝わっているのか」


 くくく、と笑いがこらえられない福島。


<福島>

「いやあ、素晴らしいではないか。やる気のなかった実験体どもが刺激を受けて、ずっと閉じていた回路が開いた。これなら基幹の少女がいなくても力を発揮して、最終計画が実行できる。あとは実験体の数を用意するだけだな」


 一方、地底の戦場。とりま機の反応が消えた後のアゲハのブリッジ。


<ドレイク>

「なんだ、ムーからの連絡?」


 アゲハのブリッジで戦闘の趨勢を見守っていたドレイクに、本国から緊急で連絡が入った。


<ドレイク>

「なになに、地上で疑似海面の発生確認? それも俺たちの直上だと? ってことは、可能性は一つか!」


 慌てて通信を切ったドレイクはリーダーに向かって叫ぶ。


<ドレイク>

「おい、リーダーさんよ! 野暮用でライフルを一つ借りてくぞ!」


<リーダー>

「借りていくって、どこへ!」


<ドレイク>

「通信が切れた二人を助けにだ! たぶん地上だ! 疑似海面が発生してる!」


<リーダー>

「それならわかった! 一つと言わず持てるだけ持って行って!」


<ドレイク>

「一つでいい!」


 ブリッジを出て格納庫へと向かい、自分の機体に乗り込んで出撃するドレイク。


<ドレイク>

「場所は戦場の真上か……普通に行こうとすると大帝軍に落とされちまう。だが、あえて遠回りして、先に地上近くまで上昇してから向かえば!」


 加速するドレイク機。しかし進路上で大帝軍の機体と遭遇する。


<ドレイク>

「くそ、捕捉された! 敵も異変を察知して様子を見に来たってのか!」


 撃ち合いになる。かろうじて勝利するドレイク。


<ドレイク>

「ちくしょう! なんとか敵を倒したってのに、機体が損傷しちまって透過エネルギーが長持ちしそうにねえ! こりゃあ、ぎりぎりか!」


 スピードを緩めないまま地上に出たドレイク。

 驚く坂下たちのそばに着陸して、ハッチを開ける。


<ドレイク>

「一応迎えに来てやったが、お前ら二人は地上で暮らすって手もある! これに乗ってジャレスのところに帰るか、この疑似海面のドームの外に逃げるか、お前たちで選べ!」


<坂下>

「選べって……」


<ドレイク>

「悩んでる時間はない! 即答しろ!」


<坂下>

「だったら乗ります!」


<ドレイク>

「よし、乗れ! すぐに戻る!」


 坂下ととりまを乗せたドレイク機は地中に潜る。

 その瞬間、地上に出現していた小さな疑似海面のドームも消失する。





 とりま機が戦場を離脱した後も続く、地底での戦闘。

 サダマサの救出を妨害する大帝軍。


<チャフカ>

「坂下たちの陽動は成功したっていうのに、俺たちの救出が失敗したら元も子もないぞ!」


<なだら>

「だけど! さすがに厳しいよね!」


 なんとかつながった通信で、必死に呼びかける総司祭のサダマサ。


<サダマサ>

「あなた方はお逃げください! 敵は私の身柄を一番に狙ってくるはずですから、ひきつけて見せましょう! きっと退路が開けるはずです!」


<チャフカ>

「ふざけるな! 俺たちは命を懸けてまで、お前を救出にきたんだ!」


<サダマサ>

「ですから、その命を未来のために使ってください! 私が囮になりますから、どうか無事にモグラ教団の皆さんと全員でお戻りください! それが私の願いであり、最後の祈りです!」


 最終的にサダマサの救出は失敗。

 サダマサは身を挺して自爆装置を作動させ、ジャレスとモグラ教団の幹部を逃がす。





 失敗した救出作戦の終了後、ジャレスとモグラ教団の会話。


<チャフカ>

「断る、だと?」


<モグラ教団の信徒>

「申し訳ありませんが、それが生き残った我々の答えです。モグラ教団は純然たる宗教組織なのです。人を殺すための組織ではありません」


<リーダー>

「……だけど、モグラ教団は地底の日本を軍事政権から解放するため、ずっと平和を呼びかけていたのでしょう?」


<モグラ教団の信徒>

「司祭であったツチミコ様は布教活動のための象徴でした。彼女の発言は、すべて現実感のない甘い言葉です。彼女は苦境にある信者たちの心を救うために理想を述べる存在で、ただそれだけの存在だったのです。それ以上でもそれ以下でもありません」


<チャフカ>

「ツチミコのことだけじゃない。お前たちは、たった今自らを犠牲にしてまで助けてくれた恩人のことを忘れたのか!」


<モグラ教団の信徒>

「……サダマサ様は我々が演出した新しい宗教指導者ではありますが、あまりにも若く、人々の上に立つ総司祭の器ではありませんでした。たとえ身を挺していたとしても、それを英雄視してしまうのは問題です」


<チャフカ>

「問題?」


<モグラ教団の信徒>

「ええ。モグラ教団は平和のため、武力を用いない抵抗を望むだけ。彼の犠牲を美化して、英霊のように祭り上げてしまうのは、我々の信者に同じことを求めてしまうのと同義なのです。そんなこと彼も望まなかったでしょう」


<リーダー>

「……では、モグラ教団は今後、日本解放戦線には参加しないと?」


<モグラ教団の信徒>

「助けていただいたことには感謝を申し上げますが、我々のなすべきことは平和を説くことなのです。力によって平和をもぎ取ることではありません」


<チャフカ>

「ふん。それで本当に平和が訪れるなら、俺だって武器を投げ捨てて信じたいものだ。その祈りは何十年続けて、その間に何人が死に続けているんだ?」


<モグラ教団の信徒>

「信じる者にのみ、心の平穏は訪れるのですよ。……ただ、それだけのことです」

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