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天上の地上へ(地下世界・ロボット・戦争)  作者: 一天草莽


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13/17

13 もっと気楽に生きてみろよ、馬鹿ども

 ひそかに語り合う神聖日本王国の軍上層部。


<神聖日本王国の兵士A>

「我が神聖日本王国と大帝の秘密条約は無事締結され、二か国は協力してムーに立ち向かうことが約束された。後は大王の大紫が首を縦に振りさえすれば、敗戦の辱めを受けることなく、我々は大帝との休戦に持ち込むことができる」


<神聖日本王国の兵士B>

「そうだな、すでに軍上層部は大帝政府の皇帝の顔色に関心が移っている。我が軍によるクーデターの日も近づいているということだ。大王側につく人間がどれほど残るか見ものである」


 神聖日本王国で軍によるクーデターの準備が進む中、それを察した大帝が接触する。


<大帝の兵士>

「で、どうかね? 神聖日本王国の内情は」


<神聖日本王国の兵士>

「はい。その時がいよいよ目前に迫りつつあります」


<大帝の兵士>

「歴史が動く瞬間か。大帝を代表して、今回のクーデターを楽しみにしていると伝えよう」


<神聖日本王国の兵士>

「我々も楽しみにしていますよ」


<大帝の兵士>

「ただし、その件で我々が懸念することが一つある。既存の王制を利用するか否かだ。戦争は軍だけでやるものではない。大衆をまとめるには納得感のある権力が必要だ」


<神聖日本王国の兵士>

「そのことについてですが、私は初めて、この国が神聖な王国を名乗っていることを誇りに思いますよ。なにしろ王位継承がいかにも儀式めいていますのでね」


<大帝の兵士>

「儀式?」


<神聖日本王国の兵士>

「親殺しの神話です。王位継承権を持つ子供は、親殺しの特権を持つのです。そしてそれは、神によって肯定される行為であると」


<大帝の兵士>

「ならば、王家の血筋を持つ子供を祭り上げるつもりか? しかし大紫に息子はいないと聞いたが?」


<神聖日本王国の兵士>

「それが最近、内密に進めている養子縁組によって幼い息子ができたのですよ。まるで我々に操ってくれとでも言いたげに」


<大帝の兵士>

「ならば……」


<神聖日本王国の兵士>

「ええ。彼の王殺しを軍が代わりに演出して、王位継承権を持つ少年を次期王に据えましょう」


<大帝の兵士>

「なるほど、それもよかろう。だが、邪魔になっても人形の糸を離すなよ」


<神聖日本王国の兵士>

「ご安心を。我が軍は、そういうことだけは得意ですので」





 神聖日本王国で続く軍部と政権の摩擦。大王は大帝との徹底抗戦を唱える。


<神聖日本王国の兵士>

「陛下、朗報です。我々と戦争状態にあるムー共和国のウェスター要塞が、大帝の奇襲により一日で陥落いたしました」


<大紫大王>

「ムーに打撃を与えたことは朗報であるが、大帝の作戦の成功を喜ぶいわれはない」


<神聖日本王国の兵士>

「ですが、我々はすでに大帝に敗北しつつあります。ここは一時休戦して、大帝とともにムー共和国と戦うべきではないでしょうか?」


<大紫大王>

「ばかばかしい話だ」


<神聖日本王国の兵士>

「……確かにばかばかしい話だと思います」


<大紫大王>

「そうだろう。敵に頭を下げるのは愚か者のすることである。恥を知れ」


<神聖日本王国の兵士>

「ええ。まさにその通り。恥を知るのは、敵を見誤ったものの末路です」


<大紫大王>

「ほほう。やっとお前たち軍人も自分の愚かさに気がついたのか?」


<神聖日本王国の兵士>

「……真の愚か者は死ぬ瞬間まで気が付きそうもありませんがね」


<大紫大王>

「何か言ったか?」


<神聖日本王国の兵士>

「いえ。ただ、ここが本能寺ではないことを祈るべきだと進言したいのです」


<大紫大王>

「なんの話だ?」


<神聖日本王国の兵士>

「地上の日本の歴史です。今夜にも陛下は体験なされるかもしれません」


<大紫大王>

「ばかばかしい。歴史は再演するものではなく、自らの手で作っていくものだ」





 その日の夜、大王の寝室に押し入った軍が大紫を暗殺。

 子供の淡紅あわくれないに王位を継承させ、傀儡政権を誕生させる。


<大紫大王>

「な、なんだ、貴様らは!」


<神聖日本王国の兵士>

「陛下、あなたの敵ですよ!」


 ろくに抵抗できない大紫大王を刺し殺す軍人。


<大紫大王>

「ぐふ……。見誤っているぞ……」


<神聖日本王国の兵士>

「どうかご安心を。あなたの跡は、あなたの“息子”が継いでくれます」


<大紫大王>

「淡紅か……しかしあの子は、まだ年端もいかぬ子供なのだぞ……」


<神聖日本王国の兵士>

「……正しい判断能力を失ってしまっている老害よりはマシでございましょう。素直に人の話を聞いてくれるのでね」


 完全に息絶える大王。


<神聖日本王国の兵士>

「さて、それでは急いで淡紅を祭り上げなければ。王権はあくまでも形式的なもので、実際には軍部が国を乗っ取った形にはなりますがね」





 大王がいなくなり、大帝と神聖日本王国は大日本同盟を結ぶ。

 大日本同盟とムー共和国による地下太平洋戦争の始まり。

 これ以後、ムーは実質的に二国を相手に戦う羽目になる。


<神聖日本王国の兵士>

「新しい陛下は日本同士の戦いにひどく心を痛めておられた。ゆえに我が軍は今までの所業を深く反省し、ここに新たな誓いを立てようと思い至ったのです」


<八島>

「本日をもって、大日本地底帝国と神聖日本王国は大日本同盟を結ぶことを誓おう」


<神聖日本王国の兵士>

「我々は、日本の名において一つとなることを約束します」


 会談場にて、代表二人が握手。


<八島>

「記念すべき日となりましたな」


<神聖日本王国の兵士>

「歴史的な日です。これからはムー共和国を共通の敵として戦いましょう」


<八島>

「そして、更なる飛躍をしようではないか」


<神聖日本王国の兵士>

「ええ、ぜひ地上まで」





 大日本同盟による弾圧が厳しくなり、国内での反戦運動に限界を感じたモグラ教団の使者がジャレスを訪問する。

 ジャレスとモグラ教団はムーの協力で日本解放戦線を結成。


<カイル>

「リーダー、神聖日本王国で活動するモグラ教団という宗教団体の遣いがジャレスを訪問されて来ましたが、どうされますか? リーダーにお会いしたいそうです」


<リーダー>

「モグラ教団だって? わかった。通してあげて」


<カイル>

「はい」


 カイルはモグラ教団を部屋に招き入れる。


<モグラ教団の信徒>

「失礼いたします、ジャレス代表」


<リーダー>

「はじめまして。えっと、モグラ教団の皆さんは俺たちに何か話でもあるんですか? あいにくお金はなくて、多額の寄付を求めていらっしゃったのなら……」


<モグラ教団の信徒>

「ご安心ください。お金の無心ではありません。お互いに資金難でしょうからね」


<リーダー>

「ご理解いただけているようで……では?」


<モグラ教団の信徒>

「今回の大日本同盟の締結に関し、我々モグラ教団はジャレスの皆様とお話があるのです。聞いていただけますか?」


<リーダー>

「その話でしたら、ぜひ聞きましょう」


<モグラ教団の信徒>

「かねてから我々は神聖日本王国で反戦と平和を訴えてきたのですが、それを王に代わって軍が主導権を握った政府に見咎められ、厳しく弾圧されることになったのです」


<リーダー>

「それは大変ですね」


<モグラ教団の信徒>

「はい。優れた司祭であったツチミコ様はすでに処刑され、新しく総司祭となったサダマサ様は軍に幽閉されております。信者の多くも……」


<リーダー>

「……驚きました。大変どころの騒ぎじゃありませんね。となると、教団としては放っておくわけにもいきませんよね?」


<モグラ教団の信徒>

「はい、もちろん。教団のことは最悪、あきらめもつきます。しかしこのままでは神聖日本王国が独裁者となった軍によって滅んでしまうのではないかと、それが不安でなりません」


<リーダー>

「なるほど……。でしたら我々で共同して、軍事政権を打倒するための日本解放戦線でも結成しましょうか。まずは幽閉されている彼を救い出しましょう」


<モグラ教団の信徒>

「それは心強い言葉です。そのためであれば、我々モグラ教団も全力を尽くしましょう」


<リーダー>

「申し訳ないですね。あなた方は武装組織ではなく、戦争に振り回されているだけなのに」


<モグラ教団の信徒>

「お気になさらず。我々モグラ教団の信者はすべて、我々と我々の神のために、生きながら命を捧げているような人間ばかりですから」





 戦地を転々とするムー軍のマックス隊。

 悲壮な雰囲気はなく、戦争を楽しむマックス。


<マックス>

「なるほど。今日の相手は政情不安定な神聖日本王国軍か。んん、戦う前から肩慣らしって気がしてくるぜ」


 戦闘が始まり、神聖日本王国軍を圧倒するマックス隊。


<マックス>

「はっはっは! 俺様のように気楽に生きてみろよ、地底に生きる馬鹿どもめ。戦う前から切羽詰ったお前らに、本当に守りたいものを見定めるだけの余裕があるのかよ!」


<アル>

「守りたいもの……果たして彼らは何のために戦っているんでしょうね?」


<マックス>

「自覚があるのかよ! お前らは馬鹿馬鹿しいほどに自分を正当化し、相手を卑下しなければ戦いの一つも生き抜けない! だが俺様は考えるまでもなく、純粋に勝利のみを目指す!」


<エル>

「……よせ、アル。戦闘で気が高ぶっている今の隊長に話は通じない」


<アル>

「だな。この通信は隊長の戦果報告ラジオでしかない」


<マックス>

「かっかっか! さあ、誰か一人でも反応できるか? この俺様の戦闘スピードに!」


<エル>

「す、すごい……! さすが隊長だ」


<マックス>

「正義だの悪だの、そういった概念に振り回されている人間に俺様が負けるはずがない! それを負けながら痛感するんだな!」





 翌日、今度はムーと大帝の戦闘。


<マックス>

「へーい、大帝の敵さんども! 地底最強の俺様が戦場に躍り出ますよっと!」


<アル>

「マックス隊長、敵を煽るようなことはおやめください」


<マックス>

「馬鹿か、お前は? 敵を煽ってんじゃなくて、俺様はお前らを鼓舞してやってんだろ!」


 しかし、予想外に苦戦したマックス隊が先に撤退を決める。

 敵軍の大将に無理やり通信をつなぐマックス。


<マックス>

「いやー、神聖日本王国軍は敵じゃないが、さすがに大帝の軍は強いな。この俺様でも恐れを抱くほどだぜ」


<五六三十>

「そちらが劣勢になるのも当然。この無礼で非常識な通信もそうだが、あたかもスポーツのように戦闘を楽しんでいるからだ。戦場に揺らぎを持ち込んでいるような愚か者に、決死の覚悟を決めた大帝の軍人は遅れを取らぬ。潔く負けを認めるがいい」


<マックス>

「負けだって? ハハハ! いいか、よく聞きやがれ。勝負の決着は俺様が勝つまでつかんのだ! わかるか? 負けと思えるのはすべて、この俺様が勝つまで保留されているに過ぎない。それを伝えてやろうと思ってな!」


<五六三十>

「……は?」


<マックス>

「だが! もし、どうしてもというのならば! そちらが先に勝負を降りて、今日のことは忘れても構わねえからな!」


 そう言って通信が切れる。


<五六三十>

「呆れた。百戦無敗とはよく言ったものだ。本人が負けを認めぬだけとはな」


 あっさりと機体を反転させるマックス。


<マックス>

「次の戦闘に勝負は持ち越す! 必勝の要は逃げ足だよ! 死ななければ勝つチャンスはいくらでもある!」


<アル>

「マックス隊長、お待ちください!」


<エル>

「俺たちも急いで撤退するぞ、アル!」





 ムー軍に付き従い、地底で戦闘を重ねるジャレス。


<宮川>

「あー、くそ! さすがに軍人が相手だとなかなか勝ち星をあげられないな。すんなり『俺たちの勝ち』と言える戦闘ばかりでもないか!」


<チャフカ>

「悔しがることはない。無事に生き延びているだけでもすごいことだ。この戦いで、どれほどの人間が傷を負い、命を落としたか」


<宮川>

「言われなくたって、もちろん、それはわかってる」


<チャフカ>

「なら大丈夫だな。今後、誰と戦場に出るとしても死に急ぐなよ。まあ、後ろに乗ってるだけのお前らと違って俺は敵を撃墜できているけどよ」


<宮川>

「それを言われると……ったく、世が世なら俺は……」


<チャフカ>

「おいおい、泣き言か? 世が世じゃないぜ、諦めろ」


<宮川>

「……そうだな、世界を変えるなんてさすがに無理だ。それなら俺は、俺自身を変えることにしよう。念のために聞きたいんだが、パイロットの技術と機体の性能では、どっちのほうが戦場を支配するんだ?」


<チャフカ>

「三度の飯より訓練が好きな俺からの忠告があるとすれば、どんなに実戦を想定していても訓練は裏切ることがあるぞ。だから技術と経験を過信はしない」


<宮川>

「だよな」


<チャフカ>

「何よりも自分が一番信用ならんからな」


<宮川>

「むしろその不信感こそが、この世の原動力かもしれない」


<チャフカ>

「自分が信用ならんから努力して、努力も信用ならんから、さらに努力を重ねる。ま、結局がんばるしかないんだろ」


<宮川>

「そりゃそうだ。もっと気楽に生きられたら、いいのかもしれないけどな」





 そんな戦闘の日々の合間、とりまと坂下の会話。


<坂下>

「とりまちゃん、これからますます戦う機会が多くなると思うけど、一緒に頑張ろうね」


 言いながらも坂下は少し浮かない顔。とりまは不安そうに頷く。


<とりま>

「……うん」


<坂下>

「……いや、ごめん。一緒に頑張ろうだなんて、いつもとりまちゃんに任せてばかりの僕が言えた言葉じゃなかったよ」


 坂下は俯く。つらそうな坂下を前にして黙り込み、とりまも同じく顔を伏せる。


<坂下>

「本当は、とりまちゃんには戦闘に出て欲しくない。本当は、君を守るために僕が戦いたい。けれど僕は本当に役立たずで、パイロットとして戦っている君のそばで見守ることしかできないんだ」


<とりま>

「……?」


 とりまは顔を上げて坂下の顔を覗き込む。


<坂下>

「とりまちゃん、一つだけ僕のわがままを聞いてもらっていい?」


<とりま>

「うん」


 とりまは坂下から目を離さずに頷く。


<坂下>

「君には君が望む生き方を選んでほしいんだ。たぶん君は自分の意志で戦いを選んでいるわけじゃないんだよね? ……本当に僕のわがままなんだけど、君には君の人生を楽しく、幸せに生きて欲しくて」


 坂下、とりまの顔を見れずに目をそらしてしまう。

 とりま、黙って笛を握り締める。


<坂下>

「ごめん、それじゃ……」


 坂下は背を向けて歩き出す。


<とりま>

「……あ」


 とりま、手を伸ばして坂下を呼び止める。坂下は驚いて振り返る。


<坂下>

「え?」


<とりま>

「……あ、あ」


 彼女は恥ずかしそうに、右手を差し出して握手を求める。


<坂下>

「え? もしかして、一緒に、これからも戦ってくれるの?」


<とりま>

「……う、うん」


<坂下>

「それが、とりまちゃんの選択なの?」


<とりま>

「うん」


<坂下>

「そっか、そう、なんだ。……うん。そうだよね、やっぱりみんなを守るために戦おう。泣き言ばかり言ってないで僕も頑張る。だから、これからもよろしく!」


 坂下は近づいてとりまの手を握る。とりま、頼もしい表情で力強く頷く。


<とりま>

「……うん!」

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