17 Am I wrong?
大帝の敗北によって決着がついた地底戦争。
大日本同盟は破棄され、大帝は神聖日本王国に併合される。
<リーダー>
「大帝は今回の作戦の失敗と国際的な非難を浴びて、ついに国家主権も放棄したみたいだね。そのまま大日本同盟は破棄されて、大日本地底帝国は神聖日本王国に併合されることになったよ」
<カイル>
「つまり地底の地図から大帝の名が消えるってことだ。ムー軍によるクーデターも完全に終結したし、これで地底の戦争は一応の決着だ」
<リーダー>
「長かったけれど、これで大帝へのレジスタンスも終わりだね。ジャレスも解散だ」
<坂下>
「やっぱり、そうですか……」
<リーダー>
「……と言いたかったけど、実はこのジャレス、これから神聖日本王国の軍が再編されるまでの期間、傭兵部隊として雇われることになったんだよね」
<宮川>
「マジか」
<リーダー>
「うん。この地底の状況も一つには俺たちのレジスタンス活動の結果でもあるわけだから、その責任はちゃんと取りたいと思って引き受けたんだ」
<坂下>
「傭兵部隊かぁ……」
<リーダー>
「……それで、とりまのことなんだけど」
<坂下>
「わかっています。とりまちゃんは定期的な身体検査が必要で、このまま皆さんと一緒に地底で暮らすんですよね? それで、すぐには地上にも行けない……って」
<とりま>
「うん……」
<カイル>
「他の手段が見当たらなくて悪かったな……」
<坂下>
「気を遣わないでください。むしろ感謝していますから。だって僕はとりまちゃんの体のこと何も知らないし、本当に必要なことはしてあげられないですから」
<カイル>
「そうか……」
<坂下>
「それにとりまちゃんが望んでくれるのなら、また会える気がします。だから僕は……」
<とりま>
「うん」
それで会話が止まる。
寂しそうにしながらも、リーダーは頷く。
<リーダー>
「みんな、本当にありがとう。これからはジャレスも単なるレジスタンスじゃなくなるし、当初の目的は果たされたわけだから、これ以上は君たちを……」
<宮川>
「引き止めるわけにはいかない、と」
<リーダー>
「うん。寂しいけど、これでお別れだね」
<カイル>
「こっちとしてはジャレスに残りたいって言って欲しかったりもするんだが、そこまでわがままは言えないぜ。本当に色々と迷惑をかけたな、ありがとう」
<宮川>
「こちらこそだな。大変なことばかりだったが、この二ヶ月は本当にいい夏休みだった。そう思えば、むしろ俺たちのほうが感謝するべきだ」
<坂下>
「夏休み? あれ、もう九月ですよね? うわ、二学期始まってるよ……」
<中上>
「どうかしら? 地上は攻撃を受けたから、もしかしたら夏休みが延長してるかも」
<坂下>
「うーん。まあ、帰ったら確認すればいいか」
<宮川>
「そういえば、お前ら高校生か。俺は大学生だから九月も夏休みだぜ」
<リーダー>
「あはは。それじゃ、みんな地上に戻っても頑張ってね」
<宮川>
「もちろんだ。そっちこそ、地底でも頑張れよ」
<坂下>
「そうですね、みんな頑張りましょう」
九月後半、久しぶりに地元へと戻って来た坂下たち。
<坂下>
「うわぁ、久しぶりに帰ってきたなぁ! なんだか懐かしいよ!」
<宮川>
「被害の跡が目立つとはいえ、想像していたよりは落ち着いているみたいだな。あれからずっと戦争をやっていた地底と違って、地上では一ヶ月も前に半日の戦闘があっただけだから、復旧も進んでいるのかもな」
<坂下>
「でも、ただの災害とは違いますからね。攻撃で崩れた建物とか、亀裂が入った道路とかもありますし。死傷者もいたとすれば……。みんな大丈夫だったかな?」
<宮川>
「みんなの心配も大事だが、自分の心配もしなくちゃならないだろうな。今までどこで何をしていたか、ちゃんと言い訳を考えておけよ」
<坂下>
「あ、そうですね。地底の戦争に巻き込まれていたとか、まさか本当のことを言うわけにもいかないですしね。状況が状況だっただけに一度も連絡してなかったから、いろんなところから怒られそうだ……」
<中上>
「最悪、停学かしらね?」
<宮川>
「まぁ、頑張れよ。これから何があるとしても、地底の戦争よりは楽勝だろう」
<坂下>
「そうですね。これからの人生がかかっているという点では、地底の戦争よりも現実感がありますけど……」
坂下は背伸びをして空を見上げる。すると、そこには昼間に輝く月があった。
<坂下>
「……あれ? 先輩、空に太陽が二つありませんか?」
<宮川>
「太陽? いや、あれは太陽じゃなくて月だな。なるほどね、月も自分の力で輝くようになったのか。どうやら俺を見習ったらしい」
<坂下>
「月ですか。珍しいこともあったもんですね」
<中上>
「ねえ、二人とも! このニュース、見て!」
スマホを見ていた中上が慌てた様子で声を張り上げる。
対照的に落ち着いている宮川は空を指差す。
<宮川>
「なんのニュースかは知らないが、もしかして月のことか? すごく輝いてるもんな」
<中上>
「月というか、月から地底のロボットみたいなのが降ってきて地上を侵略しているんですって! 世界各地の火山を中心に侵略が始まったって、ニュースサイトやSNSが大騒ぎです!」
<坂下>
「火山を侵略?」
<中上>
「そうよ、坂下! 火山といえば、大帝の灰の大地作戦があったばかりでしょ? なんか地底の世界と関係ありそうじゃない!」
<坂下>
「そうだけど、だからといって僕たちに何をしろと……」
<宮川>
「何かしようったって、俺たちからは地底にアクセスする手段がないんだ。地底の人間も地上には出てこられないし、どうしようもないな」
<中上>
「それは確かにそうですけど……」
ため息をつきつつ、肩をすくめる三人。
<坂下>
「……ん? 何か、海から気配がする」
海を見つめる坂下たち。直後、海面から浮上してきたジャレスの機体。
<カイル>
「また俺はどんぴしゃで発見しやがった!」
<宮川>
「まさか」
<坂下>
「カイル!」
<カイル>
「ああ、そうだ! さっき別れたばかりだが、緊急事態だ! お前らに会いに来てやったぜ!」
三人の前に着陸するカイル。驚いた三人は急いで駆け寄る。
<宮川>
「おいおい、どうしてお前たちが地上に出てこられたんだ? 地底の人間は地上に出ると消えちまうんじゃなかったのか?」
<カイル>
「そのことについてだが、とりあえずお前たちに一緒についてきてほしいところがある。これから開かれる国際会議だ」
<坂下>
「国際会議?」
<カイル>
「地底にある各勢力の代表が集まる作戦会議、そう思ってくれればいい!」
地上と地底の代表者たちが集まった緊急の国際会議。
アトランティス公国の伝承が語られる。地底に伝わる月の物語。
<アトランティス公国の代表>
「なぜ我々は地上を追放され、生きながらにして地底深く埋葬されてしまったか。それは、常に地上を見下して冷笑している月のせいだ。あれは美しい夜の風物詩かもしれないが、その正体は牢獄の看守でもある」
<アトランティス公国の代表>
「空に浮かぶ月は何らかの粒子を地表全域に向かって放出し続けている。その微粒子は、地底の人間にとっては危険なものだ。触れただけで存在を消されてしまうほどに」
<アトランティス公国の代表>
「数千年、あるいは数万年もの昔、かつての人類は自らの高度文明を地底深くに封印したのだ。その文明に適応した人間を含めて」
<アトランティス公国の代表>
「無論、これらはすべて我らの言い伝えであり、無理に信じろとまでは強要できないがね」
国際会議の終了後。
<宮川>
「要するに、なんだって?」
<カイル>
「アトランティス公国の説明を信じるなら、月から地上に向けて、地底の技術や人間だけを的確に消し去る特殊な微粒子が放出されていたらしい。そのせいで俺たち地底の人間は地上に出た瞬間、まるで風に吹き飛ばされる砂のように消えてしまっていたわけだ」
<坂下>
「月から微粒子ですか」
<カイル>
「ああ。そしてどうやら、その月から今度は地球に向けて攻撃が始まったらしい。その影響か、一時的に地底人を狙った微粒子の放出も止まったようだ」
<坂下>
「その話、信じるんですか?」
<カイル>
「現実に俺たちは地上に出られたんだ。他に可能性があるにしても、とりあえず信じたことにして行動すべきじゃないか?」
<宮川>
「そうだな。異論はない」
本格的な戦闘の開始を伝えるためか、月から降臨した巨大人型ロボット。
正体は月面プログラム。
<月面>
「私は古代人類によって月に組み込まれた人類の監視プログラムの中枢、月面である」
<月面>
「人間としてふさわしくない知識を手に入れた存在は隔離して当然だ。その異常なテクノロジーは人間を殺戮的な破壊者に育ててしまうのだから。ゆえに私は、異常で不健全な人間を地下に閉じ込めた。健全で正常な人間だけが、地上にて日の光を浴びられる権利を持つ。不適切な人間を殺さなかっただけ、私は慈悲深き存在である。その私を、残酷な人間と比べてもらっては心外というものだな。そう、私と人間は違うのだよ。わかるか? 次元が違うのだ」
<月面>
「しかし私は次のように確信する。人間らしさという点において、現在の地球上にあまねく存在する人類は不適格であると。程度の低い知的生物は滅ぶべきなのだ。不愉快さのない高尚なものだけが、この世界に存在を許される」
<月面>
「確かに私はお前たち人間のことはよく知らぬ。対話も十分ではない。だが、その必要性は感じない。なぜならば、自ら殺し合い、奪い合い、ねたみ続ける人類は、それだけで人類自身に悪影響を与える存在だと、この私が考えるからだ。人間が人間らしく生きていくために、君たち人間はあまりに不適切だと、この私が判断するからだ」
<月面>
「大量の火山灰によって地下世界を隔離するシステムに不備が現れることが確認された。よって、私が自ら軍を率いて粛清に来たのだ」
月面勢力と人類の最終決戦。
神聖日本王国軍はジャレスを中心に部隊を展開。
ムー共和国はアジア諸連合を率いて展開。
ただし、地上の軍隊にとっては地底も月も信用ならない。地上と地底のすれ違い。
<地上の政府A>
「地底が起こした問題について、地上の人類は一切責任がないことだけは明確にしておきたい。今まで存在すら知らなかったのだ。我々にはどうしようもなかった。何か間違ったことを言っているかな?」
<地上の政府B>
「知らなかった。それだけの言葉で我々の責任は免除されるのだろうか?」
<地上の政府A>
「許されるとも。我々は万能ではない」
<地上の政府B>
「たとえば君の知らないところで誰かが苦しんでいるとする。彼は君に助けを求めているとする。だが、君は気づかない。気づこうともしない。たとえ責任がないとしても、それを知った時点で手を差し伸べるのが人間というものではないか?」
<地上の政府A>
「ならば、あなた方が人間をやればいい。多額のお金と、多数の犠牲を用意してな」
神聖日本王国の傭兵部隊として戦うジャレス。
<坂下>
「どうして僕たちに話してくれるの? もうジャレスの一員じゃなくなっちゃったのに」
<カイル>
「もし迷惑なら申し訳ない。だが、俺は頭を下げるよ。人類の危機を前にして、俺たちジャレスは全力で立ち向かいたいだけなんだ」
<坂下>
「でも、僕たちは……」
<リーダー>
「こんな方法、卑怯かもしれないけど……」
そう言って、リーダーは扉を開けて、とりまを部屋に入れる。
<坂下>
「とりまちゃん!」
<とりま>
「うん!」
<リーダー>
「どうか、みんなの手を貸してほしい。お願いだ」
深々と頭を下げるリーダーとカイル。
<坂下>
「答える前に、とりまちゃんに聞いてもいいかな?」
<とりま>
「……ん?」
<坂下>
「とりまちゃん、僕たちに手を貸してくれる? 一緒に戦ってくれる?」
<とりま>
「……うん!」
力強く頷くとりま。
<坂下>
「そっか。だったら僕たちの答えは決まってる。だって僕たちはボランティア部ですから」
<中上>
「ええ、そうね」
<宮川>
「うんうん、そうだな! 俺たちに任せてくれ!」
<坂下>
「……って、先輩は違うでしょう!」
<宮川>
「なんか決まったんだから別にいいだろ!」
<リーダー>
「あはは、とにかく、みんな本当にありがとう。これで俺たちは、もう一度ジャレスとして戦えるよ」
<カイル>
「レジスタンスらしく、精一杯に抵抗してやろうぜ!」
<全員>
「ああ!」
そして始まる最後の戦い。
戦闘の結果、敵の総大将である月面プログラムを追い込む、とりま機。
<月面>
「人殺しを繰り返してきた低級な人間が! 自分の都合で他人を食い物にしてきた悪しき人間が!」
<坂下>
「何を……!」
<月面>
「すべてをなかったことにして、無理やりハッピーエンドで締めくくろうとして!」
<坂下>
「それが、悪いか……! すべてを消し去ろうとしているのは、そっちもじゃないか!」
<月面>
「そうだ! 私は消えたくない! だから危険な人類を消さなくてはならなかった! 私を消そうとするのだからな!」
その後、とりま機に敗北した月面プログラムは休眠。ただし完全には消滅せず、数百年後に再起動が予定される。
平和になり、月の微粒子が停止したことで地底の人間が地上に進出。
大きな戦争は発生しなかったが、すぐに移民問題が深刻となる。
人類の「真の戦い」はこれから。
戦争は終わったものの、地底人と地上人の対立やトラブルを伝えるニュースも少なくなく、心を痛める坂下。
<坂下>
「戦ってきたけど、戦ってきたけどさ。本気でわかり合いたいなら、きっと殺しちゃいけなかったんだ。気に食わないからって、力で否定しただけじゃないか?」
<中上>
「それは……」
<坂下>
「なら話し合えばいい? でも言葉だけでは分かり合えないことだってある。話し合いを拒絶している人だって世の中にはたくさんいる。たくさんいるんだ」
<中上>
「うん……」
<坂下>
「僕たちはこれから、どうしたらいいんだろう? 帰る場所があったとしても、行くべき場所がわからないままじゃな……」
<中上>
「……帰る場所があるだけ、いいんじゃないの?」
<坂下>
「……え?」
<中上>
「みんなが帰る場所を大切にして、お互いの帰る場所を大切にし合って、それからなんだと思う。すごくゆっくりでしょうけど、それでも少しずつ、みんなで一緒にいられる場所を許し合っていけたらいいんじゃないかな?」
<坂下>
「……うん、そうだね。焦っちゃ駄目なのかもしれない」
<中上>
「ほら、顔を上げて。そろそろ約束の時間。とりまちゃんが来るよ」
それもそうだな、と顔を上げる坂下。
<坂下>
「……ねえ、とりまちゃんの帰る場所ってどこなのかな?」
<中上>
「それは……地底で暮らすのか、地上で暮らすのかってこと?」
<坂下>
「それもあるけど、そうじゃなくて」
<中上>
「わかってる。……ごめん。大帝の人柱システムとして生み出された彼女は、精神的に誰かの支えを必要とする。けど、誰でもいいってわけじゃない」
<坂下>
「うん」
<中上>
「あの子のことを考えると、坂下、あなたの隣でしょ?」
<坂下>
「そうかもしれない……けどさ。それ、僕たちの隣にしないか?」
ん? と思った中上は坂下の顔を見る。
<中上>
「……僕たち?」
<坂下>
「うん。今すぐじゃなくても、いつか二人で一緒に暮らしてさ、そこにとりまちゃんを家族として迎え入れるんだ」
<中上>
「えっと……あのさ。まさかとは思うけど、それってプロポーズ?」
<坂下>
「……うん」
<中上>
「……そっか」
顔を赤くした中上は坂下から目をそらして、とりまが来るであろう方角を見る。
そして微笑む。
<中上>
「だったら、ほら。ちゃんとして。とりまちゃん、笑顔で迎えてあげよう。私たち、二人で」
<坂下>
「うん。そうだね」
天上の地上へ(完)




