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離団・ 鐵道(トレイン)  作者: ハクタカ ヒバリ


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脱出一日目・午前 君は寒さに耐えれるか

日付が変わって、午前二時十五分になった。持ち物の最終確認をしたが、問題はなかった。

そして、私は服を寝間着から先日カバンに押し込んだ服に変えた。…せめて、書き置きくらいはしておこう…。

私は、謝罪、こんな事をした理由を書いて、布団の上においておいた。行先は書いてなかった。荷物はすべて揃ってる。しかし、どうも緊張するので、気を紛らわせるために本を読んでいたが、ついに二十五分になった。私は窓を開けて、下をのぞく。

少し風が吹いていて、二階とはいえ少し身震いする。そばには雨水用のパイプがしっかり通っていて、うまく伝っていけば降りられそうではある。だが、私の荷物はそれなりに重い。重さで下に引っ張られて怪我したら面倒くさい。私は手袋をしようと思ったが、あいにく左しかない。仕方がない。コレで降りるしかない。

私はもう一度下をのぞいたが、やはり怖いものは怖い。しかし、逃げる方法はコレしかない。意を決して、私は登り棒の要領でそのパイプに捕まった。

「うわッ」

意外と速い速度で降下する。途中、パイプをとめる金具に手が当たったが、何とか降りることができた。

やっと脱出することができた。

摩擦のせいか手がひどく痛むが、そんな事は言ってられない。私はそそくさと運動公園前電停の方向へ走った。路面電車が通っていないとはいえ、小道を通るより大通りを通ったほうが比較的安全だと踏んだからだ。

「結構痛かったなぁ…。…え…。」

私は、いまだに痛む右手を見た。が、小指の周辺をケガしていた。それも、結構広い範囲を…。

止めている金具に当たったときだろう。

あの時から痛かったので、容易に想像がつく。

後で薬局かコンビニに寄らないといけないが、薬局はまだまだ開かないし、二十四時間営業のコンビニも、このあたりにはない。最寄りのコンビニはここから駅の方にしばらく行った、坂上町にある。

それまで、右手は使えなさそうだ…。

…今思うと、警察のお世話にならないか不安だったが、私は女子にしてはあまりにも背が高い。具体的に言うと、一六九センチはあった気がする。

服や髪も相まって、夜の中で見たらまず成人男性に見えるはずだ。

その間も、私の右手からは血が垂れる。痛みはまだ引かない。必然的に、私の歩く速度は速くなった。

そんな事を考えてる矢先、雨がまた振り降り始めた。

とっさに傘を差したが、とうとう両手が埋まってしまった。不便ではあるが、コレしかないか…。

ところどころに街灯がある程度で、町はほとんど真っ暗だ。車通りもなく、ひっそり閑としている。

時々車が通るのだが、私は傘に顔を隠した。もしかしたら、異変に気づいた母が追いかけてくるかもしれなかったからだ。とりあえず、東田町までは警戒しなければ…。十数分歩くと、井原電停が見えてきた。ここには、日本で最もきつい鉄道カーブがあることで有名だが、もちろん今回は素通り。こんなところで道草食ってるわけにはいかないのだ。

明かりが消えた飲食店や、列車が来ないのにも関わらず電気が灯っている駅名看板を横目に、私はまだまだ進む。市電の通りにまで来ると、やはりと言うべきか、多少は車通りが出てくる。とはいえ、その大半はトラックだ。夜間のほうが迅速に荷物を届けられるのだろう。私も常日頃からネット注文をするので、心の中で感謝をした。

しかし、東田電停を過ぎたあたりで、遠くにパトカーの光が見えた。

別に悪いことをしているわけではないのだが、補導されると面倒なので、私は一つ内側の裏道に入った。

先程までは大通りだったので明かりも多かったが、裏道に入ると、街灯など交差点ぐらいにしかないため、不気味な雰囲気を醸し出している。

すると、正面右側の家から風鈴のような音がいくつか鳴り出した。

「ヒィッ!!」

思わず声が出てしまったが、本当に風鈴が風に揺れて鳴っているだけだった。

しかし、それが複数の家にあるために、私は少しビクビクしながら歩いていった。勝手に早足になる…。

その区間を越えて大通りに戻ると、先ほどまで歩いていた場所にパトカーがいた。

何とかやり過ごしたらしい。

…あ、そう言えば、この先に交番あるじゃん…。もうあの裏路地に回るのはごめんなので、私は不自然ならない程度に背筋を伸ばし、男の人に見えるような歩き方をした。

交番には一台のパトカーと、二人の警官がいたが、どうやら私を成人男性だと思ったらしい。

せ、セーフ…。なのか…な…。

しかし、そんな事をしているうちに東田坂上電停にたどり着いた。ここに最近コンビニができたのだ。元々は製麺所だったのだが。

案の定、こんな時間なのにそのコンビニはやっている。それに、数人利用者もいた。変な人たちではなさそう。

私は傘を置き、コンビニに入った。よく聞く入店音が店内に鳴り響いているが、私はそんなのお構いなしに、雑貨のコーナーに行って、絆創膏を探す。

あ、あった。少々時間がかかったが、何とか大きめの絆創膏を見つけた。…三百円か…。まあ、仕方ない…。自業自得だ…。いい勉強代になっただろ、と、自分に言い聞かせてそれをレジに持っていった。

店員も、私のことを成人男性だと見てるらしい。

高身長だった父に、改めて感謝しなければ。

店を出て、さっそく絆創膏の箱を開け、中から一つ取り出した。右手は使えないので、ほとんど左手で作業しないといけない。大変だったが、何とか開けることができた。

「うう…。痛い…。」

何と言うか、しみる痛さがあったが、貼り終えた後は

あまり痛みを感じなかった。

と言うか、怪我どころか血豆もできていることに、今気づいた…。…治るのに何日かかるんだろ…。

とりあえず、心配事が一つ減ったので、私の歩みは少し良くなった。その後も前畑、東八町と、市電の電停をたどって国道一号線に出た。ここまで来ると、明かりも多いし車通りも多い。危険はだいぶなくなった。

…少しはあるけど。

市電の通りも、丸みを帯びた特徴的な街灯が灯っている。歩道もかなり広く、歩きやすい。

今の時刻は三時十分。浜松方面の始発列車が五時三十分。まだまだ時間はありそうなので、のんびり向かうことができそうだ。

「あ、西八町の歩道橋、直ったんだ。」

市役所の近くにある大きい交差点のことだが、今まで工事で使えなかったのだ。

まあ、今日は使わないけど…。

その後も、札木、新川という電停を通り、とうとう遠くに豊橋駅が見えてきた。

駅前の通りは、いつものように電気がついている。が、やはり車通りはかなり少ないだけあって、

まるで人だけ消えたようだった。普段見ている景色なだけあって、余計に不気味だ。

「…あ、飲み物忘れた…。」

のどが渇いたのでカバンに手を伸ばしたが、飲み物を持ってきていないことに今気が付いたのだ。

「仕方ない…。自販機は高いけど…。買うか…。」

ちょうど駅前大通電停のそばに自販機があったので、麦茶を買った。

右手は相変わらず使えないので、脇に挟んで無理やり開けるしかない。

「ふう、生き返る~。疲れた時は麦茶だねえ。」

ひと時の休息を終えて、私は豊橋駅に着いた。

時刻は、まだ三時五十六分。あとおおよそ一時間半ある。暇つぶしのものもないので、

私は駅のデッキの端に来た。ここはちょうど線路が見えるので、多分貨物列車が見えるはずである。

…夜風に当たる中、私は一つ案を考えた。それは、寝台特急に乗る、というものだ。

さすがに一日で帰るなんてことはしたくない。でも、高校生を泊めてくれるような旅館があるわけがないし、夜行バスも行ける範囲が限られている。それに、あの空間に入りたくない。

そのため、寝ているだけで四国や出雲に行ける寝台特急サンライズ号に乗るのが得策だと思ったのだ。

…というのは三割建前で、本当は乗ってみたいだけなのだ。

なのだが、予約がいっぱいな可能性がある。今、スマホを見てみると空席があるのだが、私のスマホではネット予約ができない。だから現地で切符を買うしかないのだが…。

「大丈夫かな…。」

私はぽつりと言葉をこぼした。

その瞬間、貨物列車が駅を通過した。ここまで響く大きな音を立てながら、蛇の列車は西のほうに去っていった。それから、五時になるまでに三回くらいは貨物を見た。


五時になり、駅の改札が開いた。私はまず指定席券売機に向かった。

もしかしたら、ここでサンライズの切符を買えるかもしれないと踏んだからだ。

が、当然のことながら、切符は買えず。

私は普通の自動券売機で静岡までの切符を買った。なぜ静岡かというと、そこまでしか買えなかったからだ。まあ、切符はもらえるし、最悪乗り越し清算をすればいい。

私は改札口に切符を通し、八番ホームに降りた。

すでに人は何人かいて、私と同じように浜松行きの一番列車を待っている様子。

私は、まだ人が並んでいない乗り口に並んだ。

「…寒い…。もっと厚着してこればよかったかな…。」

歩いているときはまだ暖かかったのだが、雨も今は止み、風もあり冷える。

早く列車が来てほしいのだが…。すると、私の望みに答えてくれたのか、放送がかかった。

ーー間もなく、八番線に、五時、三十六分発、普通、浜松行きが、まいります。危ないですから、黄色い線の内側まで、お下がりくださいーー

機械らしい区切りの多いアナウンスが終わると、遠くから黄色かかった光が見えた。

今日一本目の列車がやってきたようだ。

「え、三一五系!?あ、そっか、豊橋浜松間も静岡地区だから…。」

やってきた列車は、JR東海最新の通勤車両、三一五系だった。

中央線の名古屋中津川間や、東海道線の熱海豊橋間の静岡地区などで運転されている。

昼間にほとんど見たことないので、なんか変な感じがしなくもない。だが、三一五系に乗ったことがないわけではないので、その辺は安心して乗ることができる。

ドアが開き、私は席に座った。外はまだまだ暗い。車内の明かりで外はぜんっぜん見えないのだ。

しばらくすると、ドアが閉まり、列車は発車した。時刻は五時三十六分。定刻で出発である。

「ふあ~あ、眠い…。そりゃそうか…。ほとんど寝てないもん…。」

何とか起きていようとしていたのだが、寝てしまった。走行音は、やっぱりよい睡眠音楽なんだなあ…。


目が覚めると、高塚駅に停まっていた。浜松駅の一つ隣である。

あいかわらず普通列車とは思えないスピードで爆走していたのだが、空も結構明るくなってきた。

時刻は六時ちょい。三時に寝静まったであろう母も、そろそろ起きるはずだ。

ま、通話拒否してるから連絡できないけどね。

心の中でそうつぶやくと、ドアが閉まり、発車した。

遠くに浜松のシンボル、アクトタワーが見えてきた。毎回これを見ると県を越えたと実感する。

ーー間もなく、終点浜松です。遠州鉄道線はお乗り換えです。ーー

列車は減速を始めてきた。新幹線も動き出し、隣を高速で通過するN七〇〇系新幹線が見える。

多分のぞみ号だ。

っと、駅に着いた。ドアが開き、私はホームにあった椅子に腰掛けた。私以外の多くのお客は通勤客なのか、バタバタと下の改札口へ歩いて行った。

ほんの少しの間ホーム上は静かになり、今度は東のほうへ行く人々がやってきた。私はあらかじめ並んでいたのでよかったが、そのままベンチに座っていたら、電車のシートに座れない可能性もあった。

今度の列車は三一三系だった。なんの変哲もない三一三系。一番よく見る。

ドアが開くと、すぐに乗り込んで座席を確保する。

静岡の車両は名古屋近辺とは違い、オールロングシート、すなわち横に長い座席なのだ。鉄道好きからは批判されているが、地元民からしたらこれがいいのだ。むしろラッシュの時間帯にクロスシート車、すなわち特急とか新幹線などにある、それぞれ独立した座席の車両が来ると面倒だ。とくにセントラル…。

おっと、これ以上はいけない。

結構乗り込んできたとはいえ、まだまだ余裕はありそうな中、沼津行き普通列車は発車した。

そして、例に漏れずまた寝ていたのだが、袋井駅から先は乗ったことがない区間。外の景色を見るために起きたのだが…。

「…人、多くない…?」

いつの間にか車内は通勤客でごった返していて、景色なんて何も見えない。

私は女だが、格好が格好なので、痴漢免罪をふっかけられたらたまったものじゃない。

なのでしっかり手は他人に当たらない位置に置いた。

厄介事に巻き込まれたら家出少女とバレるはずだから…。

…それにしても人多すぎない!?岡崎でもこんなに見ないよ?まあ、静岡は横に長い大陸だから、県内移動もそりゃ電車だよね…。

ーーまもなく、静岡です。お出口は右側です。静岡を出ますと、次は東静岡です。ーー

…乗り越し精算すれば東京まで行けるのだろうが、せっかくだし、静岡駅で降りてみよう。

駅も近くなってきたので立とうとするのだが…、

た、立てない…。人が多い、荷物が多い、傘もある。この三重苦で立ち上がるのに苦労した。

「へえー、静岡駅って意外と小さい…、のかな…。」

豊橋駅が無駄に大きいだけなのだが、いつもあの駅を見てると、こういう駅が小さく見えてしまう。

まあ、県庁所在地の駅だし、改札外は大きいのだろう。私は切符に無効印を押してもらって、それを譲ってもらった。駅員さんに申し出て、切符を持ち帰りたいと言えばもらえるのだ。

無効印のインクを乾かしながら、私は指定席券売機を探した。静岡駅はサンライズ号も停まる。切符くらい買えるだろうと思ったのだが、いまいち場所がわからない。予定の列車も近づいているので、やむなく諦めて熱海までの切符を買った。

ホームに上がると、待っていたのは三一三系…。なのだが…。

「うわ、ハッセントラル…。」

その三一三系は、塗装が違う。この車両は八千番台と言い、昔は中央線の有料快速"セントラルライナー"の運用に入っていた。そのために作った車両なため、普通の三一三系より豪華な設備だ。私は八千とセントラルをかけて、ハッセントラルと呼んでいる…。

だが、ラッシュ時間にクロスシート車、それもたった六両の車両を運用に入れたら、当然ほとんどの人が座れないわけだ。

当然、乗車が遅れた私も座れなかった。

ーーまもなく、清水、清水です。ーー

車内放送がかかった。すると、何ということか、ほとんどの人が降りる準備を始めて、かなりの空席ができた。すかさず私は窓際の席に座った。

静岡駅から三駅目だが、案外ここでみんな降りるんだな…。


さて、私はようやく静岡県の半分を通り抜けた。

これが、静岡県は大陸、と言われる所以で、とにかく横長で広いのだ。おまけに普通列車しか走っていないので、とにかく遅い…。と言いたいところだが、静岡県内の駅が少ないので、通過駅の設定が難しいのだろう。そもそも、快速を作ったところで時短効果は薄い。

時刻は八時をまわったが、母からの連絡の形跡はない。それだけが少し気がかりだったが、列車は三島に到着。熱海まで後少しだ。


ーー間もなく、終点熱海です。来宮、伊東、伊豆急下田方面の、伊東線、小田原、横浜方面の東海道線はお乗り換えです。ーー

この放送が流れても、列車はトンネルの中だ。

ここは丹那トンネル。全長約八キロを誇る、東海道線内最長のトンネルだ。

このトンネルを越えても、もう一本トンネルがある。

人間の熱海への執着は大変恐ろしいのだが、熱海は温泉地。多くの日本人が大好きな場所だろう。

かくいう私も温泉が好きなのだから。

「熱海かぁ…。前に来たのが六年前だね。」もう一回…、とは思ったものの、今回の目的地は東京。熱海は経由地だ。帰ったら籾治と行こう。

トンネルを抜けると、すぐに熱海駅のホームが見えてくる。山際に作られた駅なので、出口は在来線方にしかない。そこまで大きな駅じゃないから、困りはしないが…。

「…ここならサンライズの切符も買えるでしょ…。頼むよ…。空席があってくれ…!」

改札を出て、駅の外にあるみどりの窓口に向かったが、営業時間外だった。あと三十分で開くらしい。

「うう…、仕方ない…、お昼ご飯でも買いに行くか…。」

本当は魚とか食べたかったのだが、あいにくお金がない。コンビニのおにぎりを二つだけ買った。

しばらく時間を置いて待っていると、窓口が開いた。

開きかけて、さあ入ろうとすると、

「全部開くまで待ってください。」

「あ、はい…、すみません。」

うん、すごく恥ずかしい…。数秒したら全部開いたので、私は一番近い窓口に行って、

「サンライズ瀬戸の空席ってありますか?今日の利用なんですけど。」

と聞いた。

「サンライズ瀬戸ですね。少々お待ちください。…シングルデラックスが人席空いてますね。」

「…で、デラックス!?」

シングルデラックスは、サンライズ号のなかでも特にグレードの高い部屋だ。

さすがにそんな高価な部屋など当然買えるわけがなく…。

「それしか空いていないなら…、やめておきます。」

「そうですか。わかりました。」

そう言って、みどりの窓口を出た。直前にキャンセルが出るかもしれないから、それに期待するしかない。

東京までの切符を買っていると、また雨が振り始めた。これは、早めに東京駅まで向かいたい。

私はさっそくホームに上がり、やってくる列車に乗り込んだ。

「E二三一系…。何気に初めて乗るなあ…。」

入線してから少し時間が経っていたが、案外空いている。九時四十三分になったところで、列車が発車した。東京まで、あと少しである。

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