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逃走二日目・午後 心の保持の仕方

何とか3号車のトイレにたどり着いた。

だが、まだ列車は新花巻を通過したばかり。八戸どころか、盛岡さえまだまだ先なのだ。

トイレ伝い作戦をする以上、車内を何往復かしないといけないのだろうが、問題は戻りのときである。

さっき上野原カーダッシュマンの真横を通り過ぎたばかりなのに、今度はバッチリ顔が見える向きで歩かないといけない。

向こうだってバカじゃないんだから、次ばかりは見逃さないだろう。

車内をあらかた探したのかは知らないが、あそこに留まられると非常に面倒。

どうにかならないものか…。…あ、あの方法がある…。

私は、また1つ作戦を思いついた。しかし、それは盛岡に着いてからじゃないと発動できない。

今は、ここ3号車のトイレの中で待機するしか無さそうだ。

さっき新花巻を通過したから、もう少しで盛岡まで着くはず。

ある意味最終決戦の最中なので、私の心臓は今までにない速さで脈動を続けている。

作戦は立てた。あとは気の持ちようと運、それと自分を信じることが大切なのだ。


ーーまもなく、盛岡です。お降りのお客さまはお忘れ物のないよう、ご支度ください。盛岡の次は、八戸に停まります。ーー


車内放送がかかった。あと少しで盛岡。安心しなさい、真見。素早く行動すれば、見つかることはない。

私はそう自分に言い聞かせ、列車のドアが開くのをトイレの中で待った。


近くでドアの開閉音が鳴り響いた。盛岡に着いたのだ。私は新たな服を身にまとい、勢いよく外に出た。

別にこの駅で降りるというわけではない。

私は3号車デッキから列車の外を使って6号車のデッキに戻るだけだ。しかし、それをすれば車内にいるはずの上野原カーダッシュマンと相対することはない。

しかし、盛岡での停車時間はたったの1分だ。

少しでも遅れたら即終了。あまりにもハイリスクだが、ハイリターンでもある。

本当は絶対にやってはいけないのだが、何せ自分自身の安全がかかっているので、周りの人に注意しつつ、私は全力で6号車に向かって走った。

周りの目がきついが、どうせ2度と出会わない人たちだ。せめてほかの人に迷惑をかけないようにしよう…。

上野原カーダッシュマンは4号車にいるから、せめて5号車くらいには入りたい。

しかし、予想だにしないことが起こった。上野原カーダッシュマンが外に出ていた。

そして、これまた見たことがない、岡山二人組とも仙台男とも違う人と話をしていた。

十中八九、この新たな男も追手の1人なのだろう。

しかし、そんなことを気にしている暇はない。

まだ向こうはこちらに気づいていない。

今のうちに…。

「あ、て、てめぇ!待ちやがれ木村真見!!」

まずい!!バレた!!幸い少し距離が空いていたものの、すぐに追いつかれる!

私はすぐさま車内に戻った。4号車の5号車寄りデッキだ。

そのまま車内を進んでいく。

恐らくあの2人も車内に戻って私を追っているはずだ。

列車の中なので、どうしても素早さに限度が出てくるが、それでも私は必死に進んだ。

そして、無我夢中で進んだので、とうとう8号車デッキにまで来てしまった。

ここから先はグリーン車とグランクラスのみ。どちらも今私が手にしている切符では立ち入りできない。

が………。

「………何とかまだ行ける……。一か八かか………。」

私の財布の中は、あと数万円しか入っていない。気づけば、今までの貯金のほとんどを使い果たしていた。

しかし、お金で命は買えない。私は意を決して、グリーン車である9号車に立ち入った。


「すみません、急用でグリーン車を利用したいんですが、空きはありますか?」

「空席の状況を確認しますね。少々お待ちください。」

私は息切れしながら9号車にいた車掌さんにグリーン車切符の手配を頼んだ。

苦渋の決断ではあるが、私はグリーン車を再び使うことにした。

通常、普通車の切符のみを持つ人はグリーン車に立ち入ることはできないが、車内で追加の料金を払うことでグリーン車切符を手に入れることができる。

「空席が何席かございますが、座席のご希望などはございますか?」

「特にはありません。どこでも大丈夫です。」

「かしこまりました。…切符の発行ができました。」

急いでいるので、席の指定なんてやってられない。

私はこれまた決して安くはない代金を払い、グリーン車切符を手に入れた。

しかし、今の私は追われている身。悠長にグリーン車の座席を楽しむ余裕などもちろんない。

私は9号車と10号車の間にある、(例に漏れず)トイレに駆け込んだ。

ただでさえグリーン車は入りづらいうえ、個室であるトイレに入られたら向こうは太刀打ちできないはずだ。

何とか場所を確保したところで、父からメールが届いた。

ーー八戸に着いた。真見が乗っている新幹線がどのホームに着くか教えてほしい。すぐにそっちに行くから。ーー

という内容だった。

私は時刻表をスラスラとめくり、確認した。

13番線らしい。私はその内容と今いる号車をすぐに送った。


私はいわて沼宮内、二戸の通過をトイレの中で確認した。



ーー間もなく、八戸です。お降りの際はお忘れ物のないようご支度ください。八戸の次は、新青森です。ーー


私は降りる準備をした。

しかしまだまだ油断はできない。ドアが開くまでは、やはりここにいるしかない。

そして、数分すると慣性の力で前に倒れそうになる。

列車が到着したらしい。

私は、やはり警戒をしつつ、デッキに出た。

そして、列車からホームに出る。

そこに待っていたのは、追手ではなく、父だった。

「お父さん!!」

「真見!!」

私は待っていた父の腕のなかに飛び込んだ。

安心感からか、私の目から自然と涙があふれかえった。

「すまなかったな…、真見…。父さん、お前のことをずっと1人にしてて…。」

「お父さん…、怖かったよ……。」

私はしばらく泣きじゃくった。

そして先ほどまで乗っていたE5系はやぶさ号が発車したあと、私の心もようやく落ち着いてきた。私は一旦、釧路にある父の家に行くことになった。


「もしもし。」

「もしもし、籾治…?」

「あ、真見ちゃん!?」

父の家に着いたとき、すでに20時になっていた。あのあと私たちは、新函館北斗まで北海道新幹線に乗った後、特急で道東方面に向かった。八戸に着いたときが13時半なので、4時間半かかっているわけだ。何も気にせず北海道新幹線と北海道内の在来線を楽しめたので、それはよかった。

ようやく安心できる場所にやってきた私は籾治に連絡をした。今まで支えてくれた親友に連絡しないというのは、失礼なのだ。

「何とか、たどり着いたよ…。」

「…はぁ〜よかった…。ずっと心配してたんだよ?」

「ごめんね…。でも、私は無事だから。そのうちそっちに寄るよ。」

しばらく雑談をした後、私は父が用意してくれた布団で寝た。

明日から、いろいろ忙しくなるらしい。

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