↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイラの実りが揺れる声  作者: 夜霧ランプ
第九章~旅する執筆家~
85/90

第五話「旅の思い出」

 三番島東側の最東端まで行った後、僕は帰路に就いた。公共交通が行き届いていたので、車が無くても移動は難しくなかった。

 最東端は、先が海に成っている崖の上に、石碑があり、「此処に到達した人々へ」と言うメッセージが書かれていた。

「此処に到達した人々へ。この地は五つの陸塊と二つの極地を旅した者達が、最後に到着した、理想郷の果てである。

 この陸塊の西側の、恐ろしい天候と、絶壁のような山が探索を遅らせた。私達の成し得た旅を辿ってくれたあなた達に、当時の私達の得た賞賛を送る」

 そう言った文章が、墓石のような丈夫な石に、細かく刻まれた居たのだ。

 僕は、道中を公共交通に任せてしまった……何だったら、三十分以上歩く距離はタクシーまで使った自分を、少し恥じた。


 そんなわけで、今は電車の中で、旅の思い出を思い出している所だ。

 キノとは三日間の宿泊の間に、大分仲良くなって、色んな観光案内の歌を歌ってもらった。

 その歌をヒントに、三番島の東側の「レアな観光スポット」を、入念に観察しに行った。

 生まれて初めて、鍾乳洞に実際に入り込み、中の湿った空気を嗅ぎ、冷たく濡れた岩肌に触れてみたりした。

 鍾乳洞の中の池を見たけど、「此処に飛び込んだら、どうなりますか?」と、ガイドの人に聞くと、「とんがってる石に腹を抉られますよ」と、笑顔で言われた。

 やっぱり、僕の書いて居た「星降る夜のカスパール」は、空想の中のおとぎ話なんだなぁ。


 メモのついでに、僕はキノと出会った町を舞台にした、女の子と男の子の冒険譚の設定を考え始めた。

 女の子の方のモデルはキノだ。小説の中の女の子は、キノの年齢に近そうな十二歳とした。男の子の方も、同い年くらいで良いだろう。

 丁度、思春期が始まる頃で、二人はあまり仲が良くない。

 女の子の方は、宿屋で歌と踊りのパフォーマンスをする仕事をしている。男の子の方は、海でカヌーに乗り、漁の仕事を習って居る事にした。

 男の子の方は、女の子に少なからず好意を抱いて居るんだけど、自分の心の中のもやもやをどう表現したら良いか分からなくて、女の子の仕事を邪魔したり、意地の悪いことをしたりする。

 まだ、男の子方は、攻撃性と恋心の区別がついて居ないとした。

 女の子の方は、男の子の「ツンデレ」なんて分かんないから、意地悪をそのまま受け取って、「この男の子は凄く意地の悪い、嫌いな奴」だと思っている。

 その二人は、やがて、町を襲う異変に巻き込まれて行って、その渦中で相棒になる事になる……と言う、単純にそこまでの流れを作った。

 最終的には、女の子と男の子の活躍で、異変を解決して、めでたしめでたしに成らな……ければならないんだよなぁ。

「読んでる子供が納得するエンディング」と言ったら、そう言うものだろう。

 だけど、僕もここ暫く、「ハッピーエンドに続くハッピーエンド」を描き続けて来て、何だか変化が欲しくなって来ていた。

 それに、本当に編集の人が言うみたいに、「ハッピーエンドだけが子供の納得できる終わり方」なのだろうか、と言う事が疑問だ。

 世の中では、あまりに刺激が強い話が多すぎて、子供達が「読んだ話を全部ホラーだと思う」って言う現象が起きて居るらしい。

 そう言う、情緒の歪みと言うか、今までの「子供像」が当てはまらない子供を作らないように、「刺激の少ない優しい話」が、大人達に好まれていると言う事は分かるんだ。

 だけど、子供達が、読んだ物語を全部ホラーだと思ってるのではなく、「そう言う物語だったら面白くないか?」と言う発想で、大人に伝えて居るんだった、彼等は「優しい話は、刺激が少なすぎてつまらない」と、思っているのかもしれない。

 だからと言って、子供達のドーパミンに慣れてしまった頭に、更なるドーパミンを放出させる物語を書いても……やっぱり情操教育上、良くない気がする。

 僕は暫くメモをぐちゃぐちゃと書いてみて、「纏まらないなぁ」と思いながら、車窓に目を向けた。

 夜行列車の外では、大きな丸い月が、果樹園を銀色に照らしていた。


 アナントは、すっかりお腹も具合も良くなって、元気にキャットフードを食べている。

 キリクスは、ヴィノ氏から「メリュー達の冒険譚」を聞いている。

 どうやら、彼等はヴィノ氏の隠れ家に、滞在しているらしい。

 ヴィノ氏の隠れ家は一戸建てではなく、庇の広いアパートメントだった。向こうは相変わらず雨のようだ。庇が大きいので、窓が雨粒で汚れる事もない。

 開放的な大きな窓がついているけど、窓全体を覆う遮光カーテンの影響で、家の中の明かりも外に漏れてないようだ。

「その後、アルゴ達はどうなったんですか?」と、キリクスが質問する。

 ヴィノ氏は語る。

「彼女達は、アプロネア神殿を離れて、理愁洛(レヴァンタス)の内陸の村に住む事になった。三人姉妹の医術師として、協力して暮らしている。

 彼女達のエネルギー変換能力は、邪気を発生させる以外にも、使い道があったからね。それに、物覚えの良い子達だったから、一般の薬学と人体構造学もすぐに覚えた。

 メリュー達の町は穏やかさを取り戻して、彼女達は相変わらず『有志自警団』として町を守っているよ。

 アン・セリスティアの一家も、明識洛(クオリムファルン)から、理愁洛(レヴァンタス)に引っ越した。

 何せ、アンは明識洛(クオリムファルン)の政府から『要注意人物』として、目をつけられたままだったからね。

 アプロネア神殿とアクロポリス医療団の職員達は、それまでの悪行が明るみに成って、法に裁かれた。

 ニーベルンゲン博士だけは、ミノン・フォーカスの血液から呪いに感染して、内臓がじわじわ石化すると言う難病にかかった。

 彼は、その症状で生き地獄を味わった後、治す手立ても無く病死したそうだ」

 その結末を聞いて、キリクスは「すっきりした顔」をした。

「それで、メリュー達は幸せに成ったんですか?」と聞くと、ヴィノ氏は少し考えるように視線をそらし、息を吸ってから、「まぁ、暫くはね」と答えた。

「確かに、この一件だけで『めでたしめでたし』にしておきたいけど、何せ、生涯って言うのは、色んな波乱万丈があるんだ」

 メリュー達の冒険譚は、まだまだ続いて行くようだった。


 それにしても、ヴィノ氏は何時まで経っても「物語を切り上げよう」って、言う気配を見せない。

 本当に、メリューと言う人物達が存在していて、その子達の「生涯の行く末」を見守ったような語り方をしている。

 その点をおかしいと思った事は無かったけど、最初の頃のヴィノ氏は「何処かの外国にいる女の子の話」として、メリュー達の話を語り始めたはずだ。

 だけど、僕が「追跡能力」を手に入れても、結局、七つの陸塊の何処にも「理愁洛(レヴァンタス)」と言う国は見つけられなかった。

 そうすると思い当たるのが、ヴィノ氏が宇宙人ではないかと言う、すごく前に持った仮説だ。

 もしかすると、何処かの「惑星アイラ」か、「惑星テラ」での事を、ヴィノ氏は話しているのかもしれない。

 でも、ヴィノ氏は、この惑星アイラで遺跡になっている「石船」には、乗って来ていないと言っていた。

 そうすると、宇宙空間を、何らかの方法で、遊泳してきた? と言う事になるんだけど。

 それもヴィノ氏の持って居る、「詮索しないほうが良い不思議な力」による現象なのだろうか。

 僕は周りの人に聞こえないように唸った。

 魔力が星の発している「力」なのだとしたら、ヴィノ氏は、元居た星から宇宙空間に行った後も、遊泳出来るほどの能力を維持していたと言う事だけど。

 謎は深まるばかりだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。