第六十六話 騎士たちの前衛キャンプ発見
焼け落ちたログハウスの跡地に戻ってきた。
かつての拠点は、今や黒焦げの瓦礫と化し、木材の残骸が無惨に散らばっている。
灰と炭の匂いがまだ漂っていて、足元の地面がほのかに熱を帯びているのを感じる。
いやあ、改めて見ると心にグサッとくる光景だ。
「……ひどいですね」
ミナギさんが静かに呟く。
いつも穏やかな彼女の声が、少しだけ震えている気がする。
「……まあな」
俺は無言で肩をすくめつつ、ウルフが鼻をクンクン嗅ぎ回る姿を見守る。
ゴーレムは少し離れた場所で、エネルギー切れのまま座り込んでいた。
まるで挫折したロボット兵士みたいに。
「かならず、防衛しましょう」
ミナギさんが強い決意を込めて言う。
その目は固く結ばれていて、彼女もこの森を愛してるんだな、と再認識させられる。
俺も負けてられん。
「そのために、まずはこいつを復活させるか」
俺はゴーレムに歩み寄り、研究所から拝借してきた赤い魔導バッテリーをセットする。
ゴーレム……これで戦闘モードになってくれたら、騎士軍だってなんとかなるかもしれない。いや、マジで頼むぞ……。
そもそも、このバッテリーを入手したのは、先ほどミナギさんの研究所に立ち寄ったおかげだ。
そこで分かったのが「ゴーレムに装填するバッテリーの色によって、用途やモードが違う」ということ。
通常の青バッテリーでは、学術用途がメインだったらしく、戦闘面ではイマイチ発揮されなかったらしい。
しかし赤いバッテリーは、ゴーレムを戦闘形態に切り替える力があるという……!
バッテリーをセットすると、俺のショップ機能ウィンドウにメッセージが表示される。
【充電 100%】
【モード:デストロイ】で起動します。
「デストロイ……って、なんかすごそうだな……」
ゴーレムがぐおおおおお、と低いうなるような音を立て、ゆっくりと立ち上がる。
俺は思わず期待で胸がドキドキ高鳴る……が。
特に見た目の変化はない。
「……ん?」
光沢が増えたり、装甲が厚くなったり、腕がドリルに変形したり、背中からキャノンが出てくるとか――そういう派手な展開は一切なし。
俺が首をかしげると、ウルフまで「がう?」と疑問顔。
ミナギさんもキョトンとして首をかしげる。
「え、こういうときって、もっとこう……変形とか、色変わったりとか、いかにもバトルモードっぽさが出るだろ普通!」
「どういう意味ですか?」
ミナギさんが不思議そうに聞き返す。
いや、ライトノベルとかゲームなら派手に変わるじゃん!
そう思っても言葉にはしないけどさ。
「いや、戦闘形態ならそれっぽくなるだろ普通……!」
ゴーレムもモノアイをパチパチ瞬かせて「……?」という空気。
ああ、期待ハズレってか……?
「いや、俺は信じてるぞ……大丈夫だよな、このバッテリー……」
そんな微妙な空気が漂ってるところに、突如として遠くから、ガヤガヤとした騒音が聞こえてきた。
「なんだ……?」
「この音は……自然の音ではなさそうですね」
「ちょっと、様子を見に行こう。嫌な予感がする」
俺たちは物音のする方へこっそりと近づき、慎重に様子をうかがう。
焚き火の煙や人声が多く漂ってきて、イヤな予感がしてならない。
見えたのは、森の一角を切り開いて設営された騎士たちの前哨基地らしきキャンプ。
数十人の兵士が配置され、木をバッサバッサ伐採して柵や見張り台を組み立てている。
中央の大きなテントには指揮官ぽい男が背筋を伸ばし、周囲を見回してる。
なんかムカつく。
「グランゼル王国の兵隊ですね」
「……本格的に準備してやがるな」
甲冑を身にまとった兵士が槍を持って巡回し、弓兵らしい奴らが周囲を警戒中。
カンカンと武器を研ぐ音や、焚き火のパチパチいう音が森に響いていて、不気味なほど統制が取れてる。
さらにキャンプの周囲には木材を組み合わせた簡易防壁があって、見張りの騎士が交代で立っている模様。
そこら中に罠とかありそうだ。
「……あれは普通の歩兵だけじゃないな」
よく見ると、特別な装飾を施した甲冑を纏う騎士たちも混ざってる。
士官クラスか、精鋭部隊か……なんにせよ普通に強そう。
「戦争準備……ってやつか?」
「ええ、これはただの偵察隊ではありませんね……」
ミナギさんが目を細めて、静かに呟く。
彼女もこの光景を見て相当ショックを受けてるのがわかる。
森に戦火が迫ってるんだ……。
「よし。手始めに、この騎士たちを撃退しましょう」
さらりと言う彼女に、俺は思わず「ほんとにできるのかよ?」とツッコミ。
ウルフが「ガウガウ!」と尻尾を低く振りながら警戒中。
ゴーレムは……微妙にモノアイが赤っぽく光ってる気がする。
ほんとに戦闘モードしてるのか?
「やってみなければ分かりませんわ」
ミナギさんが微笑む彼女の横で、ゴーレムが拳をギュッと握る姿にほんの少し期待してしまう。
もしかして、やる気満々? 頼むぜ、バトルモード……!
「さあ、いきましょう」
彼女の言葉に、俺はごくりと唾を飲んでうなずく。
ウルフが「ガウ!」と一声吠え、ゴーレムもズシンと足を踏み出し――こうして、俺たちはついに騎士たちとの戦いに向けて動き出した。




