第六十四話 魔導ゴーレムの希少性
俺は書物を読みながら、グランゼル王国についての情報を整理していた。
床に膝をついて、埃っぽいページをめくるたびに、バサッ……という乾いた音がする。
ミナギさんの研究所の片隅には、こうした歴史資料や軍事記録がごっそり詰まっていて、まるで図書館の一角のようだ。
「なるほどな……ここ最近、軍事国家としてどんどん勢力を拡大してるわけか」
つぶやきながらページを指でなぞると、凶暴な紋章を掲げた騎士団の挿絵が出てきた。服
装や甲冑のデザインが、俺のログハウスを焼いた連中にそっくりで、正直腹立つ。
ミナギさんが静かに頷いて、机に広げた地図を示す。
「ええ。そして、彼らは資源確保のために各地の制圧を進めているようです。この文献によれば、鉄や魔石の採掘場を求めて、森や山岳地帯を侵略しているのだとか」
「この森もその一つ、か……」
俺は深くため息をついた。
スローライフを謳歌してる間に、こんなやばい話が進んでたとはなあ。
ウルフが「ガウガウ!」と吠えながら、足元で落ちている地図の切れ端をクンクン嗅いでいる。
まるで「何か手がかりある?」って聞いてくれてる気がするけど……そう簡単にいくか。
「つまり、俺の家を燃やした連中は、森を拠点にして砦を築こうとしてるわけか……」
「その可能性は高いですね」
ミナギが真剣な表情で言う。
彼女としても、研究の拠点である森が蹂躙されるのは看過できないんだろう。
「……くそ、どうにかして撃退するしかないな」
腕を組みながら考え込む。
今のままだと森全体が戦争に巻き込まれてしまうし、そうなったらエルフ村や洞窟村の仲間たちも大ピンチだ。
スローライフどころか、普通の生活すら壊滅する。
「この森と古代文明の研究を続けるためにも、グランゼル王国に好きにさせるわけにはいきません」
ミナギさんが強く頷く。
頼もしい……。
ウルフも「ガウガウ!」と意気揚々だ。
そこで俺は思いついて尋ねる。
「助かるよ。ところで、魔導バッテリーは持ってないか? アレが必要なんだ」
すると、ミナギの表情が変わった。背後の棚をチラリと見やってから、少し警戒するような顔つきになる。
「……よくご存じですね。あれはとても貴重なものです」
「え、まあ、見たことあるからな。そんなに貴重?」
「ええ。魔導機を動かすために必要不可欠なエネルギー源ですが、生産技術はとうに失われています。現存数は極めて少ないし、ほぼ遺跡からの発掘頼みです」
ミナギさんの目が残念そうに伏せられる。
魔導バッテリーは、古代文明のロストテクノロジーなんだろう。
それがあれば、この森の防衛にも役立ちそうだけど……道のりは険しいか。
「なるほど……でも、それがあれば俺のゴーレムを動かして、敵に対抗できるかもしれない」
俺が期待混じりにつぶやくと、ミナギさんは急に目を見開く。
「え…! ゴーレムって、魔導ゴーレムのことですか?」
「あ、ああ。まあな」
「魔導ゴーレムを……使役しているのですか!?」
「最近は一緒に旅してたんだけど、バッテリー切れでストップしてんだよ」
驚愕の表情を浮かべたミナギさんが、再び何かを考えるように視線を落とす。
「なるほど……そうですか……それならば……」
「どうかしたか?」
「いいえ、こちらのことです」
ミナギさんは小声で何か独り言をつぶやいている。どうやらゴーレムに関して特別な興味を持ったらしく、棚からゴーレム関連の古文書らしき巻物を取り出してパラパラめくっている。
「それで、グランゼル王国軍の撃退ですが……」
あれこれ調べ物を終えた後、ミナギさんは改めて顔を上げ、俺をまっすぐ見つめる。
ウルフが「ガウガウ?」とやや緊張の面持ち。
「ああ」
俺も腕を組んで身を乗り出す。森の未来がかかってるんだ、ここが重要。
「そのゴーレム、一体いれば、おそらく可能です」
え?
いまなんていった?
「はぁ!? マジで!? あいつ、ちょっとは役に立ってるけど、そこまででもなくない!?」
なんかドジなところもあるしな。
正直、ゴーレムは強いけど、一機だけで軍隊を潰せるかというと不安がある。
けど、ミナギは意味ありげに微笑み、首を振る。
「魔導バッテリーがあれば、ゴーレムに秘められた“真の力”を引き出せるのかもしれません」
俺は彼女の言葉に「?」マークで頭がいっぱいだが、同時に期待感も湧いてくる。
まさかゴーレムにまだ隠された機能があるのか……?
「マジかよ……ゴーレムの真の力、ねえ……」
ウルフが「ガウガウ!」と吠え、俺も興奮を抑えきれない。
ゴーレムの真の力……これならワンチャン、グランゼル王国の砦なんかブッ飛ばせるかも?
「でも、そのためには魔導バッテリーが必要……?」
「はい。しかも、ただのバッテリーではなく、ある程度の容量と安定した出力を持つものが要ります。どこかの遺跡に眠っているか、私の研究所の備蓄を探すか、探求が必要ですね」
ミナギさんが再び書棚を巡り、資料をめくりまわしている。どうやら彼女の研究所にも、いくつかバッテリーの手がかりはあるらしい。
「俺のゴーレム……本当にそんな強力なヤツなのかな」
ただ、てがかりというか、とっかかりは見つかった。
グランゼル王国の騎士たちに対抗するために、俺はゴーレムの復活をまずは目指すのだ。




