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第六十三話 ミナギさんの手料理


「なんかめっちゃいい匂いするんだけど」


「ふふ、ちょうど晩ごはんの準備をしていたところでした。よろしければ、ご一緒にいかがですか」


「マジで!? ありがてえ……!」


正直この数日、まともな食事をしてなかっただけに、本当に助かる。


しかも異世界の研究者の料理とか興味深すぎるだろ……。


ウルフが「ガウガウ!」と喜びの尻尾アタックを繰り出しているのを見て、ミナギさんはくすっと笑う。


ミナギさんが食卓に並べた料理は、どれも見たことのない色合いばかり。


けど、その匂いは食欲をそそりまくる。


彼女が研究所奥の小キッチンで仕上げていたらしい。


ミナギさんが、献立を説明してくれた。


クリスタルベジスープ。


透明に輝く野菜スープ。


光る水で煮込まれたらしく、ほんのり甘くて栄養価が高い。


スプーンでかき混ぜるとキラキラ反射して綺麗すぎる。


ミスティフィッシュのグリル。


発光する魚を炭火で焼き上げたもの。


白身がホロホロほぐれるうえ、噛むとスパイスの香りがジュワッと広がる。


エルダーリーフブレッド。


エルフ村でよく食べられる薬草入りのパン。


見た目は緑色なのに香ばしくてほのかに甘い。


ドラゴンフルーツのコンポート。


甘酸っぱい果実をコトコト煮詰めたデザート。


見た目は真っ赤だが味は爽やかで、口いっぱいに甘みが広がる。


「おいしそうすぎる……!」


思わず感動しながらスープを一口すすると、


うまい!


甘みと旨みが絶妙に重なって体に染み渡る感じ。


しかも気のせいかもしれないけど少し元気出る?


「うっま!! ありがてえ、ありがてえ……!」


ミナギさんがクスリと笑う。


「よかったです。森の暮らしは不便なことも多いですが、こういう食事の楽しみもあるんですよ」


「いやいや、こんなの食べられるなら最高じゃん……!」


ウルフも俺の足元で「ガウガウ!」と尻尾を振り、床をトントン叩いて「オレもくれ!」とアピール中。


はいはい、ちゃんとお前の分もあるぞ……。


食事をしながら、俺は改めて研究所の内装を観察する。


部屋の壁には、魔導文字が書かれた巻物や、複雑な歯車と回路図がびっしり貼られていて、いかにも研究者の巣窟って感じだ。


端の棚には、水晶レンズや魔導式測定器がズラリ並んでる。まるで理科室か何かか?


「これは何だ?」


俺が謎の金属製パイプに触れようとすると、ミナギさんが笑って止める。


「それは古代魔導工学用のオシロスコープみたいなものですね。魔力の波形を可視化するための装置です。……乱暴に扱うと爆発するかも」


「爆発!? いや怖いって! 了解、触らないことにする……」


さらに視線を移すと、別のコーナーには年代物っぽい本が積み上げられている。


『古代遺跡解析録 第3版』や、『魔導技術の失われた脚注』なんてタイトルが見える。


ページの間からメモが飛び出しているのもあって、とにかく膨大な研究資料を抱えてるのがわかる。


「本当に色々研究してるんだな、ここ……」


「ええ、私が今まで調べた古代文明の情報はここにまとめています。どの巻物も大事なので破らないでくださいね」


「破らない破らない! 俺は本に対しては超丁寧だぞ」


「それで、ミナギさんはどうしてここに住んでるんだ?」


俺がスープをすすりつつ訊ねると、彼女は杖を机のそばに立てかけ、肩をすくめる。


「私は、少し離れた国の研究者なんです。もともと古代文明に興味があって、この森に遺跡があると知り、ここへやってきました」


「なるほどな……都会よりもこういうスローライフのほうがいいって感じ?」


「ええ、そのとおりです。人の多い場所より、こうしてのんびりと研究に打ち込める環境が性に合っています」


俺も頷きながらパンをかじる。


「それ、わかるわ。俺もいろいろあってこの森に住みついたんだけど、意外とスローライフも悪くないと思ってんだよね」


「ふふ、私たち案外気が合うかもしれませんね」


笑顔で答えるミナギさんの声に、どこか嬉しそうなトーンを感じる。


ウルフは「ガウガウ!」と笑ってるのか吠えてるのか分からんが、楽しげだ。


食事が一段落したところで、俺も自分のあれこれを話すことにした。


やっぱり研究者ってのは好奇心旺盛だろうし、俺の奇妙な活動にも興味があるかもしれない。


「エルフ村では巨大マンティスを倒したり、洞窟村に行く途中ではヴェノムホーネットの群れを撃退したり……最近は、化石発掘が趣味になってたりする」


「……え?」


ミナギさんは呆気にとられた顔で固まる。


そりゃ普通は信じられないよね。


巨大虫を倒したとか、ゴーレムを起動したとか。


「まあ、やればできるってやつだな!」


「魔導ステッキも持たずに、そんなことを……信じられません……」


「いや、何とかなるもんなんだよ、この世界。ちょっと工夫すればさ。つーか、戦闘はなるべく避けてるけどな」


ミナギさんは思案げに頷き、「あなたって……すごいんですね」とささやく。


ウルフが「ガウウ!」と胸を張ってドヤ顔(?)をしてて笑える。


「ところでさ、魔法ってこの世界じゃ一般的なのか?」


俺がふと疑問を口にすると、ミナギさんは少し意外そうな顔をしてから答える。


「まさか。魔法は古代文明の恩恵によるものです。私の持つ魔導ステッキも、現存するものはほとんどありません。非常に希少な遺物なんですよ」


「マジか……」


つまり、誰でも魔法を使えるわけじゃないのか。


じゃああの騎士たち……グランゼル王国はどんな武器を持ってるんだろ?


食後の一息ついたところで、俺は改めてミナギさんに事情を説明する。


焼け落ちたログハウスのこと、騎士たちが森を支配しようとしているらしいこと。


ウルフも「ガウガウ!」と補足してくれる……ような気がする。


「そんな……騎士たちが森を攻撃? それは由々しき事態ですね」


ミナギが声を落とし、表情を険しくする。


たぶんこの森の自然や古代文明を愛してる彼女にとって、戦乱が迫ってくるなんて最悪の事態だろう。


「俺としては、森を守るためにも、何か方法ないか探してるんだ。エルフ村や洞窟村のみんなも巻き込みたくないけど、力を借りざるを得ないかもしれねえ」


「わかりました。私もできる限り協力しましょう。研究所の知識や魔法を使って、できることがあるはずです」


「ありがてえ……!」


しかし。


「グランゼル王国かぁ。連中、どんな戦力で来るのかな……」


俺が深刻そうに言うと、ミナギさんは少し考え込んでから、棚の一角に向かい古い書物を取り出す。


「これは過去の戦争で使われた武器や戦術を記録した文献です。……貴方が参考にできるかもしれません」


「助かる……!」


俺は書物を受け取り、ページをめくる。

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