第六十二話 VSグランゼル王国の準備
未知の領域を表現したホログラムっぽい映像には、洞窟のような空洞がいくつも連なり、その先にさらに深い巨大空間があるように見える。
ウルフが「ガウガウ!」と吠え、「面白そう!」みたいな反応。俺も興味津々だけど、それって地底王国があるとかそんな話?
「でもな、ちょっと待った」
俺は巫女さんの話を遮り、困ったように眉を寄せる。
「あの掘削機、ベビードラゴン族のミートラットが逃げる原因になってたんだ。うちの商売にも影響出たし……だから動かすときは考えてほしいっていうか……」
「あら、そんなことが!? これは失礼しました」
ミナギさんが目を丸くして手を合わせる。
予想外らしく、さすがに驚いてる様子だ。
「いや、別にもう掘削機を壊せってわけじゃないんだ。動かすときは一声かけてくれたり、時間を調整してくれたりすれば大丈夫ってだけ。ミートラットには呼び寄せる装置も作ったから、逃げても戻ってきてくれるし」
俺が肩をすくめると、巫女さんはクスッと笑ってうなずく。
「優しいんですね、あなたは」
「え、いやいや……」
「そういうところが、ウルフさんがなついたところなのだと思います。私の目に狂いはなかった」
思わず視線をそらしちゃう。
ウルフが「ガウ?」と不思議そうに見上げ、俺はむやみに照れくさい気持ちでごまかしたくなる。
「ところで、ミナギさんはどこから来たんですか?」
俺の問いに、巫女さんは杖をそっと机に立てかけ、静かに言葉を選ぶように答える。
「私は……森を抜けた先の人間の国から来ました。私の国では、この森を大切に考えていて、必要な時以外は立ち入らないという取り決めがあります」
それって、地球でいう保護区みたいなもんか? まあ、異世界だし仕組みは違うんだろうけど……。
「私の国で崇拝するのが、そこにいるヘッジホッグ・ウルフの種族です。大昔、建国した王が、今のあなたと同じようにウルフと仲良くなり、ともに世界を旅したことに由来するとか」
へー、そういうことが……。
ラッキーすぎる……それで俺は疑われずにすんだのか。
ともあれ、さっきの話。
ふと不安がよぎる。
「……俺、勝手にこの森で商売してたし、ログハウスまで建ててたけど、それって大丈夫なのか?」
ミナギさんはクスリと笑って首を横に振る。
「少なくとも、あなたがここに来た理由が正当である限りは問題になりませんよ」
「ホッ……助かった。あ、でも……やっぱ不安は残るな」
ウルフが「ガウガウ!」と短く吠え、なんだか笑われてる気がする。
ま、いいか。とりあえず違法行為じゃないらしいし。
「それで……本題なんだが、ミナギさん。実は今、この森がマジでヤバい状態なんだよ」
俺は思い出したかのように、焦った声で話を切り出す。
騎士たちが森を支配しようとしていること、既に俺のログハウスも焼かれたことなど、一通り状況を説明する。
巫女さんは眉をひそめながら真剣に耳を傾ける。
「戦争……? 騎士たちがどこの国の者で、どんな目的を持っているのか気になりますわね」
「ああ、たぶん〈グランゼル王国〉って名乗ってたけど……詳しいことはわからない。やつらが森を支配して、砦を築くとか言ってたけど、このままじゃエルフ村も洞窟村も危ない」
「〈グランゼル王国〉……確かに、近年領土を拡大している軍事国家と聞いていました。まさかここまで進出しているとは……」
ミナギさんの声が震え、俺もつられて身構える。
今後どうなる? ログハウスが燃やされただけでなく、森全体が戦乱に巻き込まれたら、エルフやドラゴンたちは……。
「……私は、森とそこに暮らす者たちを守りたい。あなたと協力できるなら、力になりたいと思います」
巫女さんが静かにそう言ってくれる。
ウルフが「ガウガウ!」と尻尾を振り、「仲間増えた!」と喜んでるみたいだ。
俺も正直ホッとする。やっぱり一人じゃ不安だしね。
こうして、俺はミナギさんの研究所での状況を知り、彼女の協力を得られるかもしれないという希望を見出した。
森の外から来た巫女、俺、ウルフ、そして眠っているゴーレム……このメンツで森を守りきれるのかは未知数だが、とにかくやるしかない。
「でも、魔導発掘機とか地下世界の話も気になるな……」
「ええ。もし森が戦火に巻き込まれるなら、これらの魔導技術を活かして対抗策を考えることも必要でしょう。もちろん、無暗に掘削してミートラットを苦しめないよう配慮します」
巫女さんが穏やかに微笑むのを見て、俺は思わず肩の力が抜けた。とりあえず安心してもいいのか……?
ただ騎士の脅威は現実問題として迫っているし、ゴーレムだってバッテリー不足で動かない。
先は長いけど、少なくともミナギさんの研究所なら何か策がありそうだ。
「では、作戦会議といきましょう」
ミナギさんが提案する。
「ああ!」
「ですがその前に……腹ごしらえです」
ミナギさんは、ニヤリと笑った。




